2016年5月1日日曜日

大学入学の地元志向

 今朝の朝日新聞に,「地方高校生に東京離れ 仕送り負担,地元志向強まる」と題する記事が載っています。
http://www.asahi.com/articles/ASJ4T7GGNJ4TUTIL099.html?iref=comtop_list_edu_n02

 仕送り等の経済的負担がキツイので,子どもに地元の大学に行ってほしいという親が増えていそうです。高校生自身も,地元の大学に行きたいという志向が強まっているとのこと。甲南大学の阿部准教授は,「東京で苦学するより,親の経済力に頼れる地元にいる魅力が大きいのだろう」と指摘していますが,なるほど,そういうこともあろうかと思います。

 地方はただでさえ所得水準が低く,大学の学費負担だけでも大変なのに,さらに家賃や生活費等も加わる「ダブル・パンチ」とあっては,たまりません。最近,学生のブラックバイトや奨学金借入による生活破綻が問題になっていますが,その多くは,地方から都市に出てきている「苦学生」なのではないか,と思ったりします。

 上記の記事には,地域移動の統計は出ていませんでしたが,大学入学の地元志向は本当に高まっているのか。『学校基本調査』のデータで吟味してみましょう。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

 私は,4年制大学入学者のうち,自分が出た高校と同じ県内の大学に入った者が何%かを計算してみました。この値は,大学入学の地元志向のメジャーとして使えるでしょう。

 バブル末期の1990年と2015年と数値を比べてみます。90年代以降の時代変化は「失われた20年(25年)」とよく形容されますが,経済状況が悪化する前の頃と,最近の状況を比較してみたいと思います。

 上記の文科省統計によると,1990年春の4年制大学入学者は48万6946人,2015年春は60万2476人となっています(浪人生含む,海外の学校等出身者は含まない)。大学進学率が高まっているので,大学入学者の絶対数は増えています。

 このうち,出身高校と同じ県内(地元)の大学に入った者はどれくらいか。図でみていただきましょう。入学者の数を,正方形の面積で表したグラフです。


 この四半世紀で,地元大学入学者率は35.9%から43.6%へと高まっています。激増というほどではありませんが,大学入学の地元志向は強まっているようです。

 しかし,私の郷里の鹿児島でみると,県内大学入学者比率は36.6%から32.8%へと減少しています。逆に新潟のように,地元入学者率が17.3%から36.2%へと倍増した県もあります。

 様相は地域によって多様です。そこで同じ値を都道府県別に計算し,1990年から2015年にかけての増加ポイントをとってみました。


 ほとんどの県で,地元大学入学率は増えていますが,減っている県もあります。南端の沖縄は,62.0%から51.9%へと,10ポイント以上減です。

 地元志向の高まりが最も顕著なのは,先ほど述べたように新潟。ほか,群馬,静岡,愛知,岡山,広島といった県で,地元率の増加が大きくなっています(赤字,15ポイント以上増)。

 地元に魅力的な大学ができた,学費の安い公立大学ができたなど,いろいろなリージョナル・ファクターがあるかと思いますが,若者の定住を促すヒントが込められているかもしれません。もっとも,冒頭の朝日記事でいわれているように,家庭の経済的苦境の要因が大きいとは思いますけど。
https://twitter.com/lalahearttwit/status/726655696985452546

 大学入学の地元志向の強まりが顕著な県の分布を,地図に落としておきます。色付きの県は,自県内大学入学者率が,この四半世紀で10ポイント以上高まった県です。


 北陸,東海,中国南部というように,地域性もちょっと見受けられます。ただ石川や福井は,北陸新幹線の開通によって,今後どうなることか。高速交通網の整備は,地方から都市へと人を吸い上げる機能を果たしてしまうのも事実です。

 大学入学時の地元志向が,少しばかり強まっていることを知りました。次なる関心は,大学卒業時の地元帰還(Uターン)志向の変化です。都会の大学で学んだ高度な知識やスキルを,地元の発展に活かしてくれるか。大事なのはこっちのほうですが,あいにく,当局の公表統計では大卒者の地域移動を明らかにすることはできません。文科省の『学校基本調査』で,大卒就職者の地域移動(就職先の県)の統計を出してもらえたらな,と思います。

 日本は地域間の不均衡発展が顕著な国ですが,大学進学時と就職時の2時点における,若者の流出が効いています。それぞれのステージにおける地域移動(mobility)の様を,データで明らかにし,対策を立てる必要があるのは,言うまでもないことです。

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