2015年1月22日木曜日

飢餓経験の分布

 日本は飢餓とは無縁の国と思われていますが,最近にあっては,そうでもないことがしばしば指摘されています。餓死の報道に接することはよくありますし,統計でみても,「食料の不足」が原因の死亡者(餓死者)は存在します。

 死には至らずとも,飢餓状態で苦しんでいる人,十分な食料がない状態で過ごしている人まで射程に入れれば,相当の数にのぼるのではないでしょうか。格差社会化,孤族化というような,近年のわが国の社会変化を考えると,こういう懸念が持たれます。

 実は,最新の『世界価値観調査』(2010~14年)において,この点がダイレクトに尋ねられています。「この1年間,十分な食料がない状態で過ごしたことがある」という項目を提示し,4段階で頻度を答えてもらう設問です。
http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp

 日本の回答者2443人(16歳以上)のうち,この項目に「しばしばある」ないしは「時々ある」と答えた者は121人となっています。よって,飢餓経験率は5.0%と算出されます。国民20人に1人です。

 この比率を人口の概数(1億2千万人)に乗じると,600万人となります。ほう,結構な数ですね。東京都の人口の約半分が飢えを経験していることになります。ネグリジブル・スモールではありません。

 これは国民全体の数値ですが,問題とすべきは,飢餓経験が社会的にどのように分布しているかです。おそらくは,社会的な不利益を被りやすい層に多く分布していることでしょう。

 私は,年齢と学歴という軸で国民を9つの層に分かち,各層の飢餓経験率を計算してみました。日本は世界でも有数の学歴社会ですが,低学歴層ほど飢餓経験率は高いことでしょう。また,年齢という基本属性も重要であり,最近は若者の貧困がよくいわれていますが,そういう傾向がみられるか。このような関心においてです。

 以下に,計算の原表を掲げます。


 年齢3カテゴリー,学歴3カテゴリーをクロスして9つの群を設定し,各群の飢餓経験率を出しています。予想通り,若年層ほど,低学歴層ほど経験率が高いですね。30歳未満の義務教育学校卒の群では,該当者の17.9%(6人に1人)が飢餓を経験しています。

 この群はサンプルの上では28人であり,全体(2389人)の中では完全にマイノリティーです。こうした全体の中での位置,文脈をも同時に観察しなければなりますまい。

 ここで,例の面積図が役に立ちます。9つの群の量的規模を四角形の面積表現し,飢餓経験率に応じて,3段階で塗り分けた図をつくってみました。


 どうでしょう。若年の低学歴層に飢餓経験が集中している様が見てとれます。抽象度を上げていうと,少数の層に困難が凝縮されているとでもいえましょうか。少子高齢化,高学歴化が著しく進んだ現代日本における,飢餓経験の分布図です。

 日本は,生存が脅かされるようなことはない社会であるといわれます。たしかに,飢餓率や犯罪被害率のような指標の低さは,世界でもトップレベルです。しかしそれは国民全体でみた話であり,社会的な層ごとに観察すると,違った様相が見出されることがしばしばです。

 日本は豊かな社会ですが,それだけに,少数の不利な層の状況が見えにくいともいえるでしょう。貧困や福祉に関わる施策のエビデンスになるのは,国民全体の貧困率が*%というようなデータだけではありません。階層別のデータも備わることで,より説得力が高いものになります。

 全体を眺めた後は,部分(層)に「分」かつ。全体を「分」けて解「析」する。これが分析の原義です。

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