2013年7月16日火曜日

再チャレンジ

 表題の言葉を聞いたことがない人はいないでしょう。やりなおしができる社会の創出を求めて,第1次安部内閣で盛んにいわれたキーワードです。現在でもこの方針は受け継がれているようであり,「再チャレンジ懇談会」なる機関が設置され,活発な議論が行われている模様です。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sai_challenge/

 しかるに,わが国は「再チャレンジ」が難しい社会であるといわれます。新卒時に就職に失敗し,やむなく非正規職に流れた者が,その後正社員に上げてもらえたなんていう話は,そう聞くものではありません。ロスジェネといわれる私の世代からすれば,このことはよく分かります。

 でもこれは,単なる印象かもしれません。非正規から正規へと移行を遂げる人間がどれほどいるか。この点に注目して,わが国の「再チャンレンジ」の現実態を統計で可視化してみようと思います。

 用いるのは,このほど公表された,2012年の『就業構造基本調査』の就業異動統計です。有業者の現職と初職の就業形態を知ることができます。同年10月時点における,25~34歳の正規雇用者は786万人。彼らの初職時の就業形態分布は,以下のようになっています。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm


 初職も正規雇用だった者が9割を占めています。非正規雇用(パート,バイト,ハケン,契約,嘱託等)だった者は9.6%なり。予想通りといいますか,非正規から上がってきたという者は多くないですね。

 これだけでは「ふーん」でおしまいですので,環境条件によって,この値がどう変異するかも観察してみましょう。私は業種による違いが大きいと考え,産業別の統計表がないか探しましたが,残念ながらそれはないようです。

 しかし,都道府県別の数値は出せるようなので,ここではそれをご覧に入れましょう。下表は,25~34歳の正規雇用者のうち,初職が非正規雇用だった者の比率の県別一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークを付しました,上位5位の数値は赤色にしてあります。

 はて,「再チャンレンジ」の道が相対的に大きく開かれている県はどこでしょう。


 再チャレンジ達成率が最も高いのは,南端の沖縄です。この県では,25~34歳の正規雇用者の23.6%,およそ4人に1人が,非正規雇用から上がってきた者です。

 2位は大分,3位は宮崎,4位は高知,5位は福岡。ほとんどが九州ではないですか。ほか,北海道や北東北の件も2ケタになっています。相対差ですが,「再チャレンジの機は地方にあり!」というところでしょうか。

 上表の出現率の地図も掲げておきます。名づけて「再チャレンジ・マップ」。中央から周辺に行くにしたがって,色が濃くなっていく構造がみてとれると思います。


 むろん,色が濃い県では,非正規雇用の量が多いことを考慮せねばなりません。産業構造の違い,さらには都市から地方への人口移動というような条件もあることでしょう。ですが,沖縄では,25~34歳の正規雇用者の4分の1が「再チャレンジ組」という事実に,私はちょっと驚いています。

 なお,ここで出した再チャンレンジ指標の全国値は,2007年では8.2%でした。2012年は9.6%ですから,この5年間で値が伸びたことになります。微変動ですが,近年の再チャンレンジ促進施策の効果の表れともとれるでしょう。

 ところで,新卒時(初職時)に非正規雇用に就くことは失敗であるかのようにみなす日本の常識は,国際的にみて普遍的なものではありません。

 たとえばフランス。五十畑浩平氏のレポートによると,この国では即戦力が重視される傾向にあり,「職務経験のない新卒者を採用し人材を育成する慣行」はないとのこと。よってこの社会の若者は,「不安定な雇用を繰り返すなかで職務経験を積み,段階的に労働市場に参入」し,「安定した職に就けるまで数年かかる」のが普通なのだそうです。
http://www.yomiuri.co.jp/adv/chuo/research/20130711.htm

 なるほど。上記レポートの表1によると,同国の若者の雇用形態分布は,初雇用時は非正規が66%を占め,正規は30%しかいませんが,3年後にはそれがほぼ逆転します。

 五十畑氏は,「有期雇用や派遣などの非正規雇用を経験し,職務経験を積んだうえで,日本の正社員に相当する無期限雇用にたどり着く」という,労働市場への参入形態を「段階的参入」とネーミングされています。

 最近では,わが国でも「即戦力人材がほしい」という企業が多くなってきていますが,それならば,こうした「段階的参入」をもっと認める必要があるでしょう。このことは,「シューカツ失敗自殺」というような,日本固有の社会病理現象の治療にもつかながると思われます。

 個人の側からみた「再チャレンジ」可能な社会は,産業界からすれば,即戦力人材の獲得が容易になる社会でもあります。昨今重視されている「再チャレンジ」促進施策をして,単なる慈善事業の範疇にとどまるものと捉えてはならないでしょう。

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