2013年6月20日木曜日

共働きか否かによる家事・育児時間の変化

 博報堂こそだて家族研究所が「こそだて家族とパパ」という調査レポートを公表しています。キー・ファインディングは,「ママがフルタイムで働いていると,パパのイクメン度もアップ」ということです。
http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/10914

 妻がフルタイム就業の家庭では,夫の家事・育児時間が全体でみた場合よりも長くなるとのこと。その差は1.5倍だそうです。まあ,常識的に考えて首肯できるところですが,1.5倍も違うとは・・・。わが国の男性の家事・育児時間が短いことはよく知られていますが,条件によって値は大きく変異するものですね。

 本調査は,10歳未満の子がいる20~40代の既婚女性1,200名余りを対象としたネット調査だそうですが,官庁統計からも同種のデータをつくることができます。今回は,その結果をご報告します。

 用いるのは,2011年の総務省『社会生活基本調査』の結果です。この資料から,対象者のライフステージ別に,1日あたりの家事・育児時間の平均値を知ることができます。前々回の記事の県別分析ではこの統計を使ったわけですが,地域別にバラす前の全国統計の場合,共働きか否かの別もみることができます。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

 私は,就学前の幼子がいる夫婦の家事・育児時間が,共働きか否かによってどう変異するかを観察することとしました。具体的な関心事は,妻が正規就業者であるか無業者(専業主婦)であるかによって,正規就業の夫の家事・育児時間がどう変わるかです。

 原資料によると,幼子がいる正規就業の夫は535万人ほどと見積もられます。このうち,妻も正規就業という者は78万人(14.6%),妻は無業(専業主婦)という者は243万人(45.4%)なり。量的には,やはり専業主婦世帯がマジョリティーのようですね。

 では,共働き家庭か専業主家庭であるかによって,夫婦の家事・育児時間がどれほど異なるかをみてみましょう。ここで提示するのは,「週全体」でみた1日あたりの平均時間です。平日と土日をひっくるめた値ということになります。

 なお,対象者全体でみた総平均時間に加えて,行動実施者のみの実施者平均時間も拾ってみました。参考情報として,実施者が全体のどれほどかを示す実施者率も添えてあります。


 表がやや見づらいですが,正規就業の夫の家事・育児時間は,共働き世帯のほうが長くなっています。最下段の合算値でみると,総平均では1.7倍(76/45≒1.7),実施者平均では1.2倍ほどの差が観察されます。前者の総平均の差は,冒頭で引いた博報堂調査でいわれている差(1.5倍)とほぼ同じですね。

 妻のほうはというと,こちらは共働き家庭で短く,専業主婦家庭で長くなっています。総平均でみると,1日あたりの家事・育児平均時間は,共働き家庭の妻は315分ですが,専業主婦家庭の妻では479分にもなります。その差は164分,2時間44分にも及びます。

 様相を可視化してみましょう。下図は,上表の最下段の数値をグラフ化したものです。総平均と実施者平均とで分けています。


 夫婦とも正規就業の共働き家庭になると,ジェンダー差が縮まる様がみてとれます。また,博報堂調査にある「ママがフルタイムで働いていると,パパのイクメン度もアップ」という傾向も可視化されていますね。

 「イクメン」という語が創出され,男性の家事・育児参加が推奨されているのは,女性だけに押しつけられるのは不公平だ,そのことが女性の社会進出の足かせになっている,という問題意識からでしょう。

 しかるに,男性の側にしても,仕事一辺倒の偏った生活構造を是正する上において,重要なことであると思います。「生活者」としての自己を取り戻すことです。

 この点は女性についても言い得ることです。一方の親(多くは母親)が一人こもって育児をしている県ほど,虐待の発生頻度が高い,という統計的事実を思い出しておきましょう。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/08/blog-post_28.html

 以前は,「子が小さいのに母親が働きに出るなんて・・・」と蔑まれたものですが,統計分析をしてみると,共働きのマイナスの効果はあまりみられず,むしろその反対の面が明らかになることがしばしばです。

 上でみたように,量的にみると共働き家庭はまだ少なく,専業主婦家庭のほうがマジョリティーです。しかし,このタイプの家庭の中に,夫婦の協働の様をみてとることができます。今後,意図的な働きかけによって,この部分の拡張を図っていくべきでしょう。保育所増設などは,その一端に位置します。そうした取組の総体が,男女共同参画社会の実現へとつながることでしょう。