2014年9月15日月曜日

敬老の日にちなんで

 今日は9月15日,敬老の日です。新聞各紙に,この日にふわわしい記事が載っていますが,私の目についたのは人口統計の記事。昨日公表された統計によると,日本の人口の25.9%が65歳以上,12.5%が75歳以上だそうです。4人に1人が高齢者,8人に1人が75歳以上の後期高齢者ということになります。
http://www.asahi.com/articles/ASG9G3PY5G9GUTFK001.html

 このように,決して少なくない量に達している高齢者ですが,彼らはどういう思いを抱いて暮らしているのか。職をリタイアし,所属集団の数が減るなど,生活条件が大きく変わっています。また,多くが年金等の社会保障に依存して生活しますが,この面でのわが国の制度が「お寒い」状況であることは,よく知られている通り。

 私は,高齢者の生活満足度と幸福度の国際比較をしてみました。高齢者とは,65歳以上の者を指します。この2指標のマトリクスに各国を散りばめた場合,日本はどこ辺りに位置するか。こういう関心からです。

 資料は,2010~14年に実施された,最新の『世界価値観調査』です。私は,各国の高齢者のサンプルを取り出して,生活満足度と幸福度の指標を計算しました。
http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp

 生活満足度の設問は,「今の生活にどれくらい満足しているか」を10段階で自己評定してもらう形式ですが,寄せられた回答の平均点を出してみました。

 幸福度は,「総合的にみて,あなたはどれほど幸福か」を問うもので,①とても幸福,②まあ幸福,③あまり幸福でない。④全く幸福でない,のいずれかで答えてもらっています。私は,①を4点,②を3点,③を2点,④を1点とした場合の平均点を算出しました。ローデータが手元にありますので,こういう操作もラクラクです。

 無効回答は除外して平均点を出すと,日本の高齢者の場合,生活満足度が7.22点,幸福度が3.21点となります。海を隔てた大国アメリカは順に,7.73点,3.37点です。わが国のほうが見劣りしていますね。

 調査対象の55か国の布置構造図を描いてみましょう。横軸に生活満足度,縦軸に幸福度をとった座標上に,55の社会をプロットしました。十字の点線は,55か国の平均値を意味します。


 右上にあるのは,生活満足度と幸福度の双方が高い社会ですが,中南米の国では,笑って暮らす高齢者が多いようです。まあ高齢者だけでなく,国民全体がそうなのでしょうが。

 中南米国の下には福祉先進国のスウェーデンがあり,すぐ近くにアメリカ,そしてもうちょっと下ったところに日本が位置しています。お隣の韓国は,ちょうど平均辺りです。

 左下は高齢者の意識が芳しくないゾーンですが,中東やアフリカ,東欧の社会が多く位置しています。旧共産圏の高齢者の自殺率が高いのはよく知られていますが,発展途上のアフリカ諸国では,人間を労働力とみなす価値観が幅を利かせており,高齢者は厄介者扱いされるのでしょうか。

ともあれ,日本は国際的にみれば好ましい部類に属することを知りました。上記の図は,日本の高齢者政策担当者にすれば,部屋の壁に貼り出したくなるでしょうが,あくまで回答者の自己評定であること,また平均値であり,全体の分布はピンキリであることにも留意してほしいと思います。

 蛇足ですが,不安材料も挙げておきましょう。上記の『世界価値観調査』(2010-14)では,各国の国民(16歳以上)に対し,高齢者についてどう思うかをさまざまな角度から訪ねています。私が気になったのは,以下の項目に対する反応です。

 ・Older people are a burden on society

 直訳すると「高齢者は社会のお荷物である」ですが,これに対し,「とてもそう思う」ないしは「そう思う」という肯定の回答を寄せた者の比率は,アフリカ諸国で高くなっています。トップの南アフリカでは47.4%にもなります。先ほど述べたように,労働力の観点から人間を評価する考えがあるためでしょう。

 日本の肯定率は6.1%と非常に低く,下から4番目なのですが,年齢層別に率を計算すると,特異な傾向が出てきます。5歳刻みの年齢層別の肯定率を出し,線でつないだグラフをつくりました。同じ先進国の米瑞と比べています。


 アメリカとスウェーデンでは,高齢者を「お荷物」とみなす者は若年層で多くなっています。若者は,価値観が大きく異なる老人に侮蔑的な眼差しを向けるきらいがありますが,スウェーデンでは高齢者福祉のための税金がべらぼうに高いことも影響していると思われます。

 ところが日本は,若者よりも,当の高齢者の肯定率が高いのです。75歳以上の後期高齢者では,19.3%が「高齢者は社会のお荷物」と考えています。米瑞よりも高い肯定率であり,自虐的な高齢者が相対的に多いことが知られます。

 日本の高齢者の扶養は家族依存型であり,寄りかかる先は社会ではなく家族なのですが,負担に顔を歪める家族の顔を日々見せつけられるのですから,自虐心も強くなる。こういうことでしょうか。上記の年齢カーブに,高齢者福祉の国際差が出ているようで,何とも興味深いです。

 最近,暴走老人の存在がよくいわれますが,暴挙の働く老人の心の底には,強い劣等感や自虐感があるのではないか。上記の統計をみて,こんなふうにも思います。

 最初にみた生活満足度・幸福感の高さの裏には,こういう自虐感も渦巻いている。この点も忘れるべきではないでしょう。高齢者が「自分たちは社会のお荷物だ」という場合の「社会」とは何か。それは全体社会ではなく,部分社会としての家族である可能性も高い。上記の折れ線グラフをして,高齢者扶養の「私化」を促す材料として使ってはならないでしょう。