2013年10月10日木曜日

産業別・職業別の大学院卒比率

 1990年代以降の政策により,大学院生が増やされたのですが,彼らはどこに吸収されているのか。社会のどの部分で活躍しているのか。ふと,こんな疑問を持ちました。

 最近の『就業構造基本調査』では,最終学歴のカテゴリーとして「大学院卒」というのが設けられており,それぞれの業界で働く者のうち,大学院修了者がどれほどいるかを知ることができます。私は,最新の2012年調査の結果をもとに,各業界・職業の大学院卒比率を計算してみました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 同年10月時点における,15歳以上の有業者は6,271万人です(学校卒業者)。このうち,最終学歴が大学院卒の者は166万人ほどであり,比率にすると2.6%となります。だいたい38人に1人。老若男女全体でみれば,まあこんなものでしょう。

 私は,この値を103産業・68職業について明らかにしました。まずは,産業別の数値をみていただきましょう。以下に掲げるのは,1~50位までのランキング表です。比率はで示しています。各業界の有業者1,000人につき,大学院卒者が何人いるかです。

 ちなみに赤線は,先ほど出した有業者全体の率(26.5‰)の位置です。このラインよりも上は,院卒率が平均水準よりも高いことを意味します。


 トップは学術・開発研究機関,その次は学校教育。まあこれは予想通りですが,他では,理系の製造業やIT業界とかで院卒が比較的多いみたいです。

 外国公務でも,院卒が活用されているのだな。私の母校の学芸大博士課程から,外国の教育政策調査官として文科省に引き抜かれた先輩が何人かいるけど,この人たちも入っているのかしらん。

 次に,職業別の院卒率です。こちらも,1~50位までのランキング表を提示します。


 院卒率が高いのは,研究者,医師,技術者,法務従事者,教員,経営専門家などです。宗教家や芸術家も結構高いのだな。

 学校教員の院卒率は176.5‰(17.6%)であり,およそ6人に1人というところです。最近議論されている,教員の「修士化」政策が具現されれば,院卒教員の比重はもっと高まることでしょう。

 社会のどういう部分で院卒人材が登用されているかを知るための資料として,上記の2表をみていただければと思います。しかるに,これは働いている者の統計です。社会のどこにも活躍の場を見出せないでいる,無職状態の者もいると思われます。このブログでさんざん書いてきたように,オーバードクターの問題も深刻化していますので。

 多額の資源を投じて育成した知的資源が社会のどこに位置し,どういうパフォーマンスをしているか。定期的に追跡調査をし,データベース化する作業も必要なんじゃないかなあ(とくに博士課程とかは)。

 昨日,某機関の記者さんに聞いたところによると,国民「総背番号制」の韓国では,こういう追跡調査の統計が非常に充実しているのだそうです。そこまでしろとは申しませんが,人間の生涯を「科学化」しようという試みは意義あることだと思います。「人生,人ぞれぞれ・・・」で片付けてしまってばかりではいけません。

 話が逸れましたが,『国勢調査』の学歴統計でも,「大学院卒」というカテゴリーを設けていただきたいです。そうしたら,大学院卒人材の状況がより多面的に明らかになることでしょう。