2018年1月11日木曜日

高齢ドライバーの数

 一昨日の朝,群馬県前橋市で,85歳の高齢者が運転する自動車に,女子高生2人が轢かれる事件が起きました。被害者は,意識不明の重体とのことです。
https://www.asahi.com/articles/ASL193FCCL19UHNB001.html

 加害者はといえば,以前から自動車を壁にこするなどの事故を頻繁に起こしていたため,「運転はしないように」と,家族から止められていたそうです。事故当日は,家族がちょっと目を離した隙にクルマで出かけてしまったそうで,被害者・加害者双方の親族にとって,やりきれない思いでしょう。

 高齢化に伴い,高齢ドライバーの絶対数は増えてきています。警察庁の『運転免許統計』によると,75歳以上の運転免許保有者は,2001年では154万人でしたが,2016年では513万人に増えています。ちょっと怖い…。
http://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/index.htm

 これは実数ですが,2016年の75歳以上人口(1691万人)に占める割合にすると,30.3%となります。後期高齢者の3人に1人が免許を持っていると。免許を持っているだけで運転しない人も多いでしょうが,高齢ドライバーの量の指標にはなります。

 この値を都道府県別に計算し,ランキングにすると,以下のようになります。2016年末の免許保有者数を,同年10月時点のベース人口で割った%値です。


 長野と群馬では,4割を超えています。後者は,一昨日,冒頭の悲劇が起きた県です。本県では,ほんの100メートルの移動にも車を使うという記事を読んだことがありますが,そこまで生活に染みついていると,高齢になっても,免許を手放すのは躊躇われるでしょう。

 一方,都市部では保有率が低くなっています(右下)。東京は,17.9%です。交通網が発達しているので,自家用車の必要性は低し。土地代が高いので,クルマの維持費もバカになりませんからね。

 上記のランク表をツイッターで発信したところ,「上位の県には住むな。老人に轢き殺されるぞ」というリプがありましたが,そういう危険のレベルを可視化する指標を計算してみましょう。

 高齢ドライバーの家族は「小さい子を轢きはしないか」と心配し,幼児の親は「この子が老人の暴走車に轢かれはしないか」と気をもんでいます。幼児の場合,危険回避もままなりませんので。

 私は,幼児人口あたりの高齢ドライバー数を県別に計算してみました。5歳未満人口100人につき,75歳以上の運転免許保有者が何人かです。危険回避ができない幼児100人につき,危険運転予備軍がどれほどいるか。

 分母は2016年10月,分子は同年末時点の数値です。


 一番下の全国値をみると,分子は分母よりちょっと多いくらいですが,県別にみると,値は大きく違っています。

 トップは秋田で,幼児100人につき危険運転予備群が186人,倍近くいます。最も低いのは東京で,こちらは幼児人口の半分ほどです。先の表でみたように,この大都市では高齢者の免許保有率が低いためです。

 赤字は150(1.5倍)を超える数値ですが,これらの県は,幼い命が危険に晒される可能性が高い県といえます。惨劇が起きぬよう,対策を講じる必要があるでしょう。

 以上は2016年の試算値ですが,これから先,全国的にこの数値は上がってきます。量的に多い団塊の世代が,後期高齢者のステージに入ってきますので。

 国立社会保障・人口問題研究所の『将来推計人口』によると,2030年の75歳以上人口は2278万人と見込まれます(中位推計)。最初の表でみた,2016年の当該年齢層の運転免許保有率(30.3%)を乗じると,691万人となります。2030年の高齢ドライバー数の推計値です。

 同じやり方で,近未来の高齢ドライバー数を都道府県別に出すこともできます。各県の75歳以上人口の推計値に,2016年の免許保有率(最初の表)をかけてです。こうして出した高齢ドライバー数を,5歳未満人口の推計値で割れば,先ほどの表と同じ危険度指標になります(幼児100人につき,高齢ドライバーが何人か?)。

 2030年の県別の幼児危険度をみると,身震いする思いがします。幼児100人に対する高齢ドライバー数が200人(2倍)を超える県がほとんどです。3つの階級で塗り分けた地図を,2016年と2030年で対比すると以下のようになります。


 現在の後期高齢者の免許保有率が変わらないと仮定した場合の事態予測ですが,恐ろしいですねえ。2030年の首位の徳島では,危険運転予備軍の量が幼児数の3倍です。超高齢化社会の恐怖を見て取れます。

 まあこの頃には,自動ブレーキを備えたクルマや,自動運転車もかなり普及しているでしょう。医学の進歩により,高齢者の認知症を予防するような特効薬も開発されているかもしれません。

 またドローン技術の発達により,地方であっても,クルマを使わないで済むような生活条件が整っている可能性もあります。

 しかし現在はまだ,そんなユートピアからほど遠い状況にあります。私も,ここに越してきて3日後,サイクリングをしていたら,後ろからきた軽トラに接触されて転倒しました。ドライバーは80くらいの高齢者で,「前をよく見ていなかった」とのこと。

 事故処理をしてもらった警察官から,「東京と違って,この辺りは高齢ドライバーが多いので,クルマを見かけたら停まってくれるとは思わないほうがいい」と言われました。それ以降,十分に注意しています。

 私の郷里の叔父・叔母は,75歳でクルマの運転をピタッと止めましたが,一定年齢に達したら,こういう判断もしてほしいものです。今では,免許返納者に対する各種の特典も充実しています。

 昨日の朝日新聞に,岐阜県の山間に移住した男性が,高齢者の送迎を自家用車で行っているという記事が出ていますが,個人でも,こういう活動はできるのですね。行政は,こうした志を後押しすべきです。
https://www.asahi.com/articles/ASKDQ45GNKDQOIPE00K.html