2015年3月21日土曜日

二次元接触頻度と人格の関連

 生身の人間は三次元の空間で生きていますが,各種のメディアが発達して以降,平面の二次元の世界に触れる頻度も高くなっています。マンガ,ゲーム,ネット・・・。とくに若者にあってはそうでしょう。

 恋愛にしても,生身の異性に相手にされないものだから,二次元の世界にその対象を求めるオタクもいます。マンガやロールプレイング・ゲームの美少女にのめりこみ,現実の女性に興味を抱かなくなる。ひきこもりアニメ「N・H・Kにようこそ!」の山崎くんなどは,その典型です。

 最近,若年男性の草食化が進んでいるといいますが,三次元の世界から二次元の世界に逃避する者が増えていることの表れとも読めます。二次元の美少女は,自分を傷つけることなんて一切言わず,思いのままになりますしね。

 さて今回は,こうした二次元の世界との接触頻度が,青少年の人格とどう関連しているのかを明らかにしようと思います。子を持つ父母や教員にとっても,大きな関心事でしょう。この点については,いろいろな調査レポートがありますが,公的調査のデータを加工して浮かび上がらせた結果をご報告します。

 用いたのは,国立青少年教育振興機構「青少年の体験活動等に関する実態調査」(2012年度)のデータです。当局にローデータを申請し,それを独自に分析してみました。

 この調査は,小学校4~6年生,中学校2年生,高校2年生の児童・生徒を対象としています。思春期の青少年ですが,彼らはどの程度,二次元の世界と接しているか。私は,以下の4つの設問への回答を合成し,それを測る単一のメジャーをつくってみました。


 テレビ,ゲーム,ネット,マンガへの接触頻度です。1日あたりの平均時間を5段階で尋ねています。「5」という回答には0点,「1」には1点,「2」には2点,「3」には3点,「4」には4点のスコアを与え,それを合計しました。これによると,対象者の二次元接触レベルは,0~16点のスコアで測られることになります。マックスは,4×4=16点です。私は6点でした。

 対象となった小・中・高校生の二次元接触度スコアの分布は,下図のようです。いずれかの設問に無回答のあった者を除いた,17,557人のヒストグラムです。


 真ん中あたりに山がある,ノーマル・カーブに近い型です。0~4点の者は,二次元接触レベルの低い「低群」としましょう。5~9点は「中群」,10点以上は「高群」と括ることとします。

 この3群で,人格や生活行動の設問への回答がどう違うかを分析するのが主題ですが,その前に,性別・学年別に,3群の分布がどうなっているのかをみておきましょう。


 女子よりも男子で低群が少なく,高群が多いですね。やはりといいますか,二次元の世界への接触頻度は,男子のほうが高いようです。

 学年別にみると,男女とも中学校2年生で高群が最も多くなっています。これも,さもありなんです。勉強が難しくなるわ,学校でいじめが蔓延るわ,二次元の世界に逃避したくなるというものでしょう。それを親に注意されようものなら,反抗期という年頃もあって,「うるせえ,ババア!」と。

 では本題ですが,二次元接触レベルと人格・行動の関連を分析するにあたって,性別や発達段階の影響を除くため,中学校2年生男子のデータを使うこととします。二次元接触レベルが一番高い属性であり,サンプル数でも,低群が451人,中群が1350人,高群が456人と,バランスよく分布しています。

 私は,生活(Q5),行動(Q6),自己意識(Q7),および自信(Q8)に関わる42の設問への回答とのクロスをとってみました。4段階の選択肢のうち,最も強い肯定の回答をした生徒の割合を,群ごとに整理しました。分母から無回答を除いて計算した割合です。

 下の表は,その一覧表です。「低群>中群>高群」の傾向である場合は「>」,その逆の場合は「<」の不等号を付しています。低群と高群の差が10ポイントを超える場合は,不等号を赤字にし,黄色のマークを施しています。


 二次元接触レベルと関連が深い黄色マークの項目に注目すると,高群の生徒は,あいさつができない,夜更かし・朝寝坊が多いなど,行動の歪みが見受けられます。また,イライラや集中力欠如など,情緒の不安定も観察されます。

 自己意識をみても,積極性や協調性のなさを自覚している者が多く,他者への共感性や規範遵守志向も相対的に低い。そして締めとして,学校の友人も多くないと。*傾向がクリアーな黄色マークの項目は,折れ線グラフにしました。下記ツイートをご覧ください。
https://twitter.com/tmaita77/status/579103136725389313

 随所で指摘されていることではありますが,大規模な公的調査のデータでもこういう傾向が浮かび上がるとなると,ぐうの音も出ません。協調性(協力してグループ活動をする)や受容性(人の話をきちんと聞く)などは,他者の干渉を受けることのない二次元界に没頭していると,なかなか育まれない資質です。

 二次元の世界というのは,何かとストレスの多い現実界からの逃避の場となりますが,そうした消極面だけでなく,現実の条件にとらわれない自由な発想や社会構想の供給源なり,社会変革のきっかけを提供するという,プラス面の機能をも果たしています。よって適度に触れる分には問題はなく,むしろ好ましいとさえいえますが,それが度を超えると,よからぬ事態が生じます。人格形成の途上にある青少年の場合,とくにその危険が大きく,上表のデータは,その可視的な表れです。

 かといって,適度の接触頻度にとどめようにも,周囲にこれだけ各種メディアが氾濫している状況ですので,子どもの主体性・自発性にもっぱら委ねるというわけにはいきますまい。大人の側の意図的な指導が必要です。時間を決める,現実の世界で打ち込めるものを与えるなど,すべきことはいろいろあります。20年も30年も前から繰り返し言われていることですが,高度情報社会の局面に入っている現代日本では,その必要がことに大きくなっているといえるでしょう。