2014年3月20日木曜日

職業別の年収

 保育士不足が深刻化していますが,資格を持ちつつも当該の職に就いていない「潜在保育士」は相当数いるものと見込まれています。

 子育てや介護に忙しいなど,事情はいろいろでしょうが,なり手がつかない最大の理由は「給与が安い」ことだそうです。教員などと同じ専門職であるにもかかわらず,給与が安すぎる。なるほど,確かによく耳にする話です。
http://www.j-cast.com/2013/10/27186948.html

 上記のリンク先記事によると,保育士の年収は315万円だそうですが,最新の官庁統計から計算するとどういう値になるでしょう。厚労省の『賃金構造基本統計』にあたって,目ぼしい職業の年収を割り出してみました。

 最新の2013年版には,一般労働者の2013年6月の月収と,前年(2012)年中の年間賞与等の額が職業別に掲載されています。一般労働者とは,従業員10人以上の事業所に勤務する,短時間労働者以外の労働者です。月収には,残業代等の超過労働手当も含みます。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chingin_zenkoku.html

 この2つの数字を使って,6つの職業の年収を推し測ってみました。医師,弁護士,大学教授,高校教員,保育士,そして福祉施設介助員(介護員)です。ジェンダーの影響を除くため,男性に限定します。


 医師,弁護士,大学教授は年収1000万超です。スゴイ。高校教員は710万円。私の知り合いに高校の先生が何人かいますが,結構稼いでいるんだな(全年齢をひっくるめた額ですが)。

 しかし,残りの2つになると,年収が一気に下がります。保育士は323万円,介護員は333万円です。保育士の年収ですが,女性も含めれば,上記のJ-cast記事でいわれている315万円に近くなるでしょう。高校教員の半分以下。同じ専門職であるにもかかわらず,給与が安すぎる。納得です。

 年収の計算の仕方についてご理解いただけたかと存じます。私は同じやり方で,126の職業の年収額を計算してみました。ジェンダー差も気になりますので,男女別の数値も出しました。一覧表を提示することはできないので,視覚的なグラフをみていただきましょう。

 下の図は,横軸に男性,縦軸に女性の推定年収額をとった座標上に,それぞれの職業を位置づけたものです。点線は,126職業の平均値です。斜線は均等線であり,この線よりも下にある場合,「男性>女性」であることを意味します。


 職業別の年収の布置図ですが,どうでしょうか。年収が飛びぬけて高いのは,弁護士,大学教授,医師,航空機操縦士(パイロット)ですね。常識に照らしても頷けます。

 医師やパイロットは,「男性>女性」の性差が大きいですね。逆に弁護士は,女性のほうが高くなっています。高収入の専門職に,こうしたジェンダー差があることは知りませんでした。

 なお弁護士ですが,全体平均でみたらこのように高いのですが,職業内部で収入格差が大きくなっています。「イソ弁」とかいいますしね。この職業の月収分布をとってみると,ワープアに近い収入層も存在します。歯科医師も然り。専門職といっても,内部格差が大きい職業もあるようです。
https://twitter.com/tmaita77/status/446171239174787072

 さて保育士と介護職ですが,図の左下のゾーンにあります。男女とも平均を下回っています。女性の社会進出や少子高齢化が進む中,非常に重要な仕事であるにもかかわらず収入が少ないことに,驚きを禁じ得ません。待遇改善が考えられて然るべきでしょう。

 なお,保育士と介護職の年収の年齢曲線を描くと,下図のようになります。先ほどと同様,10人以上の事業所に勤める一般労働者のデータです。


 これらの職業の多くは女性ですので,女性に限定していますが,年齢を問わず,女性全体の値より低くなっています(保育士の50代後半を除く)。加えて注目されるのは,介護職の場合,加齢に伴う上昇がないことです。むしろ減少の傾向すらみられます。人の入れ替わりが激しいためでしょうか…。

 各職業の収入の規定要素は,当該の職に就くためにどれほど専門的な訓練を受けたか(投資費用)と社会的重要性といいますが,原点に立ち返って,後者の側面をもっと重視すべきではないかと思うのです。