2016年9月2日金曜日

借家世帯の「家賃/年収」比

 海の見える街に住みたい。賃貸サイトにて,先日行った三浦半島(神奈川)の物件を探してみると,安くて広い物件があるわあるわ・・・。
https://twitter.com/tmaita77/status/771250273331257344

 私のような文筆業の場合,どこに住んでも収入は一緒。それで,家賃等の基礎経費が浮くとなると,生活はかなり楽になるだろうなと思います。部屋も広くなるので,本もたくさん置ける。至れり尽くせりです。

 生活にどれほど余裕があるかは,収入と支出のバランスで見て取れますが,後者の代表格は住居費,借家世帯でいうと家賃ということになります。生活の余裕の程度を測る指標として,借家世帯の「家賃/年収」比というのはどうでしょう。

 地域別の平均年収に注目されることが多いのですが,地域によって生活費の相場が違いますので,収入の多寡を見るだけでは不十分です。そこで,生活の基礎経費を測る指標として,家賃も考慮しようというわけです。

 私は,47都道府県について,借家世帯の「家賃/年収」比を計算してみました。依拠した資料は,2013年の総務省『住宅土地統計』です。この資料から,借家世帯の平均年収と平均家賃額を知ることができます。世帯主の年齢層別にみることも可能です。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.htm

 東京を例に,世帯主が25~34歳の借家世帯の「家賃/年収」比を計算してみましょう。下記サイトの表48(都道府県)の年収分布より,当該の借家世帯の平均年収を出すと,427.6万円(①)となります。平均家賃額は,7万9753円(②)です。こちらは,表50に計算済みの数値が出ています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001056226&cycode=0

 したがって,「家賃/年収」比は,(②×12)/①=22.4%となります。年間の家賃が年収に占める割合は,およそ5分の1ということです。これは,東京の25~34歳の数値ですが,値は地域によって違います。年齢層による差もあります。

 東京と私の郷里の鹿児島について,借家世帯の「家賃/年収」比の年齢曲線を描くと,下図のようになります。


 どの年齢層でも,鹿児島より東京が高いですね。収入・家賃とも「東京>鹿児島」ですが,家賃の地域差が収入のそれを凌駕しているので,こういう結果になります。東京は,家賃高いですものね。

 しかし,東京の若年世帯はキツイ。「家賃/年収」比は45.0%! 年収の半分近くを,家賃で持って行かれることになります。何と言いますか,これでは,家賃を払うために働いているようなものですね。

 この指標は,収入が多い働き盛りの層では低くなり,収入が少なくなる高齢層になると反転して上昇します。

 上記は東京と鹿児島の例ですが,他県はどうでしょう。同じやり方で計算した,県別・年齢層別の借家世帯の「家賃/年収」比の一覧表をご覧いただきましょう。黄色は全県の最高値,青色は最低値です。赤字は,上位5位を意味します。


 マックスは,どの年齢層も東京かと思いきや,25歳未満だけは京都が最も高くなっています。「家賃/年収」比は53.0%,半分を超えます。

 これは,学生の単身世帯が多いためでしょう。京都は,大学が多いですし。しかしこの事実は,日本の下宿学生の生活が大変苦しいことの証左です。収入(仕送り,奨学金,バイト代・・・)の半分以上が家賃に食われる。こんな社会が,他にあるでしょうか。

 赤字の分布をみると,借家世帯の「家賃/年収」比は,やはり都市部で高いようです。地方で低いのは,収入は少ないですが,家賃がそれを補って余りあるほどバリ安ということ。地方では,家賃のほかに,自動車の維持費などの経費もかかるでしょうが,生活のゆとりという点では,地方に軍配がある気がします。

 言わずもがな,住居の面積も広いですし。昨日,ツイッターで発信しましたが,東京の富裕層よりも鹿児島の貧困層のほうが,広い家に住んでいるようです。
https://twitter.com/tmaita77/status/771340346542297088

 しかしまあ,若年の借家世帯の「家賃/年収」比がメチャ高であることに,驚きを禁じ得ません。都市部では,ほぼ半分。収入が少ないためですが,これでは,実家を出れず親にパラサイトせざるを得ないだろうなと思います。その結果,未婚化が進行する。この点は,山田昌弘教授も指摘されています(『パラサイト・シングルの時代』1999年)。

 状況は,過去に比して悪化しているでしょう。90年代以降の不況により,若者の収入は下がる一方で,家賃は据え置き(上昇?)なのですから。ヨコの国際比較でみても,若年世帯が住居費負担にこれほど苦しんでいる社会は,日本だけではないでしょうか。藤田孝典さんの『貧困世代』(2016年)にも書いてありますが,日本の住宅支援政策(公営住宅整備,家賃補助等)がきわめて貧弱であることは,よく知られていること。

 こういう要因により,若者の自立(離家)が阻まれ,未婚化が進行。消費も低迷し,社会の維持・存続が脅かされる事態になっている。「」は生活の基盤ですが,この面の支援を,若年層に重点を置いて行うべきでしょう。

 話がそれましたが,最後に,首都圏(1都3県)の市区町村別のデータもお見せしましょう。214市区町村について,借家世帯の「家賃/年収」比を計算し,マップにしてみました。市区町村レベルでは,年齢層別のデータは出せませんので,借家世帯全体のデータであることに留意ください。


 東京の都心の色が濃くなっています。都心は,家賃がメチャ高ですからねえ。千葉は全体的に真っ白。相対的に安い。私が白羽の矢を立てている,神奈川県の三浦半島の南端もホワイト。

 これは首都圏の地図ですが,全国に視界を広げれば,値がもっと低い地域もたくさんあるでしょう。5%未満の町村とかもあったりして・・・。

 政府が推奨している「地方創生」を促すに際しては,こういうデータも積極的に公開するのがよいと思います。白々しいPRよりも,ずっと説得力に富んでいることは間違いありません。