2013年6月22日土曜日

自殺念慮者数の推計

 ここ数年,統計に表れるわが国の年間自殺者数は3万人ほどですが,その下には,相当な数の「死にたい願望」を持った人間がいることと思います。

 自殺率は代表的な社会病理指標ですが,「死にたい」と思っている(思ったことがある)人間の量にも注意する必要があるでしょう。今回は,それを推し量ってみようと思います。ネーミングですが,自殺志願(志望)者などというのは何ともヘンですので,念慮者という言葉を使うこととします。

 内閣府の『2011年度・自殺対策に関する意識調査』によると,最近1年間に自殺を考えたことがある者の比率は,20歳以上の成人の5.3%だそうです。2012年の1月に実施された調査ですから,2011年中の自殺念慮経験者率とみてよいでしょう。
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/survey/

 総務省の『人口推計年報』から分かる,2011年10月時点の成人人口は約1億502万人。上の比率を乗じると,自殺念慮経験者数は557万人ほどと見積もられます。ほう。年間3万人の自殺者の下には,膨大な予備軍が潜んでいることが知られます。

 上記資料に載っている自殺念慮率ですが,属性によって値は大きく変異します。性別・年齢層別の様相を視覚化してみましょう。横軸に自殺念慮率,縦軸に自殺率をとった座標上に各年齢層を位置づけ,線でつないだ図をつくってみました。

 縦軸の自殺率は,2011年中の自殺者数を同年10月の人口で除したものです(自殺者数の出所は,厚労省『人口動態統計』)。自殺念慮率を,自殺の既遂率との関係において吟味できる仕掛けになっています。


 よく知られているように,自殺率は女性よりも男性で高く,また概して高齢層ほど高いのですが,自殺念慮率のほうは違っています。高齢層よりも若年層で高く,それは女性で顕著です。20代の女性の場合,15.0%,すなわち7人に1人が自殺念慮を経験していることになります。

 世間では自殺率ばかりに注目されますが,潜在量指標としての自殺念慮率に目をやると,違った側面がみえてきますね。

 では,先ほどと同じやり方で,各グループの自殺念慮者数を割り出してみましょう。私が属する30代男性でいうと,2011年中の自殺念慮率は3.1%,同年10月時点の人口は903万人。ゆえに,自殺念慮者の実数は28万人ほどとなります。


 上表は,他の属性グループも含めた一覧です。どうでしょう。20代の女性では,2011年中の自殺念慮経験者は100万人近くであり,『人口動態統計』に載っている自殺既遂者の993倍にもなります。

 表面化した自殺に対し潜在予備軍がどれほど存在するかを示す「潜在倍率」でみると,若年層のヤバい状況が際立っています。もっとも,若者は軽々しく「死にたい」と口にするなど,回答上のバイアスがある可能性も考慮しないといけませんが。

 さて,若い女性では,自殺既遂者(b)と念慮者(a)の数のギャップが著しく大きいことを知ったのですが,このことは,自殺に傾斜した人間を押しとどめるブレーキが有効に作用していることをも示唆しています。そのブレーキとは如何。最後に,この点をみてみましょう。

 内閣府の上記調査では,自殺を考えたことがある者に対し,「自殺を考えたとき,どのように乗り越えたか」を尋ねています。回答を20代の男女で比べてみます。下図は,横軸に男性,縦軸に女性の選択率(複数選択可)をとった座標上に,6つの解決策をプロットしたものです。


 青色のゾーンにあるのは,男性の選択率のほうが高い,いうなれば「男性的」な解決策ですが,「何もせず」,「趣味や仕事で気を紛らわせる」というものが位置しています。対して女性の戦略としては,専門家や周囲の人に相談する,休養をとる,というものが多いのです。

 上表から分かるように,自殺に傾斜した者が既遂に至ってしまう確率は,男性よりも女性で低く抑えられています。このことは,一人で抱え込むことをせず,相談する,休むというような,無理を伴わない「外向的」な戦略が効をなすことを暗に示しているように思います。

 自殺既遂者と念慮者の統計の対比から,こういうことを探り当てることができます。内閣府の『自殺対策に関する意識調査』は,サンプルをもっと増やしていただき,地域別や職業別等の分析も可能になればと思います。

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