2013年7月14日日曜日

国公立大学志向の都道府県比較

 『週刊朝日』の「現役進学者が選んだ『本命』大学調査」というWeb新書をみていたら,「国公立現役進学率が高いのは地元志向の地方公立校」というフレーズが目につきました。
http://astand.asahi.com/webshinsho/asahipub/weeklyasahi/product/2013070100006.html

 同誌が行った調査によると,国公立大学への現役進学率が高いのは,地方の公立高校であるとのこと。全国1位は,長崎県の県立諫早高校。この高校では,卒業生の7割以上が現役で国公立大学に進学しているそうです。

 同校の進路主任の先生は,「本校では生徒も保護者も現役志向,地元志向が強い。親に経済的負担をかけぬよう,現役で国立大に進む生徒が多いように思います」と述べておられます。

 うーん,分かる。私は鹿児島出身ですが,地方では確かにこういうカルチャーがあるように思います。ちなみに,私の母校の県立甲南高校も上位20位の表にランクインしていました。

 私は,こういうレポートに接すると,その結果をマクロ統計で表現してみたくなります。今回は,大学進学者に占める国公立比率という点に着目して,各県の国公立大学志向を可視化してみようと思います。

 文科省『学校基本調査(高等教育機関編)』に,大学入学者の数が出身高校の所在県別に掲載されています。過年度卒業生(浪人)も含む数値です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 2012年度の資料によると,同年春における,鹿児島県の高校出身の大学入学者は6,290人です。このうち,国公立大学入学者は2,668人。したがって,当県出身の大学入学者に占める国公立比率は,2,668/6,290=42.4%となります。進学先の4割が国公立。私の周りは9割くらいがそうでしたが,県全体でみたらこんなものでしょう。

 私はこの値を全県について出し,結果を一覧表にまとめました。下表をご覧ください。分子,分母の数値も掲げています。また,算出された国公立比率の相対順も添えました。黄色は最高値,青色は最低値です。赤色は上位5位です。


 大学入学者の国公立比率には,非常に大きな地域差がみられます。最高の島根と最低の神奈川では,6倍以上も違っています。島根では進学先の半分近くが国公立ですが,神奈川では1割にも達しません。

 ほか,国公立比率が高い県は,山陰,九州,そして東北というように,地方県に多く分布しています。一方,44~47位の下位4位は,見事に首都圏の1都3県で占められています。地域性がクリアーですね。この点は,データを地図化してみるとよく分かります。


 地方周辺県の濃い青色と,首都圏の白一色のコントラストが目をひきます。北海道が薄い色になっているのは,旧帝大の北大は道外からの進学者が多く,地元の生徒が締め出されるからではないでしょうか。

 地方には私立大学が少ないからだろう,といわれればそれまでです。上位2位の島根と鳥取には,私立大学はありませんしね。しかるに,経済的事情から,私立大学に子どもを進学させるのは叶わない,ということもあると思います。冒頭で引いた,進路主任の先生のお話とも関連しますが。

 先ほど出した各県の国公立比率を,県民所得とリンクさせたらどうでしょう。最新の『日本統計年鑑』に,2009年度の一人あたり県民所得が載っていたので,それとの相関をとってみました。県民所得の原資料は,内閣府の『県民経済計算年報』です。


 県民所得が低い県ほど,進学先に占める国公立比率が高い傾向が明瞭です。相関係数は-0.738であり,1%水準で有意です。結構強く相関していることに驚いています。

 故・清水義弘教授の『地域社会と国立大学』(東大出版,1975年)にも書かれていましたが,地方の低所得層に対する高等教育機会提供に際して,(地方)国立大学が重要な役割を果たしていることが示唆されます。

 しかるに,毎日新聞(5/21)の香山リカさんの社説をみて知ったのですが,最近になって,国公立大学への進学に際しても家庭環境の影響が強くなってきているそうです。独法化の影響により国立大学の学費は上がり,授業料免除の枠もうんと削られているといいますしね。

 近年,大学進学率の地域格差が再び拡大している,という指摘を何かの論文で読んだ気がしますが,頼みの綱である国立大学の階層的閉鎖性が強まっていることを思うと,さもありなんです。

 2010年度より施行されている高校無償化政策により,公立高校の授業料は無償になり,私立高校の授業料には補助が得られることになりました。こうした施策を,一段上の高等教育段階にも段階的に適用していく必要があるでしょう。国際人権規約においても,高等教育の無償の規定が盛られています。

 21日は参院選の投票日です。こういう思いを抱いて投票所に足を運ばれた方もおられると思います。私もそのうちの一人です。