2013年11月4日月曜日

偏差値と正規就職率の関連

 10月17日の記事では,大学の学部単位のデータを使って,偏差値と退学率の関連を明らかにしました。偏差値に依拠して全国の1,192学部を4群に分かち,各群の退学率分布をとったのですが,偏差値が低い群ほど,退学率が高いほうに多く分布していることを知りました。

 最近,大学教育の効果に関する議論が盛んですが,その際は,入学難易度(ランク)を考慮しなければいけません。インプット要因の制御です。

 さて今回は,関係者の多くが関心を持っている正規就職率が,偏差値とどういう関連にあるのかをみてみようと思います。こういう問題を追及するのはタブーかもしれませんが,実態がどうなっているかをデータで明らかにしてみましょう。

 これまでと同様,読売新聞教育部『大学の実力2014』(中央公論新社)のデータを使わせていただきます。本資料には,2013年春の卒業生の進路内訳が,各大学の学部別に掲載されています。私はこれを加工して,私立大学の学部別の正規就職率を計算しました。計算式は,以下です。

 正規就職率=(正規就職数+研修医数)/(卒業生数-進学者数)

 医学部等の場合,キャリアが研修医から始まるケースが多いので,このカテゴリーも分子に含めることとしました。就職の意志がないとみられる進学者は,分母から除いています。

 この手続きで正規就職率を出した学部のうち,学研教育出版社の『大学受験案内2014』にて,入試偏差値が判明した1,281学部を分析対象とします。
http://hon.gakken.jp/book/1130386100

 私は,この1,281学部を偏差値の水準に依拠して4群に分かちました,①40未満,②40台,③50台,④60以上,です。BF(ボーダーフリー)の学部は①に入れています。この4群について,今年春の卒業生の正規就職率分布をとると,下図のようになります。


 巷でいわれていることですが,入試偏差値と正規就職率が強く関連していますね。偏差値が低い群ほど,正規就職率が低いほうに多く分布しています。偏差値40未満の群をみると,全体(446学部)の半分が正規就職率6割未満です。対して,偏差値60以上の学部群では,110学部中75学部(68.2%)が正規就職率8割超となっています。

 むむう。正直,ここまであからさまな関連があるとは思いませんでした。集団による「外的拘束性」の威力,侮りがたし。

 しからば,所詮はランクが全てであって現場の実践は無力なのかというと,そういうことではありません。偏差値40未満の群の折れ線(青色)をみると,この群の正規就職率分布は,すそ野が広い「富士山」型になっています。正規就職率が低い学部が多いのは確かですが,その逆の学部もあります。

 ピンクの丸に注目していただきたいのですが,この群の中で,正規就職率が9割を越えるのは6.7%,実数でいうと30学部です。偏差値40未満だけど正規就職率90%超,「がんばっている」学部です。

 この30学部において,どういう実践がなされているのか,興味が持たれます。読売新聞社の『大学の実力2014』では,各学部の教育実践も調査しています。私は16の項目をピックアップし,30学部の実施状況一覧表をつくってみました。「1」は,実施されていることを意味します。


 ほう。実施を表す「1」が結構多いではないですか。30学部中20学部以上で実施されているのは,イ)入学前補習,ロ)1年時の必修ゼミ,ハ)3・4年時の必修ゼミ,ニ)卒論が卒業要件,ホ)CAP制,となっています。*ホのCAP制とは,1年間でとれる単位数を制限し,単位のまとめ取りを防ぐ制度です。

 そんなこと,普通の学部でもやっているよ,と言われるかもしれませんが,入学前補習と1年時必修ゼミなんかは,この「がんばっている」学部の特徴といえるような気がします。スタートが肝心,入学時のケアを手厚くする,ということでしょうか。

 なお,多くが理系や医療系の学部ですが,人文・社会系の学部もあります(赤色)。このうち,黄色のマークをした,某ビジネス学部と某経営法学部はスゴイですね。16項目のうちのほとんどを実施しています。文系学部で「偏差値40未満だけど正規就職率90%超」。この偉業は,こういう実践に由来する面が強いと思います。

 なすべきことは,こうした「がんばっている」事例の発掘でしょう。現在,教育社会学の分野で「効果のある学校」の研究が注目されています。社会階層が低い子どもたちの学力を底上げすることに成功している学校のことです。このような学校の実践を詳細に明らかにした研究も公表されています(鍋島祥郎『効果のある学校-学力不平等を乗り越える教育-』解放出版社,2003年)。

 大学進学率が50%を越える今にあっては,高等教育(大学)段階でもこの手の調査研究が求められるのかもしれません。上表でマークをした2学部に取材をしてみようかしらん。こんなことを考えています。

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