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2014年7月12日土曜日

5歳児の非在園率

 教育課程の国家基準である学習指導要領は,大よそ10年間隔で改訂されますが,次期改訂において,小学校1年生の教育内容の一部を幼稚園や保育園に移行する方針が発表されました。
http://mainichi.jp/shimen/news/20140712ddm001100209000c.html

 上記の毎日新聞記事によると,「絵本などの普及で5歳児の識字率も上がっているため,国語のひらがなの読み書きのほか,算数の足し算,引き算なども検討対象にする」とのこと。「小1プロブレム」に象徴されるような,就学前教育と小学校教育の段差を解消する上でも効果あり,と期待されています。

 しかるに,注意しないといけないのは,幼稚園や保育所に通っていない幼児の存在です。幼稚園は義務教育学校ではありませんし,保育所は,日中わが子を保育できない親が子を預ける児童福祉施設です。したがって,これらの学校・施設のいずれにも通っていない幼児もいます。

 昔は,こういう非在園児が結構多かったのですが,今はどれくらいいるのでしょう。小学校に上がる直前の5歳児に焦点を当てて数を出してみましょう。

 私は,5歳人口と,同年齢の幼稚園・保育所在園児の数をそろえ,前者から後者を差し引いてみました。5歳人口は『国勢調査』の実施年しか正確な数が分かりませんので,年次がやや古くなりますが,2010年のデータを使うこととします。

 2010年の①5歳人口,②5歳の幼稚園児数,③5歳の保育所在所児数は以下のごとし。

 ①:人口 ・・・ 105万8489人 *10月時点 総務省『国勢調査』
 ②:幼稚園児数 ・・・ 61万942人 *5月時点 文科省『学校基本調査』
 ③:保育所在所児数 ・・・ 41万8645人 *10月時点 厚労省『社会福祉施設等調査』

 ①-(②+③)をして,5歳の非在園児数は2万8902人となります。ベース人口中の出現率は2.7%,およそ37人に1人です。

 最近はもっと減っているかもしれませんが,ネグリジブル・スモール(無視できる数)ではありません。上記の改革を実行するに際しては,これらの非在園児に対するフォローも必要になります。

 それはさておき,①~③の原資料には都道府県別の数も掲載されています。これを使って,5歳児の非在園率を都道府県別に計算してみました。幼稚園にも保育所にも通っていない幼児が多いのは,どの県か。県別一覧表をご覧ください。


  右欄の数が,先ほどと同じやり方で算出した非在園児率ですが,なぜか値がマイナスになる県もあります(6県)。これは,調査実施時期のビミョーな差や,『国勢調査』の5歳人口が不正確であるためと思われます。『国勢調査』の年齢統計をみると,「年齢不詳」人口も結構います(全国で98万人ほど)。ここでは,グレーの網掛けの数値は度外視しましょう。

 ひとまず形になっている値をみると,マックスは宮崎の11.5%です。2010年の数値ですが,5歳児の10人に1人が幼稚園にも保育所にも通っていないと見積もられます。赤字は上位5位ですが,九州が多いですねえ。私の郷里の鹿児島も5位にランクインしています。

 全体的にみて,東北や九州などの周辺部の値が高いようですが,地域性もあるのでは。この点を確認するには地図化(マッピング)が一番。上表の出現率を4段階で塗り分けた地図をつくってみました。マイナスの値が出た6県は,一番下の白色にしています。


 北と南が濃い色になっています。祖父母が同居(近居)の世帯が多いなど,共働きであっても,家庭内保育をしやすい条件があるのでしょうか。しかし,小1の教育内容が5歳児に下りてくるとなると,これらの県では,フォローの対象となる幼児が多いことになります。

 ところで,気になるデータもあります。上図の県別非在園児率と経済指標の相関です(非在園率がマイナスの6県は除外)。地図の模様からも察しがつくことですが,一人当たり県民所得が低い県ほど,5歳児の非在園児率が高い傾向にあります。相関係数は-0.414であり,1%水準で有意です。


幼稚園や保育所の子を通わせるのにも費用がかかりますしね。高等教育(大学)段階では,進学率と所得は非常に強く相関していますが,就学前の段階においても,こうした現象があることにちと驚かされます。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/09/blog-post_12.html

 小1の学習内容を幼稚園や保育所に移行するに際しては,これらのいずれにも通っていない「幼児への対応」が重要な課題となるといえましょう(上記,毎日新聞記事)。もしかすると,5歳段階からの義務教育化が想定されているのかもしれませんが。