2015年9月22日火曜日

高校生の家庭環境・学力・学校適応

 わが国の高校は,有名大学進学可能性に依拠して精緻に階層化されているのですが,階層構造上の位置に応じて,生徒の家庭環境,学力,はては問題行動の発生頻度が異なることはよく知られています。

 まさに制度的社会化とでも呼べる現象ですが,国際学力調査PISA2009のデータを使って,それを可視化してみましょう。この調査の対象は15歳生徒であり,日本では,高校1年生が回答しています。
https://pisa2009.acer.edu.au/

 本調査は,読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーといった学力に加えて,対象生徒の家庭環境や学校生活の状況も調べています。まずは,後者の生徒質問紙のデータをもとに,高校1年生生徒の家庭環境をみてみましょう。

 ここでの関心は,在籍する高校のランクによる違いです。ランクを明らかにするのは容易ではないですが,高い学力をつけることに対して,保護者からどれほど期待があるかに注目して,対象者の在籍高校を3群に分けてみます。

 やり方は前回と同じです。以下の①を上位校,②を中位校,③を下位校と見立てます。各高校の校長の回答です。

 ①:非常に高い学業水準を設定し,生徒にこれに見合った高い学力をつけさせていくことを期待する圧力を常に多くの保護者から受けている。
 ②:生徒の学力水準を高めていくことを期待する圧力を,小数の保護者から受けている。
 ③:生徒の学力水準を高めていくことを期待する圧力を,保護者から受けることはほとんどない。

 生徒数(総計6088人)の比でいうと,上:中:下の比重は「3:5:2」というところです。下がやや少ないですが,歪というのではなく,中央が厚いノーマル分布です。

 下図は,父親が大卒以上の者,父親が熟練ホワイトカラーの者,ひとり親世帯の生徒の割合のグラフです。無回答を除外して,%を出しています。


 下位校ほど,大卒や熟練ホワイトカラーの生徒が少なく,ひとり親世帯の生徒が相対的に多くなっています。後者の割合は,上位校では9.5%ですが,下位校はその倍を超える20.6%です。

 上位校に入るには塾通いなどをする子が有利ですが,貧困家庭ではそれが難しい。こういう条件の差が出ているとみられます。どの高校に入ったかで,卒業後の進路が制約される「トラッキング」という現象がありますが,「貧困家庭→下位校→低い教育達成→当人も貧困」という,再生産のループの一端を構成しているようです。

 次に,学校生活の内実をみてみましょう。上記のPISA2009では,対教師関係と授業の様子(反学校文化)について尋ねています。各項目の肯定率を,タイプごとに整理してみました。対教師関係の5項目は,「とても当てはまる」+「あてはまる」の比率です。反学校文化の5項目は,「全て or ほとんど or いくつかの授業でそうだ」の割合です。無回答を除いて%を出しました。

 前後しますが,その前の段には,読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーの平均点も入れています。


 赤字は3タイプの中での最高値ですが,学力と対教師関係の良好度は「上>中>下」,反学校文化は「上<中<下」となっています。例外がない,見事な傾向です。

 私のころに比べて弱まっているとはいいますが,高校進学時において,学力に依拠した精緻な「輪切り」選抜が未だに機能していることが知られます。

 対教師関係も学校タイプ差がありますが,「どうせ,ウチの高校だから・・・」と,教師たちが暗に低い期待(眼差し)を寄せていることはないでしょうか。生徒は,それを敏感に察知するもの。

 下段の反学校文化も,明瞭な学校差があります。授業中荒れていると感じる生徒の比率は,上位校では27.1%ですが,下位校では51.5%と半分を超えます。「朱に交わると赤くなる」といいますが,この傾向は,2年,3年と学年が進行するにつれ顕著になると思われます。教育社会学でいう,「組織的社会化」です。

 前回の記事でも書きましたが,わが国では,青少年の自我や資質を大きく水路づける巨大な社会的装置が存在します。高校階層構造です。認めたくはないですが,その効果は,現場の実践を凌ぐとすらいえます。

 それを解体するのはもはや困難ですが,われわれが心がけるべきは,「あの高校だから・・・」と偏した眼差しを向けないこと。どの高校の生徒も,無限の発達可能性を秘めた,若き青少年です。このことを認識することが,まずは必要なのではないかと思います。