2016年9月16日金曜日

OECD 「Education at a Glance 2016」

 本日,表記の資料が公表されました。OECDの教育白書で,教育の国際比較のデータが数多く載っています。

 この資料のファインディングスについて,いろいろ報じられていますが,日本の教育費構造の特異性(異常性)に言及した記事が多いようです。私が目を通したのは,以下の2本(いずれも本日付)です。

・「教育への公的支出,日本なお低水準 13年OECD調べ」日本経済新聞
・「日本の大学私費負担,OECD平均の2倍超える」読売新聞

 最初の日経記事によると,日本の教育費支出額の対GDP比は3.2%で,OECD加盟国中下から2位だそうです。その影響か,日本の高等教育費用の64.8%は私費(家計負担)で賄われているとのこと(読売記事)。後者は,大学のバカ高の学費を説明してくれます。

 まあ,以前から言われていることで,新しい知見ではないですが,最新の2013年データでもこうであり,「相変わらずだな」という印象です。

 私は,この手の報道に接すると,原資料にて詳細なデータを確認したくなります。タイトルの資料に当たって,上記の2本の記事で使われたデータを揃えてみました。 「Education at a Glance 2016」ですが,下記サイトにて,全文のPDFを無償でダウンロードできます。エクセルファイルのデータも呼び出すことができ,入力の手間も要りません。ありがたや。

 先の2本の記事で使われている国際データは,下表のとおりです。


 日本は,公的教育支出の対GDP比が低く,高等教育支出の私費負担率が高い。前者は32位(下から2番目),後者は2位です。

 その対極はノルウェーで,高等教育費の私費割合はたった4.0%です。なるほど,この北欧国では大学の授業料がタダなわけですな。

 上表のデータをグラフにすることで,教育費構造のタイプを可視化することができます。横軸に公的教育支出の対GDP比,縦軸に高等教育費の私費割合をとった座標上に,両方のデータがある32か国を配置すると,下図のようになります。


 右下にあるのは,教育の公的支出が多く,国民(家計)の費用負担が軽い社会です。北欧国が固まっています。

 左上はその逆で,政府が教育にカネを使わず,負担が個々の家庭に押し付けられる社会。悲しいかな,その典型は日本です。大学生の親御さんは,「何でこんなに学費が高いんだ」と嘆いておられるでしょうが,上記のグラフをご覧になれば,事情をお察しいただけると存じます。大学教員が,べらぼうに高い給料をもらっているからではありません。

 前にニューズウィーク記事で書きましたが,こういう構造にもかかわらず,日本国民は「家庭の富裕度に関係なく,頑張れば成功できる」イデオロギーを持っているのも恐ろしい。大学の学費が無償の北欧なら,こういう意識が生まれるのも分かるのですが・・・。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/05/post-5055_2.php

 日本の「私」依存型の教育は,少子化や未婚化という,社会の維持・存続に関わる問題を引き起こしています。後者は,奨学金返済が足かせになり,若者の結婚が阻まれる,というようなことです。

 このグラフを拡大して国会の壁に貼り,為政者の皆さんには,「国民に負担を強いる構造を変えよう」という決意を,絶えず新たにしてほしいと思います。

 最後にもう一つ。新聞記事で報じられるデータを,原資料から再現させるという作業を,調査法の授業で学生さんにやらせるのもいいかな,と思います。他者の研究成果の追試(test)も,調査の一角を構成します。今後の授業立案のメモとして。