2014年11月17日月曜日

貯蓄格差

 未成年を対象とした,小額投資非課税制度(ジュニアNISA)が創設されるそうです。高所得の祖父母や両親が,子ども名義の口座を開設し,進学や結婚などの資金に備えようというもの。

 がっつり貯め込んでいる高齢者に,お金を使ってもらおうという狙いですが,その一方で,貯蓄などない高齢者も数多くいます。最近の貯蓄額の分布図をみると,このことがよく分かります。下の図は,世帯主の年齢層別にみた,世帯単位の分布図です。


 高齢層は分極型になっており,ゼロの層と3000万超の層がほぼ同じくらいいます。祖父母世代のこうした格差が子世代に投影されるのではないかと,少しばかりの危惧を感じます。最近,小学校に入ってくる児童の間で「ランドセル格差」なる現象があるそうですが,これなどは,その表れといえるでしょう。

 この分布図では,各年齢層の貯蓄格差の程度が分かりませんが,今回は,それを数値化してみようと思います。貯蓄格差の可視化です。上記の分布のデータから,貯蓄ジニ係数を計算してみましょう。世帯主が60代の世帯を例に,計算の方法を説明します。


 上表は,計算に用いる素材です。左端の世帯数は原資料に掲載されているものであり,貯蓄量は字のごとく,各層が有している貯蓄量の総量です。中間の階級値に世帯数を乗じた値です。

 中央の相対度数の欄をみると,どうでしょう。一番上の3000万以上の層は,世帯数の上では全体の15.7%しか占めませんが,社会全体の貯蓄量の45.5%をもせしめています。スゴイ偏りです。右端の累積相対度数をみれば,貯蓄の偏在はもっとクリアーでしょう。

 さて,このデータを使ってジニ係数を出すのですが,ここで出す貯蓄ジニ係数は,各階層の世帯量と貯蓄量の分布がどれほどズレているかを表すものです。右欄の累積相対度数をグラフにすることで,それは可視化されます。

 下の図は,横軸に世帯量,縦軸に貯蓄量の累積相対度数をとった座標上に,13の貯蓄階層をプロットし,線でつないだものです。統計学に馴染みのある方はお分かりでしょうが,これがいわゆるローレンツ曲線です。


 きれいな弓型の曲線ですが,この曲線の底が深いほど,世帯数と貯蓄量の分布のズレが大きいこと,すなわち貯蓄格差が大きいことが示唆されます。

 われわれが求めようとしているジニ係数は,この曲線と対角線で囲まれた部分の面積いるを2倍した値です。色つき部分の面積は0.2207ですから,ジニ係数は,(0.5000-0.2207)×2=0.5586 と算出されます。計算方法の詳細は,以下の記事をご覧ください。
http://tmaita77.blogspot.jp/2011/07/blog-post_11.html

 ジニ係数は0.0から1.0までの値をとる測度ですが,一般に0.4を超えると値が高い,すなわち格差が大きいと判断されます。今しがた出した,世帯主が60代の世帯の貯蓄ジニ係数は,この値を超えています。孫がいる祖父母世代の貯蓄格差は,統計的にみても大きいことが知られます。

 私はこのやり方で,他の年齢層の貯蓄ジニ係数も出してみました。下図は,それをグラフにしたものです。最近数年間の変化もみるため,2007年の折れ線も添えています。


 貯蓄ジニ係数は,どの層でも0.5を超えています。あまり知られていませんが,「溜め」の格差って大きいのですねえ。世帯主の年齢別にみると,先ほど例にした高齢世帯よりも,若年・中年世帯の貯蓄格差が大きいようです。

 30~50代の世帯では,係数の値がアップしています。いみじくも子育て世帯ですが,冒頭のような非課税制度を媒介にして,子ども世代の教育格差が拡大しないか。こういう懸念も持たれます。

 格差というと,収入(income)の格差がよく問題にされますが,今回みたような貯蓄(pool)の格差にも目を向けないといけない,と感じます。データは示しませんが,どの年齢層でも,収入ジニ係数よりも貯蓄ジニ係数の値のほうが高くなっています。

 少子高齢化が進み,かつ教育資金の贈与が非課税になるなど,祖父母世代の貯蓄格差が,子ども世代の教育格差に投影される恐れは多分にあるとみられます。これから先,子どもの教育達成の規定要因として,両親のみならず,祖父母の状態変数も取り上げることが求められるかもしれません。前者よりも,後者が強く効いていたりして・・・。

 貯蓄格差。今後,データを注視していきたい現象の一つです。

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