2016年5月20日金曜日

幼子がいる共働き世帯の夫の評価

 「評価」というとおこがましいですが,わが国の男性の生活構造が著しく歪んでいることは,よく知られています。

 とくに,子がいる共働き世帯の父親にあっては,妻の過重負担や子どもの発育にも影響が及ぶ恐れがありますので,歪みの様相を統計で可視化し,事態の改善を図るための礎石としなければなりません。

 その歪みがどういうものかについては,申すまでもありますまい。仕事の領分が肥大し過ぎて,家庭生活(家事・育児)を圧迫していることです。それは当人の生活のアンバランス,および家事・育児が妻に偏ることとなって表れます。

 この2つのレベルを「見える化」する指標として,以下のものを考案しました。

 ①:WLB指数 = 家事・育児時間/(仕事時間+家事・育児時間)
 ②:家事・育児分担率 = 夫の平均時間/(夫の平均時間+妻の平均時間)

 ①のWLBとは,「ワーク・ライフ・バランス」の略です。家庭の領分が,仕事と家庭の合算にどれほどの比重を占めているか。②は,夫婦でこなす家事・育児のうち,夫がどれほど担っているかです。

 2011年の『社会生活基本調査』によると,幼子(6歳未満)がいる共働き世帯の夫の平均仕事時間(平日1日あたり)は570分,平均家事・育児時間は37分,妻の平均家事・育児時間は331分となっています。

 よって,①のWLB指数は,37/(570+37)=6.1%となります。②の家事・育児分担率は,37/(37+331)=10.1%です。

 低いですねえ。乳幼児がいる共働き夫の,仕事と家事・育児の合算に占める後者の割合はたった6.1%で,家事・育児の1割ほどしか担っていないと。逆にいえば,残りの9割は妻にのしかかっているわけです。

 これは全国の数値ですが,様相は地域によって違っています。下表は,上記の①と②を都道府県別に計算した結果です。幼子がいる共働き世帯の夫の生活を,県別に診断してみましょう。


 黄色は最高値,青色は最低値をさします。両方ともマックスは島根で,WLB指数は15.0%,家事・育児分担率は20.4%となっています。子育て期の女性の正社員率が最も高い県ですが,それだけ夫も相応の負担をしているのでしょう。絶対水準としては高くはないですが・・・。

 最も低いのは,両方とも大阪です。順に0.7%,1.1%。むーん,幼子がいる共働き世帯の夫の生活に「家事・育児」の領分はほぼゼロで,家事・育児の99%は妻が担っていると。

 赤字は上位5位ですが,島根のほか,宮城,秋田,大分などが優良県ですね。大分は,ちょっと前までは悲惨な状況だったそうですが,ここ数年の取組により,事態が飛躍的に改善しているそうです。
http://www.pref.oita.jp/site/papakosodate/

 診断に使った2指標のマトリクス上に,47都道府県を配置してみましょう。


 右上は優良県,左下は要改善県と性格づけられます。埼玉は,地方から流入してきた核家族世帯が多く,親や親せきに頼れない,という事情もあるかと思います。

 しかるに,ここでみたのは,国内の相対比較の結果です。上図の右上を最終ゴールに据えるというのは,それこそ「井の中の蛙」で,国際社会からみたら失笑を買います。

 18歳未満の子がいる有配偶男性のWLB指数,家事・育児分担率について,国際データを前に作ったことがあります。日本は,双方とも最下位です。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/02/wlb.html
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/03/post-4607.php

 上記の都道府県分布を,国際的な布置図の中に位置づけると,下図のようになります。


 草の根の取組を行いつつも,思考は常にグローバル。国内比較と国際比較は,セットでなされないといけません。