2014年1月31日金曜日

2014年1月の教員不祥事報道

 月末恒例の教員不祥事報道の整理です。年初めの1月に新聞沙汰になった教員不祥事は,私が把握した限りで24件です。

 愛知県では,採用されて間もない新人教諭が放火未遂で逮捕されたようですが,調べに対し「学校に行きたくない。ストレスがあった」と供述しているとのこと。

 若年教員の病気離職率がことに上昇しているのは,昨年の11月17日の記事でもみたところです。逆ピラミッド型の教員集団のもと,末端にかかる圧力が増大しているであろうことは,想像に難くありません。*2010年の教員ピラミッド図は↓
https://twitter.com/tmaita77/status/427997952049565696

 中年・高年教員が,彼らにのしかかる重荷ではなく,彼らをサポートする存在になることが望まれるところです。

<2014年1月の教員不祥事報道>
・<窃盗>容疑で小学校教諭逮捕 ネットに学校の蔵書など出品
 (1/7,毎日,神奈川,小,男,32)
・生徒12回平手打ちの教諭、再審議の末減給処分(1/8,読売,山梨,高,男,27)
・現金着服の校長懲戒免職 3小学校で12回、修学旅行積立金など
 (1/8,西日本新聞,熊本,小,男,51)
・同上:給食費着服(熊本,小,男,35)
・女性教諭、速度超過55キロの翌月また60キロ (1/11,読売,大分,中,女,57)
・同上:速度違反(大分,小男52,中男49,高男39)
・児童買春容疑で教諭逮捕=小学女児、出会い系で(1/12,時事通信,富山,中,男,29)
・女性教諭、英検合格証書を偽造…答案提出忘れて (1/15,読売,香川,中,女,37)
・教諭、児童転ばせ骨折…「自分で転んだ」とうそ(1/16,朝日,鹿児島,小,男,38)
・女児わいせつの男性教諭を懲戒免職(1/16,デーリー東北新聞,青森,小,男,40)
・児童の解答改ざん 西条の小6担任12人分かさ上げ(1/16,愛媛新聞,愛媛,小,男,50代)
・女子部員の頭たたく、バスケ部男性元顧問を処分(1/18,神奈川新聞,神奈川,中,男,59)
・福島県の中学講師を懲戒免職 「県外で解雇」応募時隠す
 (1/18,福島民友新聞,福島,中,男,40)
・中学教諭の答案改ざん 教師の評価、生徒の成績次第?(1/20,毎日,岐阜,中,男,29)
・都立高教諭、部活生徒2人にキス21回(1/21,読売,東京,高,男,30)
・水を使わず、懐中電灯で生活ってホント? 通勤手当不正受給の女性教諭を処分
 (1/24,産経,大阪,高,女,57)
・中学教諭、女子生徒触り懲戒免職(1/24,読売,静岡,中,男,50代)
・同上:交通費不正受給(静岡,高,男,50代)
・小学校の火事、放火未遂などの疑いで新人教諭逮捕(1/27,TBS,愛知,小,男,22)
・市教委が教諭2人を懲戒処分 女子中学生の体触り不快感抱かせる
 (1/28,神奈川新聞,神奈川,中,男,40代)
・同上:体罰(神奈川,小,男,54)
・免許外指導指示の校長ら処分 静岡市教委(1/29,静岡新聞,静岡,中,男,50代)
・「お前をいじめることしか…」校長が教頭に(1/30,読売,北海道,高,男,60)
・高校女子駅伝の強豪校監督、女子部員に体罰(1/31,読売,鹿児島,高,男,47)

2014年1月28日火曜日

都内23区の子どもの体力地図

 1月9日に,2013年度の『東京都児童・生徒体力・運動能力,生活・運動習慣等調査』が公表されました。そこでは,都内の公立小・中学生の体力テストの結果が市区別に公表されています。これはスゴイ。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/pickup/seisaku_sport-6.htm

 本調査では,握力,上体起こし,50m走,立ち幅跳びなどの種目の記録を合成して総合スコアを出し,それに依拠して,A~Eの5段階の評定がなされます。私は,公立小学校4年生男子のうち,AもしくはBの評価を得た児童の比率を,都内の23区別に出してみました。

 以前に,子どもの学力を都内の地域別に計算したことがありますが,はて,体力のほうはどれほどの地域差があるか。下の図は,結果をマッピングしたものです。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006793455


 大都市という基底的特性を同じくしながらも,結構な差がありますね。荒川区の29.2%から中央区の53.5%まで,20ポイント以上ものレインヂが観察されます。

 色が濃いゾーンをみると,特別区の中でも真ん中の都心部ではないですか。これらの区では,体育の授業を校舎の屋上でやっている学校もあると聞きますが,そういう運動環境の面とは関連がないようです。

 ここにて,子どもの体力との関連が疑われるのは,社会階層の要因です。濃い色の区には,港区のように,富裕層が多く住んでいる区も含まれています。子どもの学力の社会的規定性はよく知られていますが,体力についても同じことがいえるのではないか。

 私は,こういう仮説をもって,各区の都民税・区民税課税額との相関をとってみました。この指標は,各区の住民の富裕度を表すものとして使えます。出所は,2011年度の『東京都税務統計年報』です。


 住民の富裕度と小4男子の体力の相関係数は+0.6701であり,1%水準で有意です。千代田区と港区を「外れ値」として除外すると+0.4617まで下がりますが,これでも5%の有意水準は保っています。

 学力のみならず体力についても,社会的規定性の一端が見受けられます。まあ,スポーツクラブに子どもを通わせるのだって,結構お金がかかりますしね。

 それと,生活習慣の影響も考えられます。本ブログでは,同じ都内の地域データを使って,子どもの肥満率・虫歯率と貧困の関連を明らかにしたことがありますが,食生活をはじめとした生活習慣の乱れが,子どもの体力に影響するという経路も想起されます。

 ちなみに,運動に対する意識をとっても,同じ構造の地域差がみられます。下の地図は,運動が「ややきらい」もしくは「きらい」と答えた児童の比率マップです。上図と同様,公立小学校4年男子のものです。


  どうでしょう。最初にみた,体力テストの好成績マップとは模様が逆になっています。この「運動ぎらい」率は,各区の都民税・区民税課税額と-0.7345という相関関係にあり,体力テストの成績にもまして,社会階層の要因と強く関連していることが示唆されます。

 子どもの体力向上の施策として,体育の授業時数を増やすとか外遊びを促すとかいうことがいわれますが,その社会的規定性の側面にも関心が向けられるべきだと思います。体力と社会階層の関連経路の詳細については,私の知るところではありませんが,スポーツ社会学等の分野である程度のことが解明されているのではないかしらん。

 2013年度の文科省『全国学力・学習状況調査』では,児童・生徒の家庭環境をも把握する「きめ細かい」調査が実施されています。学力については,その社会的規定性が繰り返し指摘されるなか,当局も黙ってはいられなくなった,ということでしょう。

 今後は,体力の面にも同じ見方を適用すべきかもしれません。あと数年したら,文科省の『全国体力・運動能力,運動習慣等調査』でも,家庭環境を把握する「きめ細かい」調査が実施されていたりして。

 東京都は,独自に実施している体力テストの結果を初めて市区別に公表したわけですが,うやむやとしている体力の社会的規定性に関する議論に,実証的な礎(いしずえ)を提供する英断といえます。敬意を表したいと思います。

2014年1月25日土曜日

一人親世帯の子どもの貧困率

 ある社会の中で,貧困状態にある者の量を測る指標として,貧困率というものがあります。所得が,全体の中央値の半分に満たない者がどれほどいるかです。通常,世帯を単位として計算されます。

 この貧困率を,一人親世帯の子どもについて出すと,わが国の特異性が見出されます。18歳未満の子どもがいる一人親世帯のうち,所得が上記の基準に満たない世帯がどれほど存在するかですが,以下では子どもの貧困率ということにします。

 私は,OECDの“Family Database”にあたって,2008年の国別数値を収集しました。下記サイトのCO2.2の表です。原資料では,親が働いていない世帯と働いている世帯に分けて貧困率が掲載されています。下表は,それを整理したものです。
http://www.oecd.org/social/soc/oecdfamilydatabase.htm


  最下段のOECD平均をみると,親が働いていない世帯では6割,働いている世帯では2割です。当然ですが,前者の貧困率のほうがうんと高くなっています。他国も然りです。

 アメリカでは,親が働いていない世帯の貧困率は9割を越えています。自己責任を強調するお国柄と聞きますが,この国では,公的扶助が受けづらいという事情もあるのではないでしょうか。

 ところで,こうした国際的傾向から外れている社会が一つあります。それは日本です。この東洋の島国では,親が働いている世帯の子どもの貧困率のほうが高いのです。18歳未満の子がいる一人親世帯に限ったデータですが,非就業世帯よりも就業世帯のほうが貧しいって一体・・・。

 上表のデータを視覚化してみましょう。横軸に非就業世帯(a),縦軸に就業世帯(b)の子どもの貧困率をとった座標上に,31の社会を位置づけてみました。


 日本でいうと,「a<b」という特異な傾向もさることながら,縦軸の上でかっ飛んだ位置にあることも注目されます。親が働いている世帯の子どもの貧困率はトップです。その割合は54.6%,半分以上です。

 上図のデータをみて,親が働いていない(働けない)世帯への公的援助を減らすべきなどと考えるのはあべこべです。働いても,公的基準が定める最低限の生活を営むに足る収入が得られない事態をこそ,問題視すべきでしょう。一人親世帯の場合,そうした歪みがより色濃い形で表われているものと思われます。

 図の右側にあるアメリカやギリシアのような社会は,子どもの貧困は,親が働けない世帯への公的援助がどうなっているのかという,福祉の問題として提起されますが,わが国の場合,そうした福祉の枠を越えた,雇用構造全体の問題としての性格を持っているようです。

 今回みたのは,一人親世帯の子どもの貧困率ですが,ここで見出されたわが国の特異性をして,一部のマイノリティーの問題と切って捨てることは誤りでしょう。

2014年1月23日木曜日

試験問題の解答

 昨日は調査統計法1の試験でしたが,やりっぱなしで終わりというのも何ですので,3問中1問の解答を掲載します。問2にて,以下のような問題を出しました。


 ちょっと戸惑った学生さんが多かったようですが,ヒントを与えたらできたようです。日本でいうと,有業者126人中61人(48.4%)がフルタイム,54人(42.9%)がパートタイム,残りの8.7%が自営等です。この構成比を,有業のボックス内で表現すればいいわけです。

 解答は以下のごとし。


 働き盛りの女性のすがたの違いが「パッと見」で分かる仕掛けです。これはエクセルでつくったものですが,手書きによる模範解答例も載せておきましょう。某学生さんの解答を拝借します。


 ご丁寧に,④の専業主婦の領分に色をつけてくれています。日瑞の差がスゴイですね。「ここまで違うことに驚きました」という添え書きも多数ありました。

 最新の『世界価値観調査』の結果は4月に公表されますが,2010年近辺のデータで同じ図をつくったらどうなっているか。その図柄がどうであるかによって,近年の男女共同参画施策の評価がなされることになるでしょう。
http://www.wvsevsdb.com/wvs/WVSAnalize.jsp

 調査統計法1の受講生のみなさん,お疲れさまでした。評価ですが,試験一発でつけることはしませんのでご心配なく。毎回の出席や課題提出等の記録もバッチリつけています。これらも勘案して総合評価をいたします。

 来年度は前期にて,調査統計法2という授業を担当します。こちらは発展科目です。統計法1はもっぱら座学でしたが,2ではコンピュータ(エクセル)を使ったデータ処理などを扱う予定です。よろしかったらお越しください。

2014年1月22日水曜日

迷惑行為を報告

https://twitter.com/yunishio/status/398835727611359232

 上記のツイートを迷惑行為として報告しました。

 本ブログの内容に対する反論のついでのようですが,このような誹謗中傷を受ける謂れはありません。「死んだほうがいい」などと記述することは,自身の人間性を疑われる行為であることをよく認識すべきかと思います。

 この人物の非道を,ここにて公表いたします。


*追記。この人物に当該ツイートの削除要請をしたところ,この人物が反論を寄せたブログ記事を削除することが条件などと言ってきました。そういうこと以前に,匿名で「死んだほうがいい」などと人を罵ることに,何の罪悪感も感じていないようです。

 この “ yunishio ” なる人物は,私が反論に応じないことを問題視しているようですが,匿名の反論など「論」とは認めません。

 もう,やれるだけのことはしました。あとは,ツイッター社からこの非道者に鉄槌が下されることを願うだけです。

以上

2014年1月21日火曜日

年収の官民差

 イカのスルメはしゃぶるほど味が出るといいますが,総務省の『就業構造基本調査』も然り。公表されている統計表の一覧をみるたびに,「こんなことまで分かるのか」と驚かされることがしばしばです。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 本調査の結果集計では,有業者の年収分布が,従業上の地位別・産業別に明らかにされています。私は,この統計表を使って,有業者全体と公務員の年収分布を比較してみました。

 年収の官民比較です。公務員の優位性はよく知られていますが,その程度を数字で表してみるとどうなのか。個人的な興味を抱いた次第です。ちなみに,本調査でいう年収とは,「賃金,給料,手間賃,諸手当,ボーナスなど過去1年間に得た税込みの給与総額」です(用語解説)。

 性別と正規・非正規の影響を除くため,男性の正規職員の年収分布を比べてみます。最新の2012年調査のデータをもとに,有業者全体と公務員の年収分布曲線を描くと,下図のようになります。年収が不明の者は分母から除外しています。


 予想通り,公務員の優位性が明らかです。全体のピークは300万円台ですが,公務員は500万円台なり。全体的にみても,公務員は高いほうに多く分布しています。ただ,年収1,000万以上の富裕層は全体のほうが多くなっています。民間の飛び抜けた富裕層でしょう。

 上記の分布から,年収の平均値(average)を出してみましょう。階級値の考え方に依拠して,100万円台の階級は中間の150万円,200万円台は250万円というように,一律にみなします。上限のない1,500万以上の階級は,一律2,000万円ということにします。

 この仮定によると,全産業の男性正規職員の平均年収は501万円,公務員のそれは604万円と算出されます。その差は1.2倍。全国値でみると,まあこんなものでしょうか。

 しかるに,この倍率は県によって大きく違うと思われます。私の郷里の鹿児島では,「公務員はいいよね」とよくいわれます。それもそのはず。民間の給与水準が低いので。地元の新聞で,県内の官民差は1.5倍などという記事を見かけたことがありますが,本当かしらん。

 私は,上記と同じデータを47都道府県分そろえて,先ほどと同じやり方で,全体と公務員の平均年収を計算しました。下表は,その一覧です。都道府県別の年収の官民差をご覧ください。


 男性正規職員でみて,年収の官民差が最も大きいのは秋田です。全体が397万円に対し,公務員は565万円。その差は1.42倍にもなります。前に,公立学校教員の給与の対民間比を出したことがありますが,そこでもこの県がトップでしたな。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/03/2010.html

 赤色は倍率が1.4以上ですが,秋田のほか,鳥取,長崎,宮崎,そして沖縄が該当します。年収の官民差が1.4倍を越える県です。郷里の鹿児島は1.37倍。1.5倍というのはオーバーですが,官民差が大きい部類に入ります。

 一方,都市部では倍率は低いですね。首都圏の1都3県は軒並み1.1倍程度です。大都市では,民間の給与水準が高いことによります。

 右端の官民差を表す倍率を地図化してみましょう。1.25未満,1.25以上1.30未満,1.30以上1.35未満,1.35以上という4階級を設けて,各県をグラデーションで塗り分けてみました。


 色が濃い県は,年収の官民差が大きい県ですが,やはり地方で多いですね。首都圏や近畿圏のような都市部は白色です。

 今回のデータは興味本位で作成したものであり,何かの主張をするがためにつくったものではありませんが,自治体オンブズマンなどの活動で,この手のデータに関心をお持ちの方もおられると存じます。そういう方々の参考になれば幸いです。

 今回みたのは男性の正規職員の年収ですが,一口に公務員といっても,属性によって多様です。女性や非正規にも目配りしたらどうでしょう。「官製ワーキングプア」という言葉があるように,非正規公務員の悲惨さはよく報じられるところです。

 次回は,公務員の年収構造を,性別・雇用形態別に俯瞰することのできる図をご覧に入れようと思います。

2014年1月18日土曜日

昭和30年代初頭の青年の自殺

 ここ数年,自殺者数が減少し,自殺防止の取組の効果ありと報じられていますが,青年層の自殺率だけは上昇しています。大卒者のシューカツ失敗自殺などが取り沙汰されていることを思うと,さもありなんです。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/10/blog-post_24.html

 しかるに,今の青年も大変ですが,昔の青年の「生きづらさ」といったら現在の比ではなかったことが知られます。下の図は,20代前半の自殺率の長期推移を描いたものです。当該年齢人口10万人あたりの自殺者数です。分子は厚労省『人口動態統計』,分母は総務省『人口推計年報』から得ています。なお,比較の対象として人口全体の自殺率カーブも添えています。


 今世紀以降,青年の自殺率が上昇し,全体の水準に近づいたなどと騒がれていますが,1950年代後半の頃は,この層の自殺率がべらぼうに高かったようです。ピークは1958(昭和33)年の65.6であり,2012年現在(20.4)の3倍以上です。

 1958年といったら,あの「三丁目の夕日」の時代です。高度経済成長への離陸期にあり,青年層もさぞ明るい未来展望を持てた時代だと思われますが,上図のカーブをみると「?」をつけざるを得ません。

 20代前半の位置を知るために,自殺率年齢曲線を描いてみましょう。青年の自殺率がピークであった1958年と2012年について,5歳刻みの年齢層別の自殺率を出し,折れ線でつないでみました。


 昔と今では,曲線の型が大きく違っています。現在は,中高年層をピークとしたフラットな型ですが,1958年では,青年層と高齢層の自殺率が際立って高くなっています。

 高齢層の自殺率が高かったのは,戦前の家父長制が崩壊し,高齢者の立ち位置が揺らいでいたことによるでしょう。高齢者は家族で扶養すべしという考えが揺らぐ一方で,年金制度も未発達だった頃です。現在の韓国と似た状況であったと思われます。

 それでは,問題の青年層のほうはどうか。1958年の曲線では,20代前半の箇所に鋭い山がありますが,これは何に由来するのでしょう。当時の自殺報道の記事をちょっと調べてみました。

 「聞蔵」と「ヨミダス歴史館」にて,昭和30年代前半という時期指定をして,「若者(青年)&自殺」という語で記事検索してみたところ,出るわ出るわ。事件の報道のほか,青年の自殺について考察した社説等も数多くヒットしました。

 その全貌を紹介することはとてもできませんが,最も興味をひかれた記事を一つ紹介します。1957(昭和32)年12月11日の朝日新聞の記事です。


 「古い考えとの断層」「モラル過度期の悲劇」ですか。この記事は,伊豆の天城山で起きた大学生男女の心中事件を引き合いに出していますが,個々の事件報道をみても,親から交際や結婚を反対されて心中といったものがやたら目につきます。

 当時は,見合い結婚と恋愛結婚が並存していた頃であり,相思相愛の間柄であっても結婚を認めてもらえず,無理心中に身を焦がす青年男女もいたことでしょう。これなどは「古い考えとの断層」の典型例です。

 2番目の「モラル過度期の悲劇」についても分かります。戦争が終わって10年ほどしか経っていない当時は,戦前と戦後の新旧の価値観が混在していた,まさに「モラル過度期」でした。こうした状況のなか,生きる指針に困惑した青年も多かったことでしょう。

 親とかの古い世代はこう言うけど,社会一般ではこう言われている。両者に引き裂かれる者もさぞいたことかと。ちなみに,当時の青年の自殺動機をみると,「厭世(えんせい)」がトップです。世の中が嫌(厭)になったということです。今では,学業不振とかシューカツ失敗とかでしょうが,昔はスケールがより大きなものでした。

 「激変の時代は危機の時代」。何かの本で読んだことがありますが,「激変の時代」という点では,当時も現在も同じです。情報化,グローバル化,私事化・・・。人々の生き方の変革を促すような地殻変動が目下進行中ではありませんか。

 働くことに対する意識一つとっても,親世代と子世代の間には断絶がみられます。自分たちの生き方(働かざる者食うべからず)を押し付ける親と,それに反発する子どもの葛藤。そうした諍いを苦に自殺する青年もいます。最近では,自殺動機の中で「親子関係の不和」の比重が高まっていることも付記しておきましょう。
https://twitter.com/tmaita77/status/417637380401532929

 今回お話したのは,半世紀以上も前の昔話ですが,現在ないしは近未来の問題に通じるものとして受け止めるべきだと思います。下の世代の新しい生き方を受容すること。それは,社会を揺るがすことではなく,社会を変革することにもつながり得るのです。

2014年1月13日月曜日

47都道府県の子どもたち2012(総合)

 「47都道府県の子どもたち2012」プロジェクトの最終回です。これまで3回かけて,発育(病),能力,および逸脱という3側面を測る9つの指標をもとに,各県の小・中学生のすがたを診てきました。今回は,これらを総動員した総合診断を行うことにいたしましょう。

 下の表は,各回で提示してきた9指標の相対スコアの一覧です。1~5位を10点,6~10位を9点,11~15位を8点,16~20位を7点,21~25位を6点,26~30位を5点,31~35位を4点,36~40位を3点,41~45位を2点,46~47位を1点,としています。マックスの10点は赤色にし,全県の最高値には黄色のマークを付しました。


 9つのスコア値をレーダーチャートの形でグラフ化すると,各県の子どもの多角診断カルテができあがります。私は,秋田と東京のカルテをつくってみました。


 図形の型が大きく違っていますね。秋田は,能力の3指標はいずれもマックス(10点)ですが,東京は,この部分が凹んでおり,逸脱の部分が突き出ています。

 右下には,各項目の3指標のスコアを均した簡易カルテを掲げています。個々の具体的な指標よりも,どの部分が課題であるのかを大まかに知りたいという方は,こちらをご覧いただくとよいかと思います。

 ここでは全県のカルテをお見せすることはできませんが,カルテの型は県によって多様です。上表の元データを使って,ご自分の県ないしは関心のある県のカルテをつくってみてはいかがでしょう。エクセルでグラフ化してもよし,方眼紙で作図してもよしです。

 最後に,3観点・9指標のスコアを均して,子どもの状態の良し悪しを測る総合スコアを出してみようと思います。数値が高いほど好ましいという意味合いを持たせるため,発育(病)と逸脱の6指標のスコアは反転させます。10点を1点,9点を2点,・・・1点を10点とします。能力の3指標のスコアはそのままです。

 このように変換した9指標のスコア平均をして,子どもの状態を総合的に測るスコアといたしましょう。下の表は,この数値が高い順に47都道府県を並べたものです。


 トップは富山です。秋田かと思いましたが,当県では虫歯や肥満の率が高いことがネックとなったみたいですね。郷里の鹿児島は20位,首都の東京は35位なり。

 発育・能力・逸脱という観点からした,小・中学生のすがたの総合評価スコアです。各県の関係者諸氏の参考に与するところがあれば幸いに存じます。むろん,粗雑な部分も多く含んでいますが,教育測定の向上・発展に向けた議論の足がかりとなることをも願うものです。

 ちなみに,2008年に刊行した拙著『47都道府県の子どもたち』(武蔵野大学出版会)では,全県分のカルテを掲載するとともに,各県の子どもをとりまく環境の診断も手掛けております。興味ある方はお手にとってください。割引販売もいたしております。

2014年1月12日日曜日

47都道府県の子どもたち2012(能力)

 「47都道府県の子どもたち2012」プロジェクトの3回目です。前々回は発育,前回は逸脱の側面を取り上げましたが,今回は能力に注目しようと思います。

 子どもの能力といっても多種多様ですが,ここでは「知・徳・体」という枠組みに依拠して,小・中学生の学力,体力,および道徳意識の3側面を計測してみることにしましょう。

 まず学力ですが,文科省『全国学力・学習状況調査』(2012年度)の教科テストの平均正答率を使います。東京都でいうと,公立小学校6年生の各教科(科目)の平均正答率は,国語Aが83.5%,国語Bが58.2%,算数Aが74.7%,算数Bが62.3%,理科が62.9%です。公立中学校3年生のほうは,国語Aが75.9%,国語Bが64.4%,数学Aが63.9%,数学Bが51.3%,理科が50.0%です。
http://www.nier.go.jp/12chousakekkahoukoku/index.htm

 これら2学年・10科目の平均正答率を均すと64.7%となります。各県の小・中学生の学力を総合的に測るメジャーとして,この数値を用いることにします。

 体力は,2012年度の文科省『全国体力・運動能力,運動習慣等調査』の実技テストにおいて,総合評価(5段階)がAの児童・生徒がどれほどいるかに注目します。調査対象の公立小学校5年生,公立中学校2年生の児童・生徒のうち,実技の総合評価がAの者の比率(%)です。
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/kodomo/zencyo/1332448.htm

 最後の道徳意識については,2012年度の文科省『全国学力・学習状況調査』の生徒質問紙調査にて,以下の問いに「当てはまる」と答えた者の比率を出し,平均してみました。

 ①:学校のきまりを守っていますか
 ②:友達との約束を守っていますか
 ③:近所の人に会ったときは,あいさつをしていますか
 ④:人の気持ちが分かる人間になりたいと思いますか

 東京都でいうと,調査対象の公立小学校6年生,中学校3年生のうち,上記の各項目に「当てはまる」という強い肯定の回答をした者の比率は,①が46.9%,②が61.0%,③が57.3%,④が73.6%です。この4つを均した59.7%という数値でもって,大都市・東京における子どもの道徳意識のメジャーといたしましょう。

 それでは,前回までと同様,3指標の県別一覧表をご覧ください。右欄は,順位に基づいて出した相対スコアです。1~5位を10点,6~10位を9点,11~15位を8点,16~20位を7点,21~25位を6点,26~30位を5点,31~35位を4点,36~40位を3点,41~45位を2点,46~47位を1点。としています。
 

  まず実値の欄にて,47都道府県のレインヂ(極差)を取り出すと,学力は69.1%(秋田)~55.9%(沖縄),体力は28.5%(福井)~9.3%(大阪),道徳意識は67.4%(山梨)~57.1%(京都),というようになっています。結構差がありますね。

 次に,相対スコアの欄にて,上位県の顔ぶれをみてみましょう。1~5位を意味する10点は赤色にしていますが,学力は北東北と北陸の県で占められています。トップは秋田,2位は福井です。

 しかし,この2県はスゴイですね。秋田は,学力,体力,道徳意識ともマックスの10点です。福井もそれに近し(10,10,9)。学力上位常連として注目される2県ですが,それだけではないのですね。「知・徳・体」の調和のとれた人間形成がなされていることが知られます。

 表の右端は,3指標のスコアを均した値です。「知・徳・体」の能力の総合メジャーですが,上位5位は赤字の通り。秋田,福井,富山,宮崎,そして茨城です。

 では,3側面の能力の平均スコアを地図化してみましょう。6点未満,6点以上7点未満,7点以上8点未満,8点以上,という4つの階級を設け,青色のグラデーションで塗り分けてみました。


 濃い色は点在していますが,首都圏の1都2県,近畿圏が軒並み白色であるのがちょっと気になります。前回の逸脱マップの裏返しともとれるような・・・。都市部における人間形成の有様を点検してみる必要もありそうです。

 これまで3回かけて,子どもの発育,逸脱,および能力の3側面(9指標)を診てきました。次回は,これらを総動員した総合診断をいたします。具体的には,9指標の相対スコアを使って,各県の子どものすがたを多角的に見てとれるカルテをつくってみようと思います。乞うご期待。

2014年1月11日土曜日

47都道府県の子どもたち2012(逸脱)

 「47都道府県の子どもたち2012」プロジェクトの第2回目です。前回は,子どもの発育問題に焦点を当てましたが,今回は,彼らの逸脱行動に注目しようと思います。

 私は,非行,いじめ,および不登校というよく知られた逸脱行動の頻度を,都道府県別に計算してみました。具体的にいうと,小・中学生の非行者出現率,いじめ容認率,不登校者出現率の3指標です。

 順に説明しましょう。非行者出現率は,2012年中に刑法犯で検挙・補導された小・中学生数を,同年5月時点の小・中学生数で除した値です。ベース1万人あたり何人か,という単位で出しました。分子は警察庁『犯罪統計書』,分母は文科省『学校基本調査』から得ています。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm

 いじめ容認率は,公立の小・中学生のうち,「いじめはどんな理由があってもいけないことだと思う」という項目に対し,「どちらかといえば当てはまらない」もしくは「当てはまらない」と答えた者の比率(%)です。資料は,2012年度の文科省『全国学力・学習状況調査』の結果を用います。
http://www.nier.go.jp/12chousakekkahoukoku/index.htm

 不登校者出現率は,2012年度中に「不登校」という理由で年間30日以上欠席した小・中学生数を,同年5月時点の全児童・生徒数で除して出しました。単位は‰です。分子・分母とも,出所は文科省『学校基本調査』です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 それでは,この3指標の都道府県別一覧表をみていただきましょう。前回と同様,実値のほか,47都道府県中の順位に基づく相対スコアも添えています。1~5位を10点,6~10位を9点,11~15位を8点,16~20位を7点,21~25位を6点,26~30位を5点,31~35位を4点,36~40位を3点,41~45位を2点,46~47位を1点,としたものです。


 実値をみると,非行率は12.2(岩手)~70.2(岡山),いじめ容認率は3.3%(宮崎)~8.3%(神奈川),不登校率は7.7‰(秋田)~13.3‰(宮城),というレインヂがみられます。県によってずいぶん違うものですね。

 次に相対スコアの欄をみてみましょう。赤色の10点(1~5位)に注目すると,表の下側,つまり西日本に多く分布しています。大雑把にみて,子どもの悪さは「東低西高」って感じでしょうか。

 細かくみると,非行は中国・四国地方で多いようです。いじめを容認する児童・生徒は,首都圏や近畿圏といった都市部で多し。不登校率はトップが宮城ですが,これは震災の影響も被っていることと思われます。長期の避難生活に伴う,子どものストレス・精神疾患の増加が指摘されていますし。

 表の右端の数値は,3指標のスコアを均したものです。子どもの逸脱の総合スコアとして使えるものですが,トップは大阪と奈良の9.3点です。ほか,和歌山,岡山,高知といった県のスコア平均も高くなっています。いずれも「西」の県ですね。

 では,全県の傾向を視覚的にみてとるために,この値を地図化してみましょう。前回と同様,5点未満,5点以上6点未満,6点以上7点未満,および7点以上という4つの階級を設け,各県を塗り分けてみました。


  逸脱の「太平洋ベルト」といいますか,東海から中国まで濃い色がつながっています。近畿圏は,三重を除いて軒並み濃い色で染まっているのも気がかりです。前回みた,発育問題のマップの模様とは違っていますねえ。

 ちなみに,この逸脱スコアと人口集中地区居住率(2010年)の相関係数は+0.491であり,1%水準で有意です。都市的環境と逸脱の相関という,よく知られた事実が観察されます。

 次回は,能力という側面に焦点を当てます。「知・徳・体」という枠組みに依拠して,各県の小・中学生の学力・体力・道徳意識の指標を出してみようと思います。そして次々回において,3視点・9指標を総動員した,総合診断を行うことにいたします。

2014年1月9日木曜日

47都道府県の子どもたち2012(発育)

 私は2008年に,『47都道府県の子どもたち』という本を武蔵野大学出版会より出しました。発育,能力,および逸脱という視点を設け,各県の子どものすがたを多角的・総合的に診断しようという試みです。
http://www.ajup-net.com/bd/isbn978-4-903281-10-0.html

 本書で用いているのは主に2007年のデータですが,そろそろデータを更新したいという欲が出てきました。現在では,2012年のデータを軒並み揃えることができます。これから4回かけて,2012年の県別の子ども診断をしてみようと思います。名づけて「47都道府県の子どもたち2012」プロジェクトです。子どもとは,義務教育段階の小・中学生をさすこととします。

 初回の今回は,子どもの発育状況に焦点を当てましょう。「健康第一」とは周知のフレーズですが,子どもの学力云々がよく言われる割には,こうしたプライマリーな部分への関心は小さいようにも思えます。しかるに近年,各種の病気を患う子どもが増えてきていることは,よく指摘されるところです。

 私は,子ども期の代表的な疾患である喘息と虫歯の罹患率を県別に計算してみました。また,体格を歪みを表す指標として,肥満傾向児の比率も出してみました。この3つの指標でもって,47都道府県の子どもの発育状況を診てみようと思います。

 文科省の『学校保健統計調査』(2012年度)には,小・中学生の喘息罹患率,未処置の虫歯がある者の率,そして肥満傾向児率が県別・学年別に掲載されています。この数値を,『学校基本調査』(同年)から分かる各県の各学年の全児童・生徒数に乗じて,学年別の罹患者数の実数を出しました。この実数の合算値を,各県の小・中学生数で除して率を計算した次第です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa05/hoken/1268826.htm

 下表の左欄は,算出された率(%)の県別一覧です。なお,3指標を同列評価するための相対スコアも出してみました。1~5位を10点,6~10位を9点,11~15位を8点,16~20位を7点,21~25位を6点,26~30位を5点,31~35位を4点,36~40位を3点,41~45位を2点,46~47位を1点,としたものです。右欄に掲げているのは,このやり方で換算した相対スコアです。


 まず実数をみると,喘息率は1.3%(青森)~6.3%(新潟),虫歯率は16.9%(新潟)~40.3%(沖縄),肥満率は3.1%(京都)~6.6%(福島),というレインヂが観察されます。沖縄では,小・中学生の4割以上が虫歯っ子ですか。

 次に,各県の順位に依拠した相対スコアをみてみましょう。10点(1~5位)は赤色にしましたが,地域性が出ていますね。喘息は首都圏,虫歯は南九州,肥満は北海道・東北ではありませんか。

 大気汚染が相対的に進んでいる都市部で子どもの喘息が多いのは,頷けること。南九州で虫歯が多いのは,親族関係が比較的濃厚で,祖父母等が子どもに甘いお菓子を与える頻度が高い,ということでしょうか。北国で肥満率が高いのは,雪に閉ざされた冬場の運動不足という要因がよくいわれます。

 表の右端は,3指標のスコアの平均値(average)です。この数値でもって,子どもの発育の歪みを総合評価することにいたしましょう。この指標を地図化すると,下図のようになります。5点以下,5点以上6点未満,6点以上7点未満,および7点以上という4階級を設け,各県を塗り分けてみました。


 子どもの発育問題が相対的に色濃いのは,北関東や南東北です。宮城や福島といった震災の被災地も含まれます。スコア平均のトップは福島の9.3点です。長期の避難生活や外出制限によるところが大きいと思われます。

 地図をみると,中部や近畿圏は色が薄くなっていますが,次回以降でみる能力や逸脱という点ではどうでしょう。本プロジェクトのウリは,各県の子どものすがたを多角的・総合的に診ることです。

 次回は,逸脱という観点を据えてみます。非行やいじめといった,標準からズレた(逸脱した)行いの頻度が観察されることになります。この視点による地図は,上図のものとはまた違っていることでしょう。お楽しみに。

2014年1月5日日曜日

身の回りサービス従事者率の国際比較

 女性の社会進出や高齢化の進展に伴い,保育や介護職への需要が高まっています。はて,現在のわが国では,これらの職に従事する人間はどれほどいるのでしょうか。人口あたりの比率は,他国に比して高いのでしょうか。

 OECDの国際成人力調査“PIAAC2012”では,調査対象者の職業を尋ねています。記入された職業名を後から分類するアフターコード形式ですが,設けられているカテゴリーの一つに「身の回りサービス従事者」というものがあります。英語でいうと,“Personal care workers”です。

 保育従事者や介護福祉従事者は,このカテゴリーに含まれます。この中には,教師補助員や医療補助員なども混じっていますが,保育や介護に従事する人間の量を測る指標として使えるでしょう。私は,このカテゴリーの職に従事する者が調査対象者全体に占める比率を,国ごとに計算しました。

 日本の場合,本調査の対象者(16~65歳)は5,278人です。うち,身の回りサービス従事者は204人です。したがって,この職業に従事している人間の比率は3.87%となります。16~65歳の国民26人に1人というところです。

 この数値を他国についても出し,高い順に並べてみました。下の表は,計算不能な国を除く18か国のランク表です。なおこのデータは,PIAAC2012のローデータを独自に分析して作成したものであることを申し添えます。未加工データは,下記サイトにてDL可能です。
http://www.oecd.org/site/piaac/publicdataandanalysis.htm


 トップはスウェーデンですね。この国の身の回りサービス職従事者率は7.94%であり,わが国の倍以上です。2位は同じく北欧のノルウェー,3位は「ゆりかごから墓場まで」のイギリスとなっています。

 下位のほうをみると,南欧や東欧の国が多くなっています。イタリアやスペインの出生率低迷は,こういう条件とも関連しているかもしれませんね。旧共産圏で率が低いのは,何か特殊事情があるのでしょうか。ちょっと分かりません。

 日本の3.87%は,中央よりちょっと高いという位置ですが,保育や介護の対象人口が多いことを勘案すると,どう評価していいものか・・・。この層の対人口比率も出し,これと関連づけてみましょう。

 ここでは,10歳未満人口と65歳以上人口の合算をもって,保育・介護の対象層とみなします。国連の人口推計サイトの統計によると,2010年の日本の場合,この意味での対象人口比率は31.6%です。全国民のおよそ3分の1なり。
http://esa.un.org/unpd/wpp/unpp/panel_indicators.htm

 18か国について,保育・介護対象人口比率を出し,上表の身の回りサービス職従事者率と関連づけると,下図のようになります。点線は,18か国の平均値です。


  予想されることですが,高齢化が進んでいる日本は,保育・介護の対象人口率はトップです。しかし,身の回りサービス職従事者率はというと,北欧はおろか,米国よりも低くなっています。

 需要の充足率という点でいうと,日本はややお寒い状況にあるようです。南欧のイタリアやスペインはもっと。先にも書きましたが,この2国の出生率低迷は,こういう部分にもよるのではないかしらん。

 これから先,どの社会も図の右側にシフトすることは確かですが,右上に行くか右下に行くかは政策次第。PIAAC調査も定期的に実施されると聞いています。次回の調査において,各国の位置はどう変化しているか。定点観測をしていきたいテーマです。

2014年1月2日木曜日

国民の悩みやストレス

 2014年の新春ですが,いかがお過ごしでしょうか。私は今日は,朝から箱根駅伝に見入っていました。タスキをかけて一心に前を向いて走る青年は美しい。昨年も同じことを書きましたが,仕向け方次第で青年は輝く存在なのだと思います。

 今日は皇居で一般参賀があり,天皇が「国民一人一人にとっての安寧と幸福を祈る」と挨拶されたそうですが,残念ながら「安寧」に一年を過ごせる人間などそうはいないもの。事故や災害など,目に見えるトラブルに遭遇する者は少ないでしょうが,心の内に何かしらの悩みや心配事を抱え,年中それに付きまとわれる人は結構いると思われます。

 今回は,国民のうち,悩みやストレスを抱える者がどれほどいるか,その原因の内訳はどういうものかをみてみようと思います。年明け早々不景気な話ですが,社会の「おめでたくない」部分を観察し,それを可視化するのが私の商売ですので,どうかお許しください。

 用いる資料は,厚労省の『国民生活基礎調査』です。毎年実施されている調査ですが,3年おきの大規模調査では,対象者(12歳以上)の健康状態についても調べています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html

 最近の大規模調査は2010年に実施されていますが,本調査において,悩みやストレスがあると答えた者の比率を年齢層別に出し,グラフにしてみました。以前に比してどうなったかもみるため,前世紀末の1998年の曲線も添えています。


 今世紀以降,悩みやストレスを有する者の比率は,どの年齢層でも上昇していますね。2010年でみると,最も率が高いのは35~44歳で54.7%です。思ったより低いなという印象ですが,ピークが私の年齢層とは・・・。

 バリバリの働き盛りであり,職場では重責を与えられ,家庭では子育て(人によっては介護)の役割も課される年代ですので,さもありなんというべきか。なお最近では,75歳以上の高齢層の悩みやストレスが増えていることも注目されます。
 
 以上は悩みやストレスの量(magnitude)ですが,その内実としては,どのようなものが多いのでしょう。上記の調査では,悩みやストレスがある者に対し,その原因を複数回答で尋ねています。私は,挙げられた原因の内訳を視覚的にみてとれる図をつくってみました。年齢層別の原因内訳を,とくとご覧ください。


 言わずもがな,年齢層ごとの特徴が出ていますね。10代では学業や受験,20~40代では収入や仕事,さらには家事・育児・子育てにまつわる悩みもついて回ります。そして高齢期では,自分ないしは家族の病気・介護の比重が大きくなる,という具合です。

 まあこれは,悩みやストレスがある者だけを取り出した結果ですが,こういう人間の絶対量が増えていることは,最初の図でみた通りです。

 今年は,こうした悩みやストレスが少しでも減ることを願います。百聞は一見に如かず。上のような統計図を拡大して,国会議事堂の廊下の壁にでも貼らせていただきたい。こんな思いでいるのです。

2014年1月1日水曜日

迎春 2014

 年が明けました。謹んで,新年のお慶びを申し上げます。今年も,本ブログをよろしくお願い申し上げます。

2014年 元旦
舞田 敏彦

 これだけではさびしいので,昼過ぎの散歩で撮った写真を一枚。都立桜ヶ丘公園内です。快晴で気温も上がり,過ごしやすい元旦です。記録にとどめておこうと思います。