2013年9月30日月曜日

2013年9月の教員不祥事報道

 月末の恒例,教員不祥事報道の整理です。今月,私がネット上でキャッチした不祥事報道は41件でした。後期授業が始まりネット探索の時間が短くなったので,オチがあるかもしれませんが,拾った分を記録しておきます。

 今月は,女性教員のケースが比較的多いように思います。同僚の財布を盗む,スーパーでの万引きなど,生活困窮に関わる犯罪が見受けられます。件の詳細を知りたい方は,記事名でググられたし。

 教員の不祥事報道収集作業は今年1月から始めていますが,1月は40件,2月は85件,3月87件は,4月は42件,5月は55件,6月は49件,7月は53件,8月は37件,そして9月の41件というように推移しています。総計489件。

 だいぶ数がたまってきました。もう少しで,地域,校種,性,年齢によるクロス集計にたえる数になるでしょう。教員の不祥事発生の条件分析です。今後も,記事収集を継続いたします。

<2013年9月の教員不祥事報道>
・中学校水浸しにした疑い、教諭を再逮捕へ(9/3,朝日,愛知,中,男,26)
・女子中学生徒の体触った男性教諭免職に 車や学校内でキス
 (9/3,埼玉新聞,埼玉,中,男,29)
・外国語指導助手、店で女性の腰など触った疑い (9/3,読売,長崎,高,男,33)
・帰省先でスカート内盗撮、小学校講師を懲戒免職(9/3,読売,京都,小,男,23)
・教員が突き飛ばし、生徒骨折 横須賀市立中、公表せず (9/4,朝日,神奈川,中,男,30代)
・いたずらを注意、平手で20人殴った野球部顧問(9/4,読売,兵庫,中,男,29)
・教諭が腹蹴り、中2男子重傷 横浜市教委、公表せず (9/5,朝日,中,男,40代)
・児童生徒、4人がけが 神奈川県教委、体罰の6教諭処分
 (9/6,朝日,神奈川,小41,高53,高51,高52,小45,中54 *性別は不明)
・高2女子の尻、駅ホームで触った支援学校教諭 (9/6,読売,大阪,特,男,44)
・「用足そうと思って」住居侵入…教諭を処分 (9/7,読売,福岡,中,男,50代)
・酒気帯び運転の中学教諭を懲戒免職(9/10,アットエス,静岡,中,男,54)
・女性教諭、同僚女性らの財布から現金盗む(9/11,読売,兵庫,小,女,27)
・「居酒屋で飲んだ」酒気帯び運転の女性教諭逮捕(9/12,読売,京都,中,女,45)
・暴行の疑いで教諭を書類送検(9/12,山形新聞,山形,小,男,40代)
・<懲戒免職>密輸とわいせつの2教諭処分(9/12,毎日,愛知,小男43,中男43)
・窃盗:小学校教諭が児童の積立金 容疑で再逮捕(9/12,毎日,広島,小,男,25)
・盗撮容疑で免職、酩酊し迷惑行為 群馬で2教諭を懲戒 
 (9/13,朝日,群馬,盗撮:高男54,迷惑行為:高男27)
・女性臨時講師、教員免許更新忘れ5か月教壇に(9/13,読売,大阪,特,女,38)
・麻薬密輸入など2教諭免職処分
 (9/13,読売,愛知,麻薬密輸入:小男43,わいせつ:中男43)
・体罰で教諭2人減給 部活で平手打ち、過剰指導
 (9/14,福島民友新聞,福島,高男30代,中男30代)
・小学校講師、うそ110番=軽犯罪法違反容疑で書類送検
 (9/14,時事通信,大阪,小,男,33)
・高校教諭 生徒289人の情報記載した手帳紛失(9/16,読売,岐阜,高,女,30代)
・忘れ物の罰、はだしでランニング…68人けが (9/17,読売,兵庫,中,男,20代)
・高校男子バレー部顧問が平手打ちの体罰 映像ネットに投稿で発覚
 (9/17,静岡新聞,静岡,高,男,41)
・「裸写真ばらまく」と脅した教員を懲戒免職(9/18,産経,埼玉,小,男,29)
・麻薬所持容疑、教諭逮捕(9/19,時事通信,神奈川,高,男,56)
・給食アレルギー事故で処分(9/19,時事通信,東京,小,男,29)
・セクハラ・中抜け…大阪市公募3校長、不祥事か
 (9/20,読売,大阪,セクハラ・中抜け・教頭に土下座させる)
・スカート内スマホ盗撮した小学校教諭、懲戒免職(9/21,読売,宮城,小,男,45)
・<飲酒運転>中学校教諭逮捕 「居酒屋でビール」(9/21,毎日,大阪,中,男,33)
・スーパーで万引きした教諭「生活費惜しかった」 (9/22,読売,埼玉,中,女,49)
・買春教諭を懲戒免職処分(9/25,アットエス,静岡,小,男,56)
・福岡・柳川高で陸上部監督が女子部員に平手打ち(9/25,読売,福岡,高,男,55)
・同僚の女性につきまといの教諭ら戒告
 (9/25,神戸新聞,兵庫,つきまとい:小男30代,セクハラ:小男50代)
・体罰で中1男子が手首骨折、教諭に押し倒される (9/26,読売,山口,中,男,40代)
・生徒平手打ちの教諭、戒告処分 茨城県立高
 (9/26,朝日,茨城,体罰:高男47,酒気帯び運転:高男28,盗撮:高男25)
・女子部員にスリッパ投げ平手打ち、女性教諭停職(9/27,読売,宮崎,高女32,高男25)
・女性看護師に一目ぼれ、つきまとった市立中教諭(9/28,読売,千葉,中,男,51)
・中学校長、酔って追い抜きざまに女性触った疑い(9/30,読売,宮城,中,男,58)
・知人女性にストーカー行為 館山の中学校教諭逮捕(9/30,産経,千葉,中,男,51)
・給料差し押さえに「火つけたる」 市役所に電話、容疑の中学講師逮捕
 (9/30,産経,大阪,中,男,53)

2013年9月28日土曜日

男性の年収の正規・非正規格差

 昨日の朝日新聞Web版に,「民間給与2年連続の減少,非正規と正規の差300万円」と題する記事が載っています。紹介されているデータの出所は,国税庁の『民間給与実態統計調査』です。
http://www.asahi.com/business/update/0927/TKY201309270334.html

 2012年調査より,正規と非正規とに分けた集計を始めたとのこと。それによると,2012年の平均年収は正規雇用者で468万円,非正規雇用者で168万円だったそうな。なるほど。記事のタイトルでいわれている通り,その差は300万円。スゴイ差です。

 ところで,雇用形態別の年収統計は,総務省の『就業構造基本調査』にも掲載されています。こちらは,公務員等も含む全有業者のものです。また,性別・年齢層別の細かいデータも知ることができます。

 私はこの資料を使って,男性雇用者の年収の正規・非正規格差がどれほどかを,仔細に明らかにしてみました。ファインディングスのいくつかをツイッターで発信したところ,みてくださった方が何人かおられます。ここにて,その全貌をご覧いただきましょう。

 まずは,15歳以上の男性雇用者全体の年収をみてみます。下表は,2012年の『就業構造基本調査』をもとに作成した,正規雇用者と非正規雇用者の年収分布表です。


 2012年10月時点でみると,年収が分かる正規雇用者は2,255万人,非正規雇用者はが638万人であり,だいたい「4:1」です。男性に限ると,まあこんなものでしょう。

 しかし,年収の分布はだいぶ違っていて,正規では300万円台,非正規では100万円台前半が最も多くなっています。低すぎないかと思われるかもしれませんが,10代後半や高齢層も含みますので,違和感はありません。

 この分布をもとに,正規と非正規の平均年収を出してみましょう。度数分布表から平均値を出すやり方は,ご存知ですよね。各階級の値を,一律に中間の値(階級値)とみなしてしまいます。年収300万円台の正規雇用者441.8万人の年収は,一律に中間の350万円と仮定するのです。上限のない1,500万円以上の階級は,2,000万円ということにしましょう。

 この場合,正規雇用者の平均年収は,以下のようにして求められます。全体を100とした相対度数を使ったほうが,計算が楽です。

 [(25万×0.3人)+(75万×0.5人)+・・・(2000万×0.6人)]/100.0人 ≒ 500.7万円

 男性の正規の年収は500.7万円ですか。同じ方法で非正規の年収を出すと187.8万円となります。男性だけのデータで,かつ公務員等も含みますので,冒頭の新聞記事で紹介されていた,『民間給与実態統計調査』の数値よりも高めになっています。これでみると,正規と非正規の差は312.8万円なり。結構な開きがありますね。

 これは全年齢層の男性雇用者の平均年収ですが,正規と非正規の差は,年齢層によって異なるでしょう。私は,男性の正規・非正規の平均年収を5歳刻みで計算し,各層の値をつないだ折れ線グラフを描いてみました。下図の左側は全国,右側は大都市の東京のものです。


 正規は加齢とともに年収がアップしますが,非正規はそれがありません。よって年収の開きはだんだん大きくなり,左の全国でいうと,50代前半では420万円もの差が出るようになります。東京はもっとすごく,同年齢の正規・非正規の差は553万円,倍率にすると前者は後者の3.3倍です。これはもう,「差」ではなく「格差」ですよね。

 上図から,よくいわれる正規・非正規の年収格差は,地域によってかなり異なるのではないかと思われます。私は,自分の年齢層の30代後半について,正規雇用者と非正規雇用者の平均年収を都道府県別に計算してみました。

 30代後半の男性といえば,バリバリの働き盛りです。自活を強く期待され,非正規の仕事といえど,それで暮らしを立てている者が大半でしょう。こういうことを念頭に置いて,この層に注目することとしました。

 下表は,算出された正規・非正規別の平均年収の一覧です。47都道府県中の最高値には黄色,最低値には青色のマークをしています。正規が非正規の何倍かという倍率も出し,参考までに,非正規雇用者の量的比重も添えました(右端)。


 正規・非正規の年収格差が最も大きいのは京都です。正規が465.3万円,非正規が183.4万円で,その差は2.54倍なり。一方,差が最も小さいには広島で,こちらは1.67倍にとどまっています。

 広島で差が小さいことの要因は,非正規の年収が高いことです。当県の非正規の年収は273.4万円であり東京よりも高く,全国1位です。

 7月13日の記事でみたところによると,この県では最近5年間にかけて,若者のワープア率や非正規率が大きく減じています。加えて,上表から分かるように,非正規雇用者の年収が全国1位ときた。広島では,どういうことをやっているのかしらん。県のホムペをみたところ,「ひろしま若者しごと館」,「若者交流館(広島地域若者サポートステーション)」といった機関での実践がなされているようですが,その内実は如何。
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/68/1176968923039.html

 最後に,上表の格差倍率を地図化しておきましょう。濃い色の県は,30代後半男性の正規・非正規の年収格差が(相対的に)大きい県です。


 首都圏や近畿圏が濃く染まっていることから,正規・非正規の格差は都市部で大きいように思えますが,最下位の広島をはじめ,大阪や福岡が白であることからして,そう単純な構造でもないようです。各県の政策の有様も影響していることでしょう。

 正規・非正規の待遇差はあって当然と考える向きもあるでしょうが,属性や地域によっては,許容範囲を逸しているとみられるケースも見受けられます。とくに,ここで重点的にみた30代後半男性などは,非正規といえど,それで生計を立てている者がほとんどです。この層にあっては,正規・非正規の格差が重くのしかかることでしょう。

 余談ですが,今朝の読売新聞Web版にて,無差別殺傷事件を起こした犯人の動機の統計が紹介されていました。トップは「自分の境遇への不満」が42.3%でダントツです。雇用の非正規化が進行し,かつ正規・非正規の不当なレベルでの待遇格差が放置されたままの現代日本にあっては,無差別殺傷事件のような惨劇を起こす予備軍が確実に増えてきていることと思います。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130928-OYT1T00192.htm

  私は,雇用の非正規化とは働き方の多様化ともとれるものであり,一概に悪いこととはいえまい,という考えを持っています。ですがそれは,非正規といえど人間らしい生活が保障される,という条件を伴う限りです。しかるに,非正規は給与も低く,保険も年金も全部自腹というように,各種の保障から疎外されています。これでは,いつまで経っても「非正規化」というタームは否定的な意味合いでのみ語られることになるでしょう。

 ここで私が言いたいのは,どういう働き方(生き方)を選んでも,人間らしい生活が保障される社会でありたい,ということです。この点は,今月26日発刊の『受験ジャーナル』(実務教育出版社)掲載の拙稿でも書かせていただきました。「若者の非正規化・ワープア化」というタイトルの記事です。よろしければ,こちらもご覧いただけますと幸いです。
http://jitsumu.hondana.jp/book/b122778.html

2013年9月26日木曜日

明治中期の学齢人員の組成

 昨日は,夕方の授業までの間,国会図書館に行ったのですが,職員さんにスゴイことを教えられました。著作権の保護期間が過ぎた明治期の官庁統計のほんとんどは,全文がネット公開されており,自宅でも閲覧できるとのこと。

 国立国会図書館の蔵書のデジタル化が進んでいるとは聞いていましたが,館内だけでなく,自宅でみれる資料も多くなっているとは。いやはやスゴイ。

 下の写真は,自宅のパソコンで映し出した,明治25年の『文部省年報』の一部です。学齢人員の就学状況の統計です。


 9月9日の記事では,明治23年の学齢人員の不就学者率を出しました。不就学者とは,卒業を待たずして小学校を辞めた中退者と,一度も小学校に通ったことがない未就学者の合算です。

 しかるに,明治25年以降では,未就学の理由ごとの人数も計上されています。今回は,明治25(1892)年の断面に注目して,学齢人員(6~14歳)の組成がどうであったかを,より仔細に明らかにしてみましょう。明治19年の諸学校令による近代学校体系樹立の6年後ですが,小学校への就学が期待されていた学齢人員のすがたは如何。

 私は,この年の学齢男女について,①就学,②中退,③未就学(貧窮による),④未就学(疾病による),⑤未就学(其他の理由による),の構成を明らかにしました。結果を面積図で表現します。


 男女とも就学が最も多くなっていますが,調査時点において小学校に通っていない不就学者も結構いたようです。女子では,貧窮という理由での未就学者が3割もいました,貧窮と疾病以外の理由による未就学率は約2割。これは,親の無理解などでしょう。

 農業社会で機械化も未進行であった当時にあっては,子どもといえど貴重な労働力でした。また,この頃はまだ,小学校でも授業料が徴収されていました。こういうことから,子を学校にやれない,ないしはやるのを嫌った家庭が多かったであろうと思われます。時代をもっと上がった明治初期では,民衆による「学校焼き討ち」が各地で頻発していたこともよく知られています。

 次に,地域別の統計もみていただきましょう。下の図は,都道府県ごとの構成比を表した帯グラフです。男女で分けています。


 男子は,沖縄を除いてどの県でも就学率が半分を越えていますが,女子はさにあらず。ほとんどの県で,赤枠の不就学者の比重が大きくなっています。

 学齢女子の就学率は,鹿児島では12.8%,沖縄では6.1%に過ぎません。代わって,これらの2県では,家庭の貧窮という理由での未就学者が6割以上もいたことが知られます。へえ,この辺りは,教育史の教科書に載っている全国統計からは分からないことだなあ。初めて知った。

 上図の青色は,小学校に通っている就学者の領分ですが,ジェンダー差が大きいですね。「女に学校(学問)はいらん」という考えの表れでしょうが,その程度は地域によって一様ではないようです。

 私は,男子の就学率が女子の何倍かを計算してみました。全国統計でいうと,先ほどの面積図から分かるように,ちょうど2倍です(71.7/36.5 ≒ 2.0)。しかし,県ごとにみると,値は大きく変異します。下のジェンダー倍率地図をご覧ください。


 北東北や南九州では,学齢子女の就学率のジェンダー差が大きかったようです。鹿児島では,実に5倍もの開きがありました(男子63.7%,女子12.8%)。私の郷里ですが,「・・・」という感じです。今から120年前の統計ですが,「男尊女卑の県」という通説,さもありなん?

 以上が,明治中期の断面でみた,6~14歳の学齢人員のすがたです。今でこそ,学齢の子どものほぼ全員が義務教育学校に就学していますが,昔はそうではなかった。また,性や地域によるバリエーションもきわめて大きかった。このことを押さえておきたいと思います。

 さて,昔の『文部省年報』が自宅で見放題ということが分かったので,戦前期の教育現実の発掘作業にも力点を置こうと思います。

 今度は,学齢が終わった後の進路分化の様相を明らかにしてみたいな。戦前期は複線型の学校体系でしたが,中学校,高等女学校,実業学校,師範学校など,多様な中等教育諸機関への配分構造はどうであったか。

 当時の資料は充実しており,入学者の家庭の職業なども知ることができるので,出身階層ごとの傾向も分かります。師範学校に入った者,すなわち教員を志したのはどういう階層の子弟であったか,という問題を追及することだってできます。

 さらに,中学校,高等学校を経て,最高峰の帝国大学まで上りつめることができたのは,同世代のどれほどだったか,という点も知りたい。

 原資料を自宅で思う存分見れる。この恩恵は,一部の研究者だけではなく,万人に開かれています。せいぜい活用しようではありませんか。

2013年9月24日火曜日

夫婦の就業タイプの国際比較

 世には無数の夫婦が存在しますが,就業という点で分類すると,夫・妻ともフルタイムでバリバリ働いている夫婦もあれば,夫がフルタイム就業,妻は家計の補助的なパートないしは専業主婦という型もみられます。わが国では,後者のいわゆる伝統的な夫婦が多いことでしょう。

 こうした夫婦タイプの構成がどうなっているかですが,国内の時代比較や地域比較はよく見かけます。しかるに国際比較の資料はないものかと前から思っていたのですが,PISAの生徒質問紙調査のデータを使うことで,実態を明らかにできることを知りました。

 PISAとは,各国の15歳の生徒を対象に,OECDが定期的に実施している国際学力調査ですが,対象生徒の生活や意識について尋ねる質問紙調査も含まれています。そこでは,父母の就業状態について尋ねており,①フルタイムで働いている,②パートタイムで働いている。③働いていないが,仕事を探している,④専業主婦(夫)・退職など,のいずれかを選んでもらっています。

 私は,各国の生徒の回答を,フルタイム就業(①)とその他(②~④)の2区分にリコードしました。こうすると,生徒の父母の就業組み合わせとして,2×2=4タイプが析出されることになります。

 最新のPISA2009の結果によると,父母双方の就業状態が判明する日本の生徒は5,503人です。このうち,父がフルタイム就業,母がその他という者が3,287人で最も多くなっています。全体の約6割が,こうした伝統タイプであることが知られます。

 では,想定される4タイプの内訳をみてみましょう。下図は,各タイプの相対量を正方形の面積で表現したものです。比較対象として,北欧のスウェーデンの結果も描いています。ちなみに,ここで提示するデータは,上記調査の未加工データを,私が独自に加工して作成したものであることを申し添えます。ローデータは,下記サイトよりDL可能です。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php


 日本では,「父フルタイム&母その他(パート,専業主婦等)」という伝統型が最多ですが,スウェーデンでは,父母ともフルタイムという生徒が最も多くなっています。母がフルタイムで父がその他という非伝統型が,わが国より多いのも注目されます。

 スウェーデンは,女性の社会進出が進んだ国といわれますが,15歳生徒の親世代夫婦(40代くらい)の就業組み合わせタイプにも,それが表れていますね。

 PISA2009の対象となっているのは74か国ですが,他の社会のタイプ構成も明らかにしてみました。その全貌を示すことはできませんが,量的に多い第1象限(右上)と第4象限(右下)の比重をご覧にいれましょう。

 下図は,横軸に「父フルタイム&母その他」型,縦軸に「父母ともフルタイム」型の生徒比率をとった座標上に,74の社会をプロットしたものです。


 フルタイム共働き型が伝統型より多い社会とその逆の社会は,数的にはほぼ半々です。大雑把にいうと,北欧諸国や米英仏は前者に属し,日本やアジア・アフリカ諸国は後者に属します。男女共同参画,女性の社会進出の進展具合を表す,一つの見取り図とみてよいでしょう。ドイツが右下にあるのがちょっと意外ですが・・・。

 昨年実施されたPISA2012の結果は,今年の12月に公表されます。2012年のわが国の位置はどうなっているでしょう。斜線(均等線)を越え,フルタイム共働き型が伝統型より多い社会の仲間入りを果たしているでしょうか。ここ数年の男女共同参画政策の成果は如何。

 なお,ここで検出した父母の就業タイプによって,生徒の社会化の有様がどう異なるかも興味深いところです。たとえば,フルタイム共働き型や非伝統型(父その他,母フルタイム)の家庭では,生徒,とりわけ女子生徒の将来展望はどういう方向に仕向けられるでしょう。

 PISAの生徒質問紙調査では,将来展望をはじめとした各種の生活意識についても問うています。父母の就業タイプをコアにしたクロス集計により,この点を吟味することが可能です。面白い結果が出ましたら,ご報告します。

2013年9月22日日曜日

幼子がいる共働き夫婦の家事分担

 家庭は,成員の生活保障・情緒安定を図り,子を育てることを主な機能とする第一次集団ですが,その機能遂行は成員の協働によってなされるべきものです。核家族化が進んだ現代にあっては,とりわけ夫婦間の役割分担が重要であるといえましょう。

 しかるにわが国では,家事の担い手が妻に偏している家庭が多いといわれます。夫婦ともに就業している共働き世帯であっても然りです。

 この点を可視化できるデータがないものかと,総務省『社会生活基本調査』の統計表一覧を眺めていたところ,夫・妻の家事時間別に世帯の数を集計したクロス表があることに気づきました。ありがたいことに,末子の年齢ごとの区分けもなされています。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

 最新の2011年調査によると,0歳の乳児がいる共働き世帯で,平日の夫・妻双方の家事時間が分かる世帯数は30万5千世帯です。これらの世帯を,「夫の家事時間×妻の家事時間」のマトリクス上に散りばめると,下表のようになります。

 前後しますが,ここでいう家事とは,「家事,介護・看護,育児及び買い物」の時間のことをいいます(用語解説)。


 平日の1日あたりの家事時間ですが,夫はゼロ,妻が10時間以上という世帯が5万9千世帯で最も多くなっています。全体の19.3%に相当。家事分担が妻に著しく偏した家庭が,全体の5分の1をも占めています。

 青色のセルは,妻の家事時間が夫より5時間以上長い世帯ですが,これらを合計すると24万4千世帯であり,全体の8割にもなります。

 これが,乳児がいる共働き世帯でみた,夫婦の家事分担の実態です。妻が育休取得中とか数時間のパート勤務とかいう事情もあるでしょうが,この偏りには驚かされます。

 さて,上記の表の位置に依拠して,夫婦間の家事分担のタイプ分けをしてみましょう。青色は先ほど述べたように,妻の家事時間が夫より5時間以上長い世帯です。妻に著しく偏した型であり,「妻≫夫」型としておきましょう。

 赤色は,妻の家事時間が夫より5時間未満長い世帯なり。これは,「妻>夫」型とします。緑色は,夫と妻の家事時間が同じくらいの「均等」型です。最後の紫色は,夫の家事時間が妻よりも長「妻<夫」型なり。

 上表の30万5千世帯をこの4タイプに分かつと,「妻≫夫」型が80.0%,「妻>夫」型が17.0%,「均等」型が1.6%,「妻<夫」型が1.3%,という構成です。夫が妻と同程度か,あるいはそれ以上家事をしている世帯は,やはり少ないですねえ。

 これは,0歳の乳児がいる共働き世帯の平日のデータですが,土曜や日曜ではどうでしょう。また,子どもがより大きくなった時点では如何。私は,曜日別・末子の発達段階別に,共働き世帯の家事分担のタイプ構成を明らかにしました。

 末子の発達段階は,乳児(0歳),乳幼児(1~2歳),幼児(3~5歳),児童(6~8歳),という4段階に分けています。


 仕事が休みの土曜・日曜では,「均等」型や「妻<夫」型の世帯の比重がちょっと増えてきます。「ちょっと」です。

 子どもの発達段階別にみると,乳児段階では「妻≫夫」型が多くなっていますね。上述のように,平日では全体の8割がこのタイプです。生後間もない乳児の場合,授乳など,母親でしかなし得ないことが多いためと思われます。しかし,土日でもこのタイプが半分以上とは・・・。

 曜日や子どもの発達段階といった条件による変異はありますが,上図を全体的にみて,青色や赤色の比重が大きいことが知られます。女性の社会進出とともに男性の「家庭進出」をも促すことで,緑色や紫色の比重を意図的に増やしていくことが求められるでしょう。

 乳児がいる世帯の平日では,「均等」型や「妻<夫」型はほんのわずか(2.7%)しかいませんが,これなどは,男性の育休取得が困難であることの表れであるとみられます。

 『社会生活基本調査』は5年おきの実施ですが,2016年データでは,どういう図柄になっていることか。男女共同参画の取組が盛んになっていますが,男女の共同参画は職域のみならず家庭においても求められます。

 政府が定期的に策定する『男女共同参画基本計画』では,上図でいう「均等」型ないしは「妻<夫」型が何%,というような数値目標を立てたらどうでしょう。こういう面の数値化・計測も積極的に行いたいものです。

2013年9月20日金曜日

いのちの格差

 「人生X年」の指標となる平均寿命。これは厚労省の生命表に載っていますが,市区町村別の生命表も作成・公表されていることを知りました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/ckts10/

 最新の2010年の市区町村別生命表をもとに,首都圏243市区町村の男性の平均寿命地図をつくってみました。展示いたします。


 243市区町村の最高値は82.1歳,最低値は77.1歳です。同じ首都圏でも,男性の平均寿命には5.0歳の開きがあることになります。これはレインヂですが,上の地図から,平均寿命には少なからぬ地域差があることが分かりますね。

 まあ,死というのは突発的に来るものでもありますから,個々の偶然が集積された,単なる「差」であるだけなのかもしれません。しかるに,色が濃い地域が都内の都心・南部,そして横浜市の北部というように,特定のゾーンに固まっていることからして,そうではないような気もします。

 近年,「いのちの格差」という現象がいわれるようになりました。人々の富の格差が,いのちの格差にまで連動してしまうことです。ズバリ,この現象の名を銘打った書物も公刊されています(患者の権利オンブズマン編『いのちの格差社会』明石書店,2009年)。
http://www.akashi.co.jp/book/b66074.html

 しからば,各地域の平均寿命の長さは,住民の富裕度(貧困度)と相関すると思われますが,実態はどうなのでしょう。都内の49市区について,代表的な貧困指標である生活保護世帯率を計算し,各々の平均寿命との相関をとってみました。

 生活保護世帯率とは,被保護世帯数を一般世帯数で除した値です。2011年の『東京都統計年鑑』から2010年の数値を採取して,地域別の率を明らかにしました。千世帯あたり何世帯かという単位(‰)で表記します。
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/tnenkan/tn-index.htm


 ほう。生活保護世帯率が高い地域ほど,男性の平均寿命が短い傾向が明瞭です。相関係数は-0.7082であり,1%水準で有意です。住民の貧困度が高い地域ほどいのちが短い。2010年の都内49市区の統計ですが,こういう事実は確かに観察されます。

 経済的な理由で受療できないのか,受療に対する意識が低いのか,あるいは健康的な食生活をしていない(できない)のか。それとも個々人のレベルを越えて,地域全体に,健康を軽視するようなクライメイトが蔓延することが大きいのか。いろいろな事情が想起されます。

 上図のような事態を,単なる「差」として放置していいのか。それとも,医療制度改革や各種の啓発活動等で是正すべき「格差」とみるべきなのか。議論はあるでしょうが,各地域の平均寿命が社会経済指標と強く相関していることからして,後者の見方をとるのが妥当であると考えます。

 富の多寡によって「生」までもが規定される社会,「いのちの格差社会」です。現代日本社会に,こういう一面があることを押さえておくべきかと思います。

2013年9月19日木曜日

職業別のブラック就業率

 昨日の『クローズアップ現代』で,ブラック企業の特集をやっていました。悲惨な実例がいくつか紹介されていましたが,「みなし労働」の制度が悪用されているケースが多いようです。
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3403.html

 所定内就業時間以外に「*時間働いた」と一律にみなすことですが,これは本来,外回り営業や記者など,就業時間が管理しにくい職業にのみ認められるものです。しかるに,就業時間が計測可能な職業にもこれが適用されているとのこと。企業の側は,どれだけ長時間働かせようと,「みなし」た分の給与だけ払えばよい,という構図です。

 こんなですから,事業所にある就業時間記録は,実情とかけ離れていることがしばしばでしょう。やはり,どれだけ働いたかは個々の労働者に聞かないといけないようですが,総務省の『就業構造基本調査』はこの条件を満たしています。

 同資料には,有業者の年間就業日数・週間就業時間の統計が載っていますが,これを使って,ブラック的な働き方をしている者の数を割り出すことができます。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 人手不足で長時間労働が常態化しているといわれる,お医者さんの例をみてみましょう。最新の2012年調査の結果によると,病院に勤務している正規雇用の医師(歯科医師,獣医師は除く)は168,400人です。これらの医師を,「年間就業日数×週間就業時間」のマトリクスに散りばめると,以下のようになります。


 ほう。年間300日以上&週75時間以上働いている,スーパーブラックの医師が最も多いではないですか。その数23,100人であり,正規雇用の医師全体の13.7%に相当します。7人に1人です。

 年間300日以上ということは,月あたり25日勤務,週6日ということになります。週6日で75時間以上ということは,1日あたり12~13時間。よって翻訳すると,週6日,1日12時間以上働いていることになります。1日4時間超,月あたり100時間以上の残業。過労死ラインを軽く越えています。まさにブラックです。病院のお医者さんの7人に1人が,こうしたブラック・ドクターであることが知られます。巷でいわれていること,さもありなんです。

 医師のブラック就業率は13.7%と算出されましたが,他の職業はどうでしょう。私は,67の職業について同じ値を計算してみました。以下に掲げるのは,ランキング表です。単位は‰としています。正社員1,000人あたりの数であることに留意ください。


 1位は宗教家で146.3‰です。昼夜問わずの布教活動なども職務に含まれているためでしょう。2位は先ほどみた医師,3位は法務従事者なり。法務従事者のほとんどは弁護士ですが,弁護士の常軌を逸した長時間労働もよくいわれるところです。

 編集者が8位。これも納得。私が知る某編集者氏からくるメールとか,発信時間が夜の11時を過ぎてることなんてザラだものなあ。

 学校の教員も高位にランクインにしていますね。教員の過労やバーンアウトの問題は広く知れ渡っています。教員のブラック率は30.1‰ですが,私立や部活指導がある中高の教員に限定すれば,率はもっと上がるのでは。

 公立学校の教員は公務員ですから,残業代もバッチリ払われていると思われるかもしれませんが,さにあらず。公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法によって,「教育職員については,時間外勤務手当及び休日勤務手当は,支給しない」と定められています。

 その代わり,時間外勤務を一律評価して教職調整額が支給されるのですが,これがまた安い。月給の4%相当。つまり,月給30万円の教諭なら,部活指導やら個別指導やらでどんなに働こうが,上乗せされるのは一律1万2千円ということになります。これも「みなし労働」かしらん。

 「みなし労働」悪用の典型は,1日あたり法定の8時間労働ということにして,12時間やそこら働かせる,というものでしょう。この「みなし」の相場を,業界の実労働時間の平均とかを参考にして決めることにしては。

 そのためにも,労働者の自己申告による就業時間の統計を丹念に収集することが求められます。性,年齢,地域,業種別等,いろいろな層を設けてです。既存統計はこういうことに用いられるべきであり,職業別・産業別のブラック率の表を定期的に作成・公表し,業界に注意を呼び掛けることも必要であると思います。

2013年9月18日水曜日

まなざし係数

 今世紀初頭の2000年における日本の人口構成をみると,15歳未満の子どもが14.6%,それ以上の大人が85.4%となっています(総務省統計局『世界の統計2013』)。10代後半も子どもですが,ここでは狭くとって,年少人口を子どもということにしましょう。
http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm

 この場合,子ども1人に対し大人5.85人となります(85.4/14.6 ≒ 5.85)。子ども1人につき大人約6人。現代日本では,子ども1人に大人6人の「まなざし」が注がれているのですね。

 この値の過去・現在・未来を,大雑把に観察してみましょう。わが国だけでなく,主要国のトレンドもみてみます。子ども1人につき大人何人か,という指標です。まなざし係数と呼んでおきます。


 少子高齢化の速度が速い日本は,20世紀後半期にかけて他国をゴボウ抜きし,これから先も,子ども1人あたりの大人の数は上昇することが見込まれます。2000年の値は5.85ですが,2050年には9.31にもなる見込みです。

 近未来の日本は,「子ども:大人=1:9」の社会になるのですか。このような社会は,他に類をみません。子ども1人に対し,大人9人のアツイまなざしが・・・。「それがどうした」といわれるかもしれませんが,これって,子どもが上の世代から被る圧力が強くなることを示唆しないでしょうか。下図は,その様相を表現したものです。


 子どもが多くの大人によって大事に育てられるのだから,結構なことではないか,という意見もあるでしょう。しかるに,その大人の中には,子どもにあれこれと文句をつけるのを生き甲斐にしている者もいます。「**教育をやれ」「**教育をやれ」と言うのを商売にしている道徳企業家も数多し。その中には,おせっかいととれるものも結構あるのですなあ。

 未来の日本は,子どもが手厚く保護される社会なのでしょうけど,子どもにとってさぞ「生きにくい」社会になっている可能性も否定できません。

 国際比較の対象をもっと広げてみましょう。私は,『世界の統計2013』に年齢別人口が掲載されている37か国について,上記の係数を計算しました。各国の現在と未来の数値をみていただきましょう。横軸に2000年,縦軸に2050年の値をとった座標上に,37の社会を散りばめてみました。点線は,37か国の平均値です。


 比較の範囲を広げてみても,日本はかっ飛んだ位置にあります。近辺には,イタリアやスペインなど,わが国と同様,少子化が進んだ社会がありますね。対極にはアフリカ諸国が位置していますが,これらの国では子どもが多いためです。タンザニアは,2050年になっても,「子ども1.2:大人1.6」という社会なり。

 度が過ぎた形容かもしれませんが,日本は子どもにすれば,大人の「まなざし地獄」の社会であるともいえます。先に記したように,2050年では,子ども1人に大人9人のまなざしが注がれるわけです。こうした人口条件はプラス・マイナス両方の側面を持っていますが,後者の面が色濃く出てこないよう,わわれわれは十分注意せねばなりますまい。

 大人の側は,自らが完成した存在であるかのように振る舞い,上から目線で子どもにあれこれ注文をつけるのではなく,自分とて未完成であり,子どもとともに学ぶ,時には彼らから学ぶ存在であるのだ,という自覚を持たねばなりません。

 昨年の3月12日の記事では,わが国の少年の犯罪率が成人よりも飛びぬけて高く,それは国際的な特徴であることを指摘しました。これなどは,大人の側が自分たちのことは棚上げして,少年だけを重点的に取り締まっているからではないでしょうか。「子ども1:大人9」となる2050年では,果たしてどういう事態になることか・・・。

 そういえば,著名ブロガーのちきりんさんがツイッターで面白いことをつぶやいておられました。引用させていただきます。いずれも9/16のツイートです。
https://twitter.com/InsideCHIKIRIN

●「『教育に関心がある』とか言い出したら,その人自身の成長は終わりってことです。」
●「『人に教える』のは、『自分が終わった後』にちょこちょこ稼ぎながら生きていくのにはいい選択肢です。でも『自分がこういうことしたいんです!』と言っている人の魅力には全く及ばない。」
●「一言でいえば,大学で教えたがるような人とごはん食べてもおもろい話はなんもない。」

 なるほどと思います。「子ども1:大人9」の社会において,大人の側に求められるのは,こういう気構えでしょう。

 私は,非常勤ながら大学で教える身ですが,「私の生き甲斐は学生の成長です。教育は私にとって天職です」などと公言するのは,控えたいと思っています,その前に,まずは自分のことをやろうかと。

2013年9月17日火曜日

大学教育のジェンダー観の国際比較

 9月12日の記事では,県別・性別の大学進学率を出したのですが,どの県でも進学率は男子のほうが高く,ジェンダー差が結構ある県もみられました。

 戦前期では,女子は大学教育を受けられなかったといいます。戦後になってそういうことはなくなりましたが,21世紀の現在でも,「大学教育はどちらかといえば男子にとって重要。子どものうち1人を大学にやるとしたら,勉強の出来に関係なく,男の子優先」。こういう考えの家庭も少なくないことでしょう。

 先の記事では都道府県比較をしましたが,スケールを拡大して国際比較はできないか,と考えました。あいにく大学進学率の国際統計はあまりないのですが,各国の国民が,大学教育の重要性の性差をどう考えているかを知ることができます。

 毎度使わせていただいている『世界価値観調査』(WVS)において,次のような設問が盛られています。たまには,調査票の設問の原文を掲げましょう。


 「大学教育は女子よりも男子によって重要である」という意見に賛成かどうかを,4段階で尋ねていますね。「強く賛成」,「賛成」,「反対」,「強く反対」のいずれか一つを選んでもらう形式です。

 前2者の回答の比率をもって「賛成率」とし,この値が国によってどう違うかをみてみましょう。2005~08年に実施された第5回調査の結果をもとに,57か国の国民男女の賛成率を出してみました。D.KやN.Aを除いた有効回答の中での比率であることを申し添えます。
http://www.wvsevsdb.com/wvs/WVSAnalize.jsp

 下の図は,横軸に男性,縦軸に女性の賛成率をとった座標上に,57の社会をプロットしたものです。はて,わが国の位置はどの辺りでしょう。


 イスラム国では,女性はあまり外に出ない文化があるためか,賛成率が高いですね。イランでは男性の64.2%,女性でも46.9%が賛成の意を表しています。

 一方,その対極にはスウェーデンが位置しています。この北欧国では,大学教育の重要性に性差を認める国民はほぼ皆無です。女性の社会進出が進んでいる国だし,分かるような気がするなあ。欧米の主要国も総じて賛成率は低いようです。

 日本はというと,57か国の中で真ん中あたりでしょうか。文化を異にするイスラム諸国に比せば低いですが,先進国の中では高い位置にあると判断されます。

 ちなみに,賛成率のジェンダー差にも注目しましょう。点線の斜線よりも下にある場合,女性よりも男性の率が10ポイント以上高いことを意味しますが,日本はこのゾーンに含まれています。お隣の韓国ほどではありませんが,大学教育のジェンダー観に男女のギャップがあることにも注意が要るかと思います。

 なるほど。先の記事でみた,わが国の大学進学率の男女差は,こういう国民意識の賜物である側面は否めません。

 まあ,以前に比したらこうしたジェンダー観念は弱まってきています。赤色の点矢印は,1995年から2005年にかけてのわが国の位置変化を表しますが,右下に動いています。1999年に男女共同参画社会基本法が制定されましたが,このことの影響もあるでしょう。関連する取組がもっと進展した現在では,上図のドイツあたりの位置にまで下りてきているかもしれません。

 あと一つ興味がもたれるのは,大学教育の中身です。たとえば,女子が理系学部に進むことへの賛否とかはどうなのでしょう。私が高校の頃,工学部への進学を親に強く反対されていた女子生徒がいました。「女が理系なんて・・・」です。数学がメチャできる子だったので勿体ないな,と思ったものです。

 日本では,この面でのジェンダー束縛も強いのではないかと思います。昨年の11月8日の記事でみたところによると,わが国の女子生徒の理系志向は国際的にみて最下位です。おそらく,科学的根拠のないジェンダー観によって潰されている才能も多いことでしょう。ヒトしか資源のない日本にとって,これは「モッタイナイ」で済まされることではありません。

 こうした高等教育とジェンダーに関わる諸問題については政府もよく認識しているようで,女子の理系人材(リケジョ)育成に関わる施策も打ち出されています。新潟大の工学部のパンフなんかは面白かったな。女子生徒の興味をひくため,イケメンの写真を載せたりとか・・・。

 さて,台風一過の今日は快晴です。今朝,自宅近辺で撮った写真を一枚。澄み渡る青空。


 季節の変わり目。朝夕などは結構冷えます。体調を崩されませぬよう。

2013年9月16日月曜日

高齢者の国際比較

 台風18号の騒ぎで隠れていますが,今日(9/16)は敬老の日です。これにちなんで,新聞等では高齢者に関する統計が報じられています。目につくのは,人口中の高齢者比率(65歳以上)であり,現在は25%くらいで,2050年には4割ほどになることが見込まれるそうな。

 これはこれで興味ある情報ですが,高齢者の相対比重だけでなく,彼らの生活の内実がどうかも知りたいところです。それは多岐にわたりますが,私は,高齢者の意識面に焦点を合わせ,健康状態意識,生活満足度,ならびに幸福度の自己評定結果を国ごとに比べてみました。

 孤独,生活苦,万引き等の犯罪増・・・。わが国の高齢者の状況を言い表す語は明るいものばかりではありませんが,上記の3項目のレベルは他国と比してどうなのでしょう。こういう関心を持った次第です。

 実証に用いたのは,2005~08年に実施された『第5回・世界価値観調査』(WVS)のデータです。各国の65歳以上の高齢者を取り出し,関連する設問への回答結果を国別に整理しました。分析対象は40か国です。本調査の対象は57か国ですが,高齢者の回答者数が100人に満たない国は対象から除外しました。
http://www.worldvaluessurvey.org/

 本題に入る前に,各国の高齢者の客観的状態をみることから始めましょう。私は,分析対象の国について,65歳以上の高齢人口比率を計算しました。2010年の数値であり,ソースは国連の人口推計サイトです。
http://esa.un.org/unpd/wpp/unpp/panel_indicators.htm

 また,各国の高齢者がどれほど働いているかという,就業率も出しました。上記のWVS調査において,フルタイム就業,パートタイム就業,自営・自由業のいずれかにカテゴライズされている者の比率です。無回答等を除いた有効回答の中での比率であることを申し添えます。

 下図は,横軸に高齢人口率,縦軸に高齢者の就業率をとった座標上に,それぞれの国を位置づけたものです。双方とも明らかにすることができた36か国がプロットされています。点線は,36か国の平均値を意味します。


 日本は,高齢人口率が最も高くなっています。わが国が世界で最も高齢化が進んだ社会であるのはよく知られていますが,働いている高齢者の率も国際的にみて高いのですね。36か国中6位です。発展途上国で高齢者の就業率が高いのは,農業などの自営業でしょう。

 人口の4分の1を占めるまでになると,65歳以上といえど生産人口の性格が強くなる,ということでしょうが,他の先進諸社会をみると,高齢者の就業率は軒並み低くなっています。

 先進国だけでみると,日本の高齢者の就業率は格段に高いのですが,社会保障の不備により,働かないと暮せな,という側面もあるのでしょうか。昨年の12月4日の記事でみたように,日本の少子高齢化の速度はズバ抜けているのですが,諸々の制度設計がそれに追いついていないのが実情です。

 それはさておき,高齢者の生活を規定する条件の一端を垣間見ましたので,本題に入りましょう。観察事項は,先に記したように,①健康状態,②生活満足度,そして③幸福度の自己評定結果です。

 ①は,上記のWVS調査の「全体的にいって,現在の健康状態はどうか」という問いに対し,「非常によい」ないしは「よい」と答えた者の比率です。②については,現在の生活満足度の自己評定点(10段階)を平均しました。③は,「全体的にいって,現在あなたは幸せだと思うか」に対する,「非常に幸せ」ないしは「やや幸せ」という回答比率です。*いずれも,N.AやD.K等の無効回答は集計から除外。

 下表は結果の一覧です。実値だけでは各国の位置がつかみにくいと思いますので,通信簿ではないですが,5段階評定も添えました。40か国を5分して,1~8位は5点,9~16位は4点,17~24位は3点,25~32位は2点,33~40位は1点,としています。上,中の上,中の中,中の下,下,というように読みかえていただいても結構です。


 3項目とも,社会によってだいぶ違っています。健康度では,スイスの高齢者の77.1%が健康と自己評定しているのに対し,ロシアではわずか9.8%です。気候故でしょうか。この大国では,高齢者の自殺率も高いといいます。

 生活満足度では,メキシコがトップですね。10段階の自己評定の平均は8.4点です。コロンビアも8.1点と高い。中南米ならではの楽天気質ってやつかしらん。主観的な幸福度も97.2%~51.3%というように,大きなレインヂが観察されます。

 さて日本の位置はというと,5段階の評定点は「3,3,4」となっていて,これらを均した総合評点は3.3点です。トータルでみて,高齢者の意識の良好度はちょうど真ん中辺りです。格段に酷くもなければよくもない。少しデータが古いですが(日本は2005年),まあ,国際的にみればこんなところでしょうか。リーマンショック等の惨劇を経た現在ではどうか分かりませんが。

 上表では,3項目の総合評点が4.0点を越える国は赤色にしています。高齢者が生きやすい国。北欧の福祉国家スウェーデンはオール5ではないですか。さもありなん。カナダ,スイス,そしてオセアニアのニュージーランドもオール5なり。モデルとすべき社会であるといえましょう。

 本日が敬老の日であることにかんがみ,高齢者(65歳以上)の生活意識の国際比較をなしてみました。資料としてご覧いただければと思います。なお,同じやり方で若年層や中年層の比較をしてみるのもまた一興。私くらいの年齢層だと,日本の芳しくない位置が露わになるかもな。

 今日は後期の初出勤日でしたが,台風のため見事休講になりました。明日は台風一過の青空が広がることでしょう。楽しみです。

2013年9月14日土曜日

都道府県別の大学収容力

 前回は,県別の大学進学率を出したのですが,同世代の2人に1人が進学という全国的状況とは裏腹に,大学進学率には甚だしい地域差があることを知りました。観察されたレインヂは,71.3%(東京)~33.9%(岩手)です。

 このような地域差が生じるにあたっては,各県の所得水準の違いが大きいでしょうが,自県に大学がどれほどあるかも重要なファクターです。大学進学にはただでさえ莫大な費用がかかりますが,自宅から通える範囲に大学がない場合,下宿のコストも上乗せされます。二重負担です。

 わが国では大学が都市部に偏在していますが,このことは,大学教育の供給量の著しい地域格差をもたらしています。今回は,この点を数値で可視化してみることにいたしましょう。

 分析する地域単位は都道府県です。私は,各県の18歳人口に対し,自県内の大学入学枠がどれほど用意されているか,という指標を計算することにしました。研究者の間では,大学収容力と呼ばれています。

 私の郷里は鹿児島ですが,2013年の春に,同県内の6大学に入学した者は3,672人です(文科省『学校基本調査』)。これが供給量ですが,それを求める18歳人口はというと,3年前の2010年春の中学校・中等教育学校前期課程卒業者数をとって,18,462人と見積もられます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 よって今年の当県では,18歳人口18,462人に対し,3,672個の大学入学枠(イス)が供されたと見立てることができます。比率にすると19.9%,5人に1個なり。これが,今年の鹿児島県の大学収容力です。

 私はこの値を全県について出し,一覧表にしました。分母(需要量)と分子(供給量)の数値も掲げます。収容力の最高値には黄色,最低値に青色のマークをし,50%(2人に1個)を越える数値は赤色にしています。


 東京と京都では,算出された収容力が100%を越えています。これらの都府では,18歳人口全員が座っても,まだイスが余る勘定です。それもそのはず。全国782の大学のうち,138大学(17.6%)が都内に立地しているのですから。

 マックスは京都の138.5%ですが,京都も,人口比を勘案すれば多くの大学が設置されていると判断されます。前回の記事をみて,「京都の進学率が高いのが意外」とツイッターでつぶやいていた方がおられましたが,上表をご覧になられていいかがでしょうか。

 赤色の数値をみると,収容力が50%を越えるのは,ほとんどが大都市県や地方中枢県ですね。大学立地の都市部偏在が如実に反映されています。

 上表にみられる,大学収容力の県間格差の様相を地図で可視化しておきましょう。10%の区分で,それぞれの県を塗り分けてみました。現代ニッポンの大学教育供給量の格差地図です。


 この地図を,前回の大学進学率地図と並べてみると,模様がよく似ていることに気づきます。横軸に大学収容力,縦軸に大学進学率(浪人込み)をとった座標上に,47都道府県を位置づけると,下図のようになります。大学進学率の計算方法については,前回の記事をご覧ください。


 東京と京都がかっ飛んだ位置にありますが,大学収容力が高い県ほど大学進学率が高い傾向が明瞭です。相関係数は+0.7967であり,前回みた県民所得との相関よりも強くなっています。

 東京と京都を外れ値として除いて相関係数を出すと+0.6830となりますが,これでもかなり強い相関と判断されます。

 ちなみに,大学収容力と進学率の関連の強さは,男子と女子ではちょっと違っています。前回の記事では,各県の性別の大学進学率を出しましたが,大学収容力との相関係数は,男子で+0.744,女子で+0.824です。

 女子の大学進学率は,男子にもまして,自県内の大学教育供給量と強く相関しています。おそらく女子の場合,保護者が自宅外に出すのをためらう傾向が強い,ということでしょう。私の頃も,親が県外に出してくれないと嘆いていた女子生徒がいたよなあ。

 あと一ついうなら,大学が少ない(ない)地域では,大学で学ぶとは何ぞや,大学生とはどういう存在かというようなイメージを生徒が持ちにくい,ということもあるのでは。ロールモデルの欠如です。想像ですが,これなんかも女子のほうが強いのではないかしらん。

 まあ,あまりこの点を強調すると,大学進学率の地域差なんて,各県の文化や価値観の違いだ,というオチになってしまいますが,100%そうということは断じてありません。観察される統計上の差は,高等教育の私学依存・大都市偏在という構造条件に由来するものであり,単なる差ではなく,「格差」問題としての性格を多分に持っているのだと思います。

 ところで,今回出した大学収容力は県単位のものですが,どの県も大きな内部地域差を内包しています。県を一括りにした収容力が高いといっても,それは県庁所在地に限った話であり,郡部の生徒にすればゼロも同然。これが現実です。

 この点を考慮するには,分母に各県の面積を据えた,大学供給量密度のような指標を出すのも一つの手です。この場合,北海道や鹿児島とかは,値が格段に小さくなるでしょう。各県の面積は『日本統計年鑑』とかに載っています。上記一覧表のbを,これで除せばいいわけです。興味を持たれた方は,計算してみてください。私もやってみますが。

2013年9月12日木曜日

都道府県別の大学進学率

 現在では同世代の2人に1人が大学に進学しますが,大学進学率は,この2年間続けて下がっている模様です。2011年春が51.0%,2012年が50.8%,そして2013年が49.9%なり。

 これは浪人込みの進学率ですが,浪人込みの率なんて出せるのか,という疑問もあるかと思いますので,当局の計算方法を説明いたしましょう。

 大学進学率とは,同世代のうちどれほどが大学に進学したかという指標です。ベースは高卒者ではありません。文科省の『学校基本調査』からこの値を計算する場合,当該年に大学に入った者の数を,推定18歳人口(3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者)で除すことになります。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 分子の大学入学者数には,より上の世代(いわゆる浪人生)も含まれますが,当該年の18歳人口からも,浪人を経由して大学に入る者が同じくらい出ると仮定し,両者が相殺するものとみなします。よって,このやり方で算出される進学率は,浪人込みの率ということになります。あくまで見立て値ですが,公的に採用されている計算方法です。

 2013年春の大学入学者数は614,182人(短大は含みません)。3年前の2010年春の中学校・中等教育学校前期課程卒業者は1,231,117人。よって,今年の大学進学率は49.9%となる次第です。ちょうど半分。同世代の2人に1人とは,こういうことです。

 これは新聞等でよく見かける数値ですが,都道府県別に細かく出したらどうでしょうか。同世代の半分というのは全国値であって,県ごとにみたら,かなりのバラツキがあるのではないかと思います。地方は大学が少ないですし。

 私は,上記と同じやり方で,2013年春の大学進学率を県別に計算してみました。分子は当該県の高校出身の大学入学者数,分母は3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者数です。

 下表は,県別大学進学率の一覧です。ジェンダー差が分かるよう,男女の率を出し,男子が女子の何倍かという倍率も掲げました。進学率のジェンダー倍率とでも呼んでおきましょう。黄色は最高値,青色は最低値です。上位5位の数値は赤色にしています。


 大学進学率は全国値では50%ですが,県別にみると,最高の71.3%から最低の33.9%まで甚だ大きな開きがみられます。東京では10人に7人ですが,岩手では3人に1人です。スゴイ格差です。

 男女別の進学率をみると,どの県でも男子のほうが高くなっていますが,性差が大きい県もあります。マックスは北海道で,男子の進学率は女子の1.4倍です。その次は,わが郷里の鹿児島で1.38倍。鹿児島の女子の進学率は3割未満で,全国で最も低いのか。知らなかった。

 ちなみに,大学進学率は都市で高く地方で低いという,明瞭な地域構造を持っています。この点を可視化しておきましょう,下図は,男女計の進学率地図です。5%区分で各県を塗り分けています。


 首都圏,近畿圏,ならびに地方中枢県が濃い色になっていますね。一方,北東北や南九州は真っ白です。これほどまでにクリアーな図柄も珍しい。

 大学進学とは,生徒個々人の意向や能力によってなされるものと思われていますが,それを集積してみると,社会現象としての側面がくっきりと浮かび上がります。子どもの学力上位常連の東北や北陸県の進学率が高くないことにも注意しましょう。

 わが国の高等教育は,私学依存・大都市偏在という構造的特性を持っていますが,大学進学には膨大な経費がかかり,地方の生徒の場合,地域移動(下宿)のコストも上乗せされます。上図の模様は,こうした条件に由来することは間違いありますまい。

 事実,各県の大学進学率は住民の所得水準と強い正の相関関係にあります。下図は,今年の進学率と県民所得の相関図ですが(県民所得は,『日本統計年鑑2013』掲載の2009年の数値),相関係数は+0.7886にもなります。


 他にも,自県に大学がどれほどあるか(大学収容力),住民の学歴水準はどうか(高学歴人口率)など,各県の大学進学率と関連する要因は数多し。この種の要因分析は,多くの研究者が手掛けてきています。まさに,教育社会学のメインテーマの一つなり。これまでの先行研究の到達点を知るには,最近公表された,朴澤泰男氏のレビュー論文が参考になるかと思います。
http://ci.nii.ac.jp/naid/40019520987

 同世代の2人に1人が進学というのは一部の地域に限った話であり,目を凝らしてみるならば,大学進学機会の地域格差(階層格差)という現象が厳として存在することを,われわれは忘れるべきではないでしょう。

追記:
 最新の2015年春の県別・性別大学進学率を計算しました。興味ある方は,どうぞご覧ください。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/08/2015.html

2013年9月10日火曜日

年収と未婚の関連

 総務省『就業構造基本調査』から,有業者の年収と配偶関係の関連を知ることができます。最新の2012年調査の結果をもとに,3つの図表をつくってみました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 まずは,30代後半男性の年収別の未婚率表です。私の年齢層ですが,年収別の変異は如何。最下段の合計には,年収が不明の者も含まれています。


 ほう。未婚率は年収とほぼリニアに関連していますね。年収150万未満では,6割以上が未婚者なり。表をよくみると,最も大きな断絶は,年収300万のラインにあります。このラインを下回るや,未婚率が一気に10ポイント以上アップ(34.7%→45.3%)。俗にいう「300万の壁」ってこれかな。

 次に,同じデータを他の年齢層についても出し,「年収×年齢」の等高線グラフにて,各層の未婚率の水準を表現してみました。久々に登場の「社会地図」図式です。


 同じ年齢層でも,年収によって未婚率は異なります。未婚は年齢現象であると同時に,れっきとした階層現象でもあることが知られます。

 あと一つお見せするのは,年収別未婚率曲線のジェンダー差です。私の年齢層を例に,曲線の型の性差をご覧いただきましょう。


 男女では,年収と未婚の関連の仕方が反対じゃん。未婚率は,男性では極貧層で最も高く,女性では超富裕層で最も高い。こうした「X」線型に,わが国のジェンダー観念がみてとれます。諸外国でも,こういう型になるんかな。北欧とかではどうなんだろう。

 2010年策定の『第3次・男女共同参画基本計画』では,2020年までに,指導的地位に占める女性比率を少なくとも30%程度にまで高める,という数値目標が掲げられています。今後は,ガシガシ稼ぐ女性がどんどん増えてくることでしょう。
http://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/3rd/index.html

 そうなった時,未婚化の進行に拍車がかからないかどうか。上図のような「X」線型が保持されるとしたら,理論上は,総体としての未婚率は高まることになります。

 男女共同参画関連の数値目標として,指導者層の女性比率*%を掲げるのもいいですが,ジェンダー観念の克服に関するものも設定したらどうかなあ。たとえば,「夫は仕事,女は家を守る」という性別役割分業への反対率*%というような。これなどは,『男女共同参画に関する世論調査』で計測可能です。

 思想統制になってはいけませんが,学校におけるジェンダーフリー教育を活性化させる起爆剤にもなるでしょう。女性の社会進出の進展に伴わねばならないものは,結構あるのです。

2013年9月9日月曜日

明治中期の不就学

 今でこそ,学齢の子どものほぼ全員が義務教育学校(小・中学校)に通っていますが,昔は違いました。1890(明治23)年の断面でみると,学齢(6~14歳)の子どものうち,当時義務とされていた小学校に籍を置いていない不就学者の数は,以下のようです。『大日本帝国文部省年報』(明治23年)の数値をもとに作成しました。


 就学義務の対象の学齢人員は720万人。このうち,一度も小学校に通ったことがない未就学者は315万人,卒業を待たずして中退したという者は52万人。よって,ベース人員に占める不就学率は51.1%となります。明治中期の頃では,半分の子どもが学校に行っていなかったようです。

 農業社会で,かつ機械化が進んでいなかった当時にあっては,小さな子どもといえど貴重な労働力でした。おまけに,小学校でもバッチリ授業料が徴収されていました。働き手を取られた上にカネまで取られるのですから,多くの親が,子を学校にやるのを嫌ったことでしょう。もっと時代を上がった明治初期では,各地で民衆による「学校焼き討ち」が起きていたそうな。
 
 また,不就学率のジェンダー差が大きいことも注目されます。男子は3割ちょっとですが,女子は7割近くです。「女に学校は必要ない」「学校にやるなら男子優先」・・・。こんなジェンダー観念がまざまざと表れています。

 ここまでは教育史の標準テキストに書かれていることですが,上表の不就学率を地域別にみたらどうでしょう。当時は,社会経済特性の地域差が今とは比べものにならぬほど大きかったと思います。人々の意識や価値観についても然り,情報通信技術が全くの未発達でしたから。

 私は,上記の官庁統計にあたって,当時の学齢人員の不就学者率を都道府県別に計算してみました。下表は,男女別の県別数値の一覧です。黄色のマークは最高値,青色は最低値なり。未就学と中退を合わせた不就学率については,上位5位の数値を赤色にし,女子が男子の何倍かという倍率も出してみました。


  未就学と中退を合算した不就学率に注意すると,甚だ大きな地域差がみられます。男子の不就学率のレインヂは19.1~77.5%,女子は38.4~94.5%です。南端の沖縄では,学齢女子のたったの5.5%しか小学校に通っていなかったことになります。私の郷里の鹿児島も,女子の不就学率が9割超。これは知らなかった。

  一方,男女とも最低は石川です。この県では,明治中期の頃にして,男子の8割,女子の6割ほどが学校に通っていたようです。石川は教育県といわれますが,歴史的な淵源も垣間見られますね。

 不就学率の水準や地域差がすさまじい女子について,県別の数値を地図化しておきましょう。不就学という不幸の分布地図です。


  北東北や南九州が濃い色で染まっていますね。これらの県では,学齢女子の親の8割以上が就学義務を履行していなかったことになります。へえ。『学制百年史』とかに載っている全国統計からは分からないことだなあ。
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/others/detail/1317552.htm

 上図の模様は,住民の経済的豊かさ水準や都市化度と強く相関していると思いますが,それだけではありますまい。不就学率が相対的に低い白色の県をみると,山口,高知のような地方県も混ざっています。いずれも,近代日本の建設に大きく寄与した偉人を輩出した県なり。社会経済特性から独立した,文化的な要因もあるでしょう。

 最後に,上記一覧表の右端に掲げた,不就学率のジェンダー倍率も視覚化しておきます。女子が男子の何倍かですが,最高は宮城で3.2倍です。最低は東京の1.2倍。ほう。首都では,学齢児童の不就学率のジェンダー差が小さかったのですね。

 残りの45県はこの両端の間のどこかに位置しますが,2次元のマトリクス上にて,その布置構造を表現してみましょう。横軸に男子,縦軸に女子の不就学率をとった座標上に,47都道府県をプロットしてみました。各県のジェンダー差の水準が分かるよう,1.5倍,2.0倍,2.5倍のラインを引いています。

 この図から,男女の不就学率の水準とジェンダー倍率の双方をみてとることができます。


  明治中期の頃,女子の不就学率が男子の2.5倍を越えていた県は6県。山形や宮崎は,女子の不就学率が高く,かつジェンダー差も大きかったようです。一方,東京や大阪といった都市部では性差は比較的小さかった。

 現在は過去に規定される側面がありますが,21世紀現在の大学進学率のジェンダー倍率とかと相関していたりして・・・。

 空間軸でのトリップ(国際比較)も面白いですが,時代軸でのそれも面白いものです。ヒマをみては国会図書館に出向いて,昔のメジャーな教育雑誌をくくったり,『大日本帝国文部省年報』をパラパラめくったりしています。

 半ば道楽の発掘作業ですが,その成果も,この場で随時開陳してゆきたいと思います。歴史のプロパーの方にすれば常識に属することかもしれませんが,自分にとって「おお」というものは記録しておきたいのです。

2013年9月8日日曜日

年齢別の死因構成図

 6日に,厚労省『人口動態統計』の2012年結果が公表されました。細かい死因別の死亡者数が載っており,自殺率などを計算する際に用いられます。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html

 私は,報告書非掲載の保管統計にあたって,同年中の死亡者の死因構成を年齢ごとに整理し,面グラフで表現してみました。ツイッターで発信したところ,みてくださる方が多いようなので,ブログにも転載しておきます。


 青年期にかけて広がる,怪しい黒色の膿。ツイッター上でどなたかつぶやいておられましたが,これこそ,「現代日本の闇」を表しているといえましょう。

 20代前半あたりでは,全死因の半分以上が自殺です。大学卒業年齢(22歳)も入っていますが,おそらくシューカツ失敗自殺なども多く含まれていることと思います。むろん,上図は構成図であり,青年層の自殺は絶対数としては多くありませんが,現代日本の社会病理の投影図として受け止めねばならないのも確かです。

 東京五輪が開催される2020(平成32)年にて同じ図をつくってみたら,どういう模様になっているか。五輪までの7年間にかけて景気は快方に向かうだろう,という展望が語られていますが,上図の痛々しい膿は治療されるのか。予断は許されません。状況観測を続けていこうと思います。

2013年9月7日土曜日

生存率の世代比較

 長生きしたいとは思いませんが,自分は何歳くらいまで生きるんだろう,と思うことがあります。事故か何かで明日死ぬかもしれないし,まかり間違って100歳くらいまで生きてしまうかもしれない。それは,神のみが知るところなり。

 しかるに,わが国の人口統計はとても充実していて,遠い将来の年齢別人口も細かく知ることができます。私の世代(1976年生まれ)の場合,2012年現在36歳であり,その数およそ180万人(総務省『人口推計年報』)。2056年に80歳になりますが,国立社会保障・人口問題研究所の『将来推計人口(中位推計)』をみると,同年の80歳人口は136万人ほどです。

 当然,今よりも減っていますが,4分の3以上が生き残っているではないですか。では90歳の時点ではどうか,100歳ではどうか・・・。こういう好奇心が出てきました。私は,各年の年齢別人口統計にあたって,自分の世代の年齢別生存率を整理してみました。

 1976年の0歳人口は185万人。これが,出生時の人口量です。この数を100とした場合,各年齢時点の人口はどういう値になるか。10歳間隔のラフスケッチをみていただきましょう。私の世代だけでは面白くないので,恩師の松本良夫先生(1935年生まれ)の世代と比べてみます。


 私の世代でいうと,70歳時の生存率は85.7%,80歳時でも73.4%であり,4分の3近くが生きています。90歳の時点でみても46.9%,半分近くです。結構生き長らえるものですね。人口の「社会増」によるのかもしれませんが,高齢層では,それはちと考えにくい。
 
 しかるに,人間の生存率とは年齢現象であると同時に,時代現象,世代現象でもあります。左側の松本先生の世代をみるとどうでしょう。10歳の時点にして,15%の減です。社会減(人口流出)もあるでしょうが,戦争や医療技術の未発達による部分が大きいことは間違いありますまい。

 でもまあ,松本先生の世代でも,80歳時の生存率は56.2%です。近年の医療技術の進歩,社会保障制度の充実(昔と比した)の影響でしょう。

 以上は10歳スパンの大雑把な整理ですが,50%(半分)を切るのは何歳かという,細かい部分も気になります。また,松本先生より上の世代ではどうか,私より後の世代ではどうかという関心も持ちます。

 私は,4世代の年齢別生存率曲線を描いてみました。上記の2世代プラス,1920年生まれ世代,2000年生まれ世代です。線が途切れている箇所は,戦争期の人口統計不備によります。


 世代によって,曲線の型が違っています。一番上の1920年生まれ世代では,子ども期における人口減のスピードがさらに速くなっていて,2歳の時点にして,1割減です。大正末期の頃ですが,乳児死亡率も格段に高かったことでしょう。青年期での減少も目立っていますが,これは徴兵によります。

 こういうことがあって,この世代の場合,20歳時の生存率は72.6%なり。成人するまでの間に,4分の1以上が命を落としていたことになります(社会減も含まれますが)。大変だった世代。生存の危機と常に隣合わせだった世代。彼らにすれば,現代の子ども期の諸問題なんて,「コップの中の嵐」くらいにしか見えないかもしれません。

 では,2世代を飛び越して,今世紀の初頭に生まれた世代(2000年生まれ)はというと,こちらは子ども期に人口が減るどころか増えています。帰国子女などの社会増によりますが,30~40代の働き盛りの頃でも人口は増える見込みです。労働力不足を補うため,海外からの人口流入を受け入れる,ということでしょうか。でも,国立社会保障・人口問題研究所の人口推計って,こういう点まで考慮されているのかな。

 それはさておき,生存率が50%を切るのが何歳かに注意してみましょう。同世代の半分がいなくなる年齢であり,「人生X年」の目安にもなります。上図から読み取ると,1920年生まれ世代は70歳,1935年生まれ世代は84歳,1976年生まれ世代は90歳,2000年生まれ世代は91歳,です。

 私の世代の場合,人生90年ですか。まあ,日頃ロクなことをしていない私は,普通の人より早く逝くでしょうけど,まかり違って25%のラインまで生きてしまうかもしれない。その場合,人生96年なり。

 病気や災害等の突発事情を考慮していないシュミレートですが,自分の先行きをちょっとばかし展望してみました。また,人の生というのは時代によってやはり違うものだと,改めて思い知らされました。8月6日の記事でも申しましたが,生きた時代を共有する「世代」というカテゴリーは,人間理解に際しての重要な変数なのだと感じます。

2013年9月6日金曜日

夏の都立桜ヶ丘公園

 この夏休み中の私の外出デーは火曜と金曜ですが,3日の火曜は快晴でした。行きがけに,都立桜ヶ丘公園内でデジカメのシャッターを押すこと数回。そのうちの2枚を掲げます。

 

  園内のちょうど真ん中あたり。私の好きなスポットです。最初の光景は,季節ごとの定点撮影をしています。のものと比べると,季節変化が鮮やかなり。

 暦の上では秋(9/3)での撮影ですが,まあ夏バージョンのものとして記録しておきましょう。

 デジカメの写真は,ブログやツイッターに簡単にアップできます。お子さんの成長の過程をビジュアルに記録している親御さんもおられると思います。アルバムもいいですが,ネット上ならスペースいらず。多くの方にも見ていただけます。

 本ブログは薄気味悪い統計図だらけですが,たまにはこういう写真も載せませんとね。ブラックの話が4回も続きましたので,ちょいと気晴らしです。

2013年9月5日木曜日

属性別のブラック就業率

 これまで3回にかけて,超長時間就業(ブラック就業)の率に関する記事を書きましたが,やや細部に入り過ぎた感があります。今回は,組織に雇われて働いている雇用労働者のうち,ブラックな働き方をしている者がどれほどいるか,属性別の変異はどうかという,基礎データを整理しようと思います。

 2012年の総務省『就業構造基本調査』によると,わが国の15歳以上の雇用就業者は5,701万人ほどです。パートやバイト等の非正規雇用も含みます。このうち,年間300日以上かつ週75時間以上勤務しているブラック就業者は約56万人。よって,全雇用者でみた場合,ブラック就業率は9.9‰となります。およそ100人に1人です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 「もっといるだろう」と思われるかもしれませんが,用意されているカテゴリーのマックスで拾い出した,厳選されたブラック就業者です。週6日,1日12時間以上勤務の純ブラック。その量(magnitude)は,まあこんなものでしょう。

 では,この数値が属性ごとにどう違うかをみていきましょう。まずは,性,年齢,および学歴という,就業者個々人の基本属性に注目してみます。属性不明の者は入っていませんので,各カテゴリーの分子(分母)の総和が,先ほど示した全体値と一致しないことに留意ください。


 女性より男性の率が高いのは予想通りですが,年齢層別にみると,ピークは30代にあります。その次は40代。子育て期の層です。父親のブラック就業が子どもの人格によからぬ影響を及ぼす可能性があることは,前回のマクロ分析から示唆されるところですが,この年代に困難が集中していることは問題であるといえましょう。

 学歴別の傾向は,短大・高専卒がボトムのU字型になっています。高学歴層のブラック率が高いのは,専門職や管理職のように,職務の境界が不明瞭な職に従事している者が多いためでしょう。

 しかし,マックスは大学院卒ではないですか。22.0‰,45人に1人がブラックです。研究職に就いている者が少なくないと思いますが,4月16日の記事でみたように,大学教員の職務時間って普通の労働者よりも長いのですよね。広くとれば,自宅での読書等も「研究」という名の職務ですから。

 あと考えられるのは,弱い立場で酷使されている任期付き研究員やポスドクとかでしょうか。・・・分かるような気がします。

 今度は,就いている仕事の条件による変異に注目してみましょう。勤務先の規模,就業形態,産業,および職業別のブラック率を出してみました。


  ブラック就業率は企業規模とリニアに関連しており,零細企業ほどブラック化が進んでいますが,官公庁でも率が高くなっています。国家公務員とか,大変だっていうしな(ブラック公務員)。

 雇用形態別では,正規>非正規 なり。産業別では,宿泊・飲食業,運輸・郵便業の順に高くなっています。ブラック企業はこれらの業種に多いという感じですが,それは数字にも表れています。

 職業別では,管理職がダントツ。管理職従事者のブラック率は30.9‰,32人に1人です。この職の業務の境界はないようなものであり,残業代も払わなくてよいことになっていますが,飲食店の「名ばかり店長」等も含まれていると思われます。

  最後に,地域差もみておきましょう。それぞれの県について,15歳以上の雇用者中のブラック就業者率を計算し,地図化してみました。前々回の記事では,20代正社員のブラック率地図を掲げましたが,非正規も含む雇用者全体の地図は,模様がやや違っています。


  黒色は値が10‰を越えるブラック県ですが,近畿や九州が黒く染まっていますね。今月から始まる厚労省の摘発では,重点地域を大阪に定めていますが,確かに的を射ています。しかし,重点をおくべき地域は他にも多し。

 官庁統計から割り出すことができる,ブラック就業の基礎データは以上のごとし。ブラック生態学の基礎統計です。「日本を食い潰す妖怪」(今野晴貴氏)の分布は,一定の傾斜構造を持っています。それを精緻に明らかにし,対策を講じること。エビデンス・ベイスド・ポリシーの重要性は分野を問いません。

2013年9月4日水曜日

父親のブラック就業と子どもの逸脱の関連

 一昨日のマイナビニュースに「衝撃!ブラック企業は,社員の子供の性格にまで悪影響を及ぼすことが判明」という記事が出ています。
http://news.mynavi.jp/news/2013/09/02/157/index.html

 ヨーロッパの調査結果ですが,「父親が毎週55時間以上働いている家庭では,5~10歳の子供が高レベルの攻撃的行動を取りやすい傾向」があり,それは「息子で顕著に見られ,娘では見られない」のだそうです。この結果について,調査にあたった研究者は次のような説明をしています。記事の文章を転載させていただきます。

 ●「子供は同性の親との交流や過ごす時間が不十分だと,行動にまつわる問題を抱えやすくなるかもしれない。父親が長時間会社で労働していると,男子のエネルギー発散の場となりうる,スポーツやゲームで一緒に遊ぶ時間が少なくなることも原因の一つとして考えられる。」

 ●「長時間労働で疲弊した父親は,家庭内で子育てのサポートをしなくなりがちで,その状況が母親に過度のストレスや重荷を感じさせ,結果として子育ての質が低下している可能性。」

 なるほど。そういうこともあるだろうな,と思います。長時間労働を強いるブラック企業は,労働者のみならず,その子どもの人格にまで悪影響を及ぼす可能性があるのですね。こういう話は初めて聞きました。

 これは外国の研究成果ですが,わが国でも当てはまるでしょうか。私は,都道府県単位のマクロ統計を使って,上記のような統計的傾向がみられるか検討してみました。ここにて,その結果をご報告します。

 父親世代の男性正社員の長時間就業率を県別に出し,それが各県の子どもの逸脱指標とどう相関するか。こういう問題を立ててみようと思います。

 私は,2012年の総務省『就業構造基本調査』にあたって,30~40代の有配偶男性正社員の長時間就業率を県別に計算しました。長時間就業とは,年間250日以上かつ週60時間以上の勤務をいいます。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 月あたり20日ほどですから,週5日就業です。5日で60時間以上ということは,1日12時間超。簡単にいうと,週5日,1日12時間以上働いているお父さんということになります。前々回や前回の記事よりも基準を低くしましたが,上記の外国の研究では「週55時間以上」という基準がとられているので,それに揃えることとしました。

 まあこれでも,週5日&1日12時間超ですから,ブラックに準じる就業といってよいでしょう。以下では,ブラック就業ということにします。ちなみに有配偶者の数値は,総数から未婚者を差し引いて出したものです。ゆえに,配偶者と別れた離別者や死別者も含まれますが,それは数的にごくわずかですので,問題ないものとお許しください。

 上記の官庁統計によると,2012年10月時点における,30~40代の有配偶男性の正規職員・従業員は937万人。うち,年間250日以上&週60時間以上働いているブラック就業者は148万人。よって,お父さん世代のブラック就業率は15.8%となります。およそ6人に1人。結構いますね。

 下表は,この値の県別一覧表です。最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました。上位5位の順位は赤字にしています。


 県別にみると,京都の20.3%から鹿児島の11.0%までのレインヂがあります。前者は5人に1人ですが,後者は10人に1人です。

 では,お父さんのブラック就業率の違いによって,各県の子どもの逸脱行動指標がどう変異するかを吟味してみましょう。いじめが社会問題化していることにかんがみ,いじめ容認率という指標をまず考えてみます。

 2012年度の文科省『全国学力・学習状況調査』において,「いじめはどんな理由があってもいけないことだと思う」という問いに対し,「どちらかといえば当てはまらない」ないしは「当てはららない」と答えた児童・生徒の比率です。調査対象の公立小学校6年生および中学校3年生の回答比率を県別に出し,上表のブラック就業率と関連づけると下図のようになります。
 http://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html


 ほう。父親世代のブラック率が高い県ほど,いじめを容認する児童・生徒が多い傾向です。相関係数は+0.589であり,1%水準で有意と判定されます。

 ブラック企業がやっていることはまさに「いじめ」ですが,こういう悪が蔓延っている県では,子どもの人格に歪みが生じる,ということでしょう。冒頭の研究では,父親不在という家庭での子育て面が問題視されていましたが,地域に悪のクライメイトが蔓延するという,より大きな側面もあるのではないでしょうか。子どもは大人社会の鏡なり。

 次に,父親のブラック就業と子どもの「攻撃的行動」の関連が指摘されていることに注目し,非行少年の出現率との相関もとってみましょう。2011年中に検挙・補導された非行少年(犯罪少年+触法少年)の数を,同年10月時点の10代人口で除して計算しました。分子は警察庁『犯罪統計書』,分母は総務省『人口推計年報』のものです。
http://www.npa.go.jp/

 父親世代のブラック率と10代少年の非行率との相関は,下図のごとし。


 回帰直線は右上がりであり,お父さんのブラック率が高い県ほど,少年の非行が多い傾向です。相関係数は+0.423であり,1%水準で有意なり。

 こちらは冒頭の研究がいうように,父親不在による,家庭での子育て不全の面から解釈できる部分が大きいと思われます。「男子のエネルギー発散の場となりうる,スポーツやゲームで一緒に遊ぶ時間が少なくなる」ことがいわれていましたが,男子だけの非行率に限定すると,相関はもっと強くなるかもしれません。まあ,非行少年のほとんどは男子ですけど。

 他の要因を考慮していない,一要因だけの単純な相関分析をしただけですが,父親のブラック就業は子どもの育ちによからぬ影響を及ぼし得ることが,マクロ統計から示唆されます。

 親世代の労働者を長時間酷使し,未来を担う子どもたちの人格をも荒ませるブラック企業。「日本を食い潰す妖怪」という,今野晴貴さんの形容が妥当であることが,ここにおいても確認されます(『ブラック企業』文春新書,2012年)。

 いじめやSNSでの悪ふざけなど,子どもや青年の世界でさまざまな問題が起きていますが,それが教育の機能不全(病理)の問題だけに還元されることがあってはならないことを,われわれは改めて認識しなければなりますまい。

2013年9月3日火曜日

ブラック産業

 前回は,20代の正社員のブラック企業勤務者率を試算したのですが,この記事をみてくださる方が多いようです。厚労省がブラック企業相談を行っていますが,時宜に適っているためでしょうか。

 ツイッター上のコメントを拝見すると,「産業別の率も知りたい」「飲食とかすごそう」「ブラックを糾弾しているマスコミは労基法守ってんのか」というものがみられます。

 なるほど。確かに,社員がどれほどブラック化しているかは業種によって異なるでしょう。今回は,正社員のブラック率を産業別に出してみようと思います。自分が勤めている,ないしは志望している業種の位置はどこ辺りか。とくとご覧ください。

 本記事でいうブラック企業勤務者とは,年間300日以上かつ週75時間以上勤務している正社員のことです。翻訳すると,週6日,1日12時間以上働いている者です。法定労働時間は1日8時間ですから,1日4時間超の残業。月あたりの残業時間数は100時間を超えます。推測ですが,サービス残業も多く含まれていることでしょう。まさにブラックです。

 2012年の総務省『就業構造基本調査』によると,15歳以上の正規職員・従業員数は3,311万人。このうち,上記の基準以上働いているブラック正社員は39万人。ゆえに,この年の正社員のブラック企業勤務者率は11.7‰となります。千人あたり11.7人,およそ85人に1人です。

 前回出した20代正社員のブラック率(10.8‰)よりもちょっと高いくらいですが,正社員全体でみれば,まあこんなところでしょう。

 では,同じ値を産業別に計算してみましょう。私は,103の産業の正社員総数とブラック社員数を収集し,割り算をしました。ソースは,下記サイトの表32です。雇用形態別・産業別の「年間就業日数×週間就業時間」のクロス表です。追試をしてみたいという方は,当たってみてください。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048178&cycleCode=0&requestSender=search

 まずは,1~50位までのブラック率ランキング表をみていただきましょう。


 正社員のブラック率トップは宗教で,116.0‰なり。百分比にすると11.6%,およそ9人に1人がブラック社員ということになります。昼夜問わずの布教活動などでしょうか。

 その次は飲食業で73.2‰(13人に1人)。ブラックは飲食に多いといわれますが,そうした感覚が裏づけられています。漁業や農業といった,自然を相手にする1次産業も率が高いですね。

 目ぼしい産業はマークをしましたが,ほう,学校教育が10位にランクインしています。ほとんどが教員ですが,およそ39人に1人がブラックと判定されます。確かに,休日の部活指導や持ち帰り仕事等も含めれば,「年間300日以上&週75時間超」のブラック・ティ―チャーがちらほら出てきても不思議ではありません。教員の過労はよくいわれるところです。

 国家公務員は18位。深夜のタクシー行列は,霞が関ではお馴染みの光景ですが,さもありなん。学術研究機関は32位なり。*大学教員はこの中ではなく,「学校教育」のほうに含まれると思われます。

 続いて,51位以降のランキング表を掲げます。


 こちらは現業系が多くなっています。「ここからここまで」というように業務の境が明確であるためかしらん。やろうと思えば業務が際限なく拡張する教員とかとは対をなしています。

 以上が,官庁統計から試作した,103産業のブラック・ランキング表(2012年)です。ブラック企業摘発の重点の置きどころを定めるにあたって,前回の地域別統計も合わせて,資料として使っていただけたらと思います。さしあたり,前回分かったブラック県の上位10位の産業に要注意,というところでしょうか。

 『就業構造基本調査』を詰めれば,ブラック企業という「妖怪」の情報をもっと取り出せるはず。ヒマをみて,こうした実態解明の作業を続けていこうと思います。