2012年11月30日金曜日

全世帯の所得分布によるジニ係数の推移

 8月10日の記事では,民間企業勤務者の年収分布をもとに,ジニ係数の推移を出してみました。しかしこのデータには,就業していない者や公務員は含まれていません。

 今回は,社会のありとあらゆる層を含んだ統計を使って,わが国のジニ係数の推移を明らかにしようと思います。用いるのは,厚労省の『国民生活基礎調査』のデータです。この資料では,世帯単位の所得分布が明らかにされています。調査対象世帯は,母集団の縮図となっており,当然,非就業者世帯や単身世帯等も含まれます。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html
 
 また,本調査の場合,所得の階級区分が細かいことも特徴です。 25の区切りが設けられています。このデータを使うことで,『家計調査』の10分位階級から出すよりも精緻な形で,ジニ係数を算出することが可能です。

 2011年の『国民生活基礎調査』(所得票)の第2表には,1985年から2010年までの世帯単位の所得分布が,相対度数の形で掲載されています。各年の1月1日から12月31日までの所得分布です。2010年の世帯所得分布は,下表の左端の数値です。


 最も多いのは,300万円台の前半の階級となっています。全世帯の7.2%がこの階級に含まれます。非就業者世帯等も含む,あらゆる世帯の所得分布ですので,こんなものでしょう。

 年収が200万円に満たない世帯は,全体の19.6%です。一方,年収1000万以上の高所得世帯も11.7%存在します。まあ,所得にバラつきがあるのは当然ですが,問題はその度合いです。このデータを用いて,富の配分の格差の度合いを表す,ジニ係数を計算してみましょう。

 まず,100世帯にもたらされた富の総量を出してみます。階級値の考え方に依拠して,各階級に属する世帯の所得は,一律に中間の値で代表させます。たとえば,「50万円以上100万円未満」の階級の世帯は,中間をとって,一律に75万円の所得であるとみなします。

 この場合,「50万未満」の階級に配分された富の量は,25万×1.3世帯=32.5万円となります。その下の階級は,75万×5.2世帯=390.0万円です。25の全階級についてこの値を出し,合算すると,5億3,445万円という額になります。2010年の間に,100世帯にもたらされた富の総量です。

 問題は,この巨額の富が各階級にどう配分されているかです。表の真ん中の富量の相対度数分布によると,200万未満の貧困層には,全体の4.5%の富しか届いていません。逆をみると,1000万以上の富裕層が全富量の3割をもせしめています。

 世帯数の上では2割近くを占める貧困層ですが,彼らが受け取っている富は全体のたった4.5%だけ。反対に,世帯数では1割しか占めない富裕層が,社会全体の富の3割をも占有している。これは少なからぬ偏りといえるでしょう。

 こうした偏りは,右欄の累積相対度数をみると分かりやすいと存じます。黄色のマークをした箇所をみると,所得が400万円未満の世帯は,数の上では46.5%をも占めますが,この層が受け取っている富は,全体のわずか19.5%であることが知られます。

 では,上表の統計を使って,2010年の世帯所得でみたジニ係数を出してみましょう。ジニ係数を出すには,ローレンツ曲線を描くのでしたよね。横軸に世帯の累積度数,縦軸に富量の累積度数をとった座標上に,25の所得階級の値をプロットし,線でつないでできる曲線です。


 上図の青色の曲線が,ローレンツ曲線です。お分かりかと思いますが,世帯の累積度数と富量のそれの隔たり(ズレ)が大きいほど,つまり富の配分の偏りが大きいほど,この曲線の底は深くなります。

 われわれが求めようとしているジニ係数とは,対角線とローレンツ曲線に囲まれた部分の面積を2倍した値です。上図でいうと,ピンク色の部分の面積です。

 極限の不平等状態の場合,この部分の面積は四角形の半分の三角形に等しくなりますから,0.5となります。ゆえに,ジニ係数は1.0となります。逆に,極限の平等状態の場合は,ローレンツ曲線は図中の対角線に一致しますから,ジニ係数は0.0となります。したがってジニ係数は,0.0~1.0までの範囲をとることに留意ください。現存する社会の不平等度は,この両端の間のどこかに位置づきます。

 さて,上図の赤色の部分の面積を求めると,0.200となります。よって,世帯単位の所得分布でみた2010年のジニ係数は,これを2倍して0.400と算出されます。1985年(昭和60年)以降の推移をたどることで,この0.400という値を評価してみましょう。下図をご覧ください。


 ジニ係数はジグザグしながら上昇してきています。この期間中の最大値は,2008年の0.406です。ほう。リーマンショックが起きた年ですね。

 なお,こうした凹凸が激しいデータの推移を均すための手法として,移動平均法というものがあります。ここでは,3年間の移動平均をとることで,推移を均してみました。何のことはありません。当該年と前後両年の3年間の数値を均すだけのことです。たとえば,2000年の数値を均す場合は,1999年,2000年,そして2001年の3年次の数値の平均をとるだけのことです。

 図中の赤線は,この手法でジニ係数の推移を滑らかにしたものです。この曲線から,大局的には,わが国のジニ係数が上がってきていることが分かります。つまり,格差が拡大してきている,ということです。昨今いわれる「格差社会化」の傾向が,上図において可視化されています。

 ちなみにジニ係数の絶対評価ですが,一般にこの値が0.4を超えた場合,社会が不安定化する恐れがある危険信号と読めるそうです。近年の日本のジニ係数は,この危険水域に達しています。少しばかり怖いことです。

 ところで,昨年の7月11日の記事にて,『家計調査』の年収10分位統計から計算した同年のジニ係数は0.336だったのですが,ここのでの値はそれよりも高くなっています。先に申したように,『国民生活基礎調査』では,所得の階級区分が細かいためでしょう。ですが,こちらのほうが現実に近いのではないかと思われます。

 今回は全世帯の所得分布をもとにジニ係数を出しましたが,『国民生活基礎調査』には,18歳未満の児童がいる世帯,ないしは高齢者世帯のみの所得分布の統計も掲載されています。機会をみつけて,こうした特定の層に限定したジニ係数も出してみようと思います。

 仮に,子どもがいる世帯で富の格差が広がっているとしたら,教育機会の格差を媒介にして,貧困の世代間連鎖が起こる可能性が高くなります。これはえらいことです。

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