2014年8月3日日曜日

教員の多忙化と学習時間の減少

 先日公表された,国際教員調査(TALIS 2013)の結果にて,わが国の教員は世界一多忙であることが分かったのですが,教員の多忙化は国内の時系列統計からも確認されます。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/06/blog-post_26.html

 総務省『社会生活基本調査』は,主な生活行動の平均時間を教えてくれるスグレモノですが,職業別の集計表もあり,設けられている職業カテゴリーの一つに「教員」があります。あらゆる教育機関の教員をさしますが,母集団の組成からして,大半が小・中・高の教員とみてよいでしょう。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

 私は,教員の睡眠時間と仕事時間がどう変わってきたかを調べました。平日の1日あたりの平均時間です。1986年から2011年までの四半世紀の変化をグラフにすると,下図のようになります。行動者の平均時間です。


 睡眠時間が減り,仕事時間が増えています。2本の曲線が乖離していく傾向が何とも不気味です。1986年では,休息と仕事の時間がほぼ同じだったのですが,2011年ではその差が190分も開くに至っています。

 2011年の睡眠時間は403分(6時間43分),仕事時間は593分(9時間53分)です。仕事時間が有業者全体(505分)を大きく上回っており,設定されている職業カテゴリーの中でみても,技術者の599分に次いで長くなっています。巷で言われる「教員の多忙化」,納得です。

 でも今は夏休み。長期休暇は教員も羽を伸ばし,職務とは関係ない遊びや自己啓発をしていただきたいものです。しかるに,金曜のNHKニュースによると,夏休みにあっても教員は研修等に追われているとのこと。これはまぎれもなく「仕事」に含まれます。
http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2014_0801.html

 このように,時期を問わず教員の生活は「仕事」一色に染められているのですが,そのことは,各種の体験活動の減少をもたらしています。スポーツや学習行動等の経験率(過去1年間)は,以下のように推移してきています。いずれも自発的に行うものであり,職場で実施するもの(研修等)は含みません。


 どの行動の経験率もおおむね減少の傾向にあり,自発的なスポーツはこの5年間で5.4ポイントの減,学習・研究は10ポイント近くも低下しています。

 しかし,自由な学習・研究の減少が気になります。教員は子どもを教え導く存在ですが,自らも絶えず学び続けなければなりません。それは研修という形で制度化されていますが,仕事とは距離を置いた「学び」も必要です。

 上記は,調査時点(10月)からした過去1年間の経験率ですが,1日あたりの平均時間もみてみましょう。減少幅の大きい,学習・研究に焦点を当てます。平日・日曜の総平均と行動者平均をとってみました。参考までに行動者率も載せておきます。


 総平均,行動者平均とも減少の傾向にありまね。調査対象日に,自発的な学習・研究を行った者の比率もです。

 教員の生活に占める「仕事」の比重が高まる中,彼らの生活が,ハリのない貧相なものになってきているようです。とくに,専門職のメルクマールである自律的な学習・研究の減少は気になるところです。

 私が中3の頃,1学期の終業式の日に,社会科担当の教員が「お前ら,夏休みは本を読めよ。俺も時間ができるんで,ルソーを読むからな」と言っていました。本当に読んだのかは知りませんが,一昔前の教員は,長期休暇を使って,こういう自由な学習に励んでいたのかもしれません。

 でも今は,夏休みといえど,教員免許更新制だの各種の研修だの,教員は大忙し。黒板とチョークの世界から解放されることはありません。

 私見ですが,長期の休暇くらい,教員らを黒板やチョークの世界から解放し,自身の幅を広げる自由な学習や体験の機会とすることはできないものでしょうか。そのことは,教員に必要とされる「総合的な人間力」(2012年,中教審答申)にもつながるでしょう。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/miryoku/1326877.htm

 職務直結型の研修と同時に,それからは離れた自由な学習・研究も必要です。後者の不足は,ボディーブローのように「じわじわ」と効いてきます。夏休みのような長期休暇は,前者を軽減し,後者を思う存分できる機会にすべきかと思うのです。