2015年4月16日木曜日

共働き夫婦の役割距離

 「男は仕事,女は家庭」。わが国は,こういうジェンダー観念の強い社会ですが,その程度を数値化できないものかと前から思っていました。今回は,共働き夫婦の仕事時間,および家事・育児時間のデータを使って,それをしてみようと思います。

 資料は,2011年の総務省「社会生活基本調査」です。この資料から,6歳未満の子がいる共働き夫婦について,上記の項目の平均時間を知ることができます。平日1日あたりの平均時間を拾うと,夫は仕事が570分,家事・育児が37分となっています。妻のほうは順に,260分,331分です。

 しかしこの数値は,地域によってもかなり違っています。首都の東京と,私の郷里の鹿児島を比べてみましょう。横軸に仕事,縦軸に家事・育児の平均時間をとった座標上に,両都県の夫婦のドットを位置付けてみました。


 ●は夫,○は妻の位置を表します。この両者の距離によって,幼子がいる共働き夫婦の役割差が表現されているといえます。ここでは,役割距離と呼んでおきましょう。

 上図をみると,線分は東京のほうが長いですね。へえ,「男尊女卑」といわれる鹿児島のほうが,共働き夫婦の役割距離は小さくなっています。東京の妻は,仕事時間より家事・育児時間が長くなっていますが(点線より上),鹿児島の妻はその反対です。所得水準が低いので,妻もバリバリ働かないとやっていけない,という事情もあるかと思います。

 中学校で習った三平方の定理を使って,両都県の線分の長さを求めると,東京が452.8,鹿児島が308.4となります。

 はて,他の県はどうでしょうか。この値が最も小さい,すなわち共働き夫婦の役割距離が最も小さい(先進的な)県はどこでしょうか。47都道府県について,同じ値を求めてみました。下表は,それをまとめたものです。計算に使った原数値も掲げておきます。


 右端の役割距離(上図の線分の長さ)をみてください。最低値に黄色マークをしましたが,幼子がいる共働き夫婦の役割距離が最も小さいのは,九州の大分です。前に『受験ジャーナル』誌(実務教育出版)で,イクメン度の都道府県比較をやったのですが,そこでのトップもこの県でした。県主導で,夫のイクメン度を高める取り組みをいろいろやっているようです。

 赤字は下位5位ですが,山形,石川,佐賀,そして沖縄も,夫婦ジェンダーが相対的に小さい県と評されます。先の大分も合わせて,先進5県の3県が九州ではないですか。一般のイメージが覆されますね。

 逆に,夫婦の役割距離が最も大きいのは岐阜です。ほか,500を超える県を拾ってみると,神奈川,長野,三重,滋賀,京都,大阪,および広島が該当します。「男は仕事,女は家事(育児)」という役割差が相対的に大きい府県です。

 この役割距離尺度を地図にしておきましょう。4つの階級を設けて,各県をグラデーションで塗り分けてみました。色が濃いほど,役割差が大きい県です。


 列島の真ん中に,インクをこぼしたようなシミが広がっています。願わくは,早く払拭したい模様です。

 今回は都道府県比較でしたが,言わずもがな,国際的視野でみるなら,国内の地域比較など,ドングリの背比べです。ちょうど去年の今ころ,日経デュアル誌で国際比較をしたのですが,フィンランドなどの北欧国は,夫婦の間の距離がわが国よりもかなり短くなっています。照準は,こういうところに定めるべきでしょう。

 上記の記事でも書きましたが,人間は多様な顔(役割)をもったほうがいいと思います。妻の側は,(自宅での)家事・育児に自らの役割を特化していると,あまりいいことはなさそうです。育児ストレスが高じて,虐待のような病理現象が起こる素地ができることにもなります。どなたかがツイッターに書かれていました。「子育ての疲れは仕事が癒してくれ,仕事の疲れは子育てが癒してくれると」と。

 夫の側にしても,職業人としての顔だけでなく,家庭人・地域人としての顔も大事にしないと,顧客(多くは家庭人)の気持ちをくみ取ることができず,営利追求一辺倒の仕事になってしまいそうです。

 望ましいのは,最初のマトリクス図において,夫婦のドットが互いに接近していくことです。それは,女性の社会進出,男性の家庭進出ということですが,このことにより,家庭,職場の双方がよくなります。

 今後,「社会生活基本調査」が実施されるのは来年(2016年)ですが,各県の役割距離指数はどうなっているか。それによって,近年の政策の効果が測られることになるでしょう。注目したいと思います。