2012年3月27日火曜日

教員給与の相対水準(2010年)

本日,2010年の『学校教員統計調査』の詳細結果が文科省より公表されました。「待ってました!」という思いです。下記サイトにて,ホカホカの統計表がアップされています。さあ,何から分析したものやら。離職率,学歴構成,新規採用者の属性・・・分析してみたい事項は山ほどあります。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172

 ひとまず,最新の教員給与の統計からみてみましょう。1月29日の記事では,2007年のデータを使って,民間と比した場合の教員給与の相対水準を明らかにしたのですが,この記事をみてくださる方が多いようです。さあ,3年経った2010年のデータでは,どういう傾向が観察されるでしょうか。

 上記の文科省調査から,2010年における公立学校教員の平均給与月額を知ることができます。この数値を,全産業の大卒労働者のそれと比較してみます。後者の出所は,2010年の厚労省『賃金構造基本統計調査』です。性別の影響を除去するため,男性のみの統計を使います。

 なお,全産業の大卒労働者の給与は,所定内給与の平均月額です。先の記事では,「決まって支給される給与額」を用いたのですが,この中には,超過労働給与額(残業代)が含まれます。教員給与のほうには残業代が含まれていませんので,民間労働者の給与も,残業代を除いた所定内給与額で測ることとします。よって,1月29日の記事の分析結果と単純な比較はできないことに留意ください。

 では,作業を始めましょう。まず,公立学校教員と大卒労働者の給与が,この10年間にかけて,どう推移してきたかをみてみます。『学校教員統計調査』が実施された年の数字を拾っています。


 悲しいかな,教員のほうは学校種を問わず,給与は低下の一途をたどっています。小学校でいうと,2001年の40.4万円から2010年の36.9万円まで落ちました。民間のほうは,最近3年間の低下が目立っています。おそらく,2008年のリーマンショックの影響でしょう。教員給与の低下も,こうした民間の動向に合わせたものといえるかもしれません。

 では,大卒労働者の給与と比べた場合の教員給与の相対水準はどうでしょう。下段の数字は,前者を1.0とした場合の指数です。教員給与が民間の何倍かという測度です。これをみると,少し前の高校を除いて,軒並み1.0を下回っています。つまり,教員の給与は民間よりも低い,ということです。しかも,この倍率は近年になるほど下がってきています。小学校では,0.99から0.93へのダウンです。

 むーん。先の記事にコメントを下さった,埼玉県の公立高校の先生は,「名誉職だと思ってがんばります」とおっしゃってましたが,今の現場は,先生方のそういう(健気な)心意気に支えられている部分が大きいのだろうなあ。

 しかるに,これは全国の傾向です。個々の教員の任命権者は都道府県ですが,47都道府県ごとにみれば,様相はさぞ多様であることでしょう。

 県別の教員給与は文科省の統計から分かりますが,一般労働者のほうは,県別の場合,全学歴をひっくるめた給与額しか分かりません。そこで,全国統計において,大卒労働者の給与が全学歴の労働者の何倍かという倍率を計算し,その値を各県の全学歴の労働者給与に乗じて,県別の大卒労働者給与を推し量りました。

 全国統計でいうと,全学歴の男性労働者給与は32.8万円,大卒労働者給与は39.5万円ですから,前者に対する後者の倍率は1.204となります。東京都の場合,全学歴の給与は40.1万円ですから,この地域の大卒給与はこれを1.204倍して,48.3万円と推計されます。

 この方式で推し量った各県の大卒労働者給与と,文科省の統計から得た教員給与の県別一覧表を掲げます。


 全県で最も高い値には黄色,最も低い値には青色のマークをしています。最大値は,小学校は茨城,中高は広島です。最も低いのは・・・くおー,わが郷里の鹿児島が中高の最低値とは。広島と鹿児島の中高の先生では,およそ7万円の月収差があります。

 まあ,それでも鹿児島の教員給与は,同性・同学歴の民間労働者よりは高くなっています。地方は,民間の給与水準が低いからなあ。その民間の大卒労働者の給与(推計値)は,最高は東京,最低は沖縄です。こちらは分かりやすい構図です。しかし,両端で20万円の開きとはスゴイ。教員の場合,給与の地域差が小さいのは,国による給与補助があるためです(義務教育費国庫負担制度)。

 ちなみに,教員給与は,3年前の2007年と比べて,かなりの順位変動があります。給与が上がった県もあれば,その逆もあり。2007年の県別教員給与は,1月26日の記事をご覧ください。

 それでは最後に,大卒労働者の給与に対する教員給与の相対倍率を出してみましょう。鹿児島や沖縄は1.0を超えるでしょうが,そうでない地域もあります。下表は,指数値の一覧です。


 倍率が1.0を超える場合は赤色,1.2を超える場合はゴチの赤色にしています。全国単位でみた場合,教員給与は民間より低いのですが,県ごとに細かくみると,その逆のケースが目立ちます。赤色,とくにゴチの赤色は,北東北や南九州といった周辺地域に多く分布しています。

 同性・同学歴の民間労働者と比した給与の相対水準が最高なのは,小・中学校は秋田,高校は青森です。この両県の数字は,オール1.2以上です。秋田は学力テストの上位常連県ですが,こういう待遇の良さが影響していたりして。

 その反対は東京です。こちらは,教員給与は民間の7~8割ほどです。大都市では,民間の給与水準が高いためです。大阪,愛知など,他の目ぼしい都市地域も,教員給与のほうが低くなっています。

 この指標と教員の離職率の相関をとったら,どういう結果が出るかなあ。常識的には,給与倍率が高い県ほど,そういう好待遇にしがみつく教員が多いでしょうから,負の相関になることが見込まれます。ですが,「この高給取り野郎が・・・」と世間から突き上げを食らい,肩身が狭い思いをしている教員が多いという見方もできますので,逆の結果になるとも考えられます。

 まあ,この課題は保留にしておいて,今すぐできる面白い課題があります。3月6日の記事で明らかにした,県別の教員採用試験競争率との相関分析です。仮説的には,給与倍率が高い県ほど志望者が殺到し,競争率が高くなると思われます。

 長くなるので,今回はこの辺りで。次回に続きます。