2014年5月21日水曜日

母子世帯の相対収入の国際比較

 書店にて,赤石千依子さんの『ひとり親家庭』という本が目につきました。最近出た岩波新書です。帯の「もうがんばれない…」というフレーズが何とも痛々しく感じられました。
https://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1404/sin_k764.html

 一人親世帯の困難はよく知られており,国の調査データをみても,同年齢の世帯全体と比べて収入がかなり少なくなっています。子を抱えてのフルタイム就業はなかなか叶わないという条件に加えて,母子世帯の母親の場合,賃金のジェンダー差という問題も立ちはだかっています。

 それは,多かれ少なかれどの社会でも同じであると思いますが,他の社会では,母子世帯の経済状態はどういうものなのでしょう。『世界価値観調査』(2010~14年)の中に,自分の世帯の収入を自己評定させる設問がありますので,これを手掛かりに検討してみましょう。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSDocumentationWV6.jsp

 設問のワーディングは,「あなたの世帯の収入(income)は,あなたの国では,以下の10段階のうちどこに位置すると思いますか」というものです。私は,子どもがいる20~40代の女性全体と,そのうちの母子世帯の母親の回答分布を明らかにしました。母子世帯の母親とは,配偶関係が「離別」「別居」「死別」「未婚」のいずれかの女性です。

 日本とスウェーデンについて,両群の点数分布をグラフにしてみました。日本のサンプル数は,全体が278人,母子世帯の母親が34人です。スウェーデンは順に,157人,38人です。


 ほう。日本の母子世帯の窮状が目立っています。この国では,母子世帯の母親の7割近くが,自分の世帯の収入を最低ランクの「1」と評しています。「2」までを含めると9割近くにもなります。子がいる同年齢の女性全体との差が,火を見るよりも明らかです。

 対してスウェーデンでは,母子世帯の収入は全体より低くなっているものの,日本のような「いびつ」な型にはなっていません。ピークは中間の「5」です。

 この分布から,収入の10段階評定の平均値を出すと,日本の全体は4.6点,母子世帯は1.9点となります。スウェーデンは順に,5.5点,4.5点です。日瑞の差もさることながら,日本国内における全体と母子世帯の差にも驚かされます。

 わが国の母子世帯の苦境は,比較の対象を広げるともっとはっきりします。私は,上記の平均点を55か国について計算し,その布置図を描いてみました。子がいる20~40代女性全体の平均点を横軸,そのうちの母子世帯の母親の平均点を縦軸に据えた座標上に,55の社会を散りばめた図です。


 日本は,全体の平均点は真ん中よりも少し下のあたりですが,母子世帯の平均点は最下位です。一番上の均等線から垂直方向に最も隔たっており,全体と母子世帯の差が最も大きい社会であることも知られます。

 他の先進国でも,全体よりも母子世帯の収入が低くなっていますが,その差は日本ほどではありません。あくまで自己評定ですが,わが国は,母子世帯の(相対的)貧困度が最も強い社会であるようです。全体として豊かな国ですが,(標準から外れた)少数の層に困難が凝縮しやすい社会であるとみられます。

 「豊かさの中の貧困」をみる思いです。どういう構造のもとで,こうした病理が生まれるのか。冒頭の赤石さんの著作を読んで勉強したいと思っています。