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2013年3月23日土曜日

家庭環境と非行

 前回は,学歴によって男子少年の少年鑑別所・少年院入所確率がどれほど違うかを明らかにしました。今回は,家庭環境の要因の関与をみてみようと思います。

 少年の非行化に際して,家庭環境の影響が大きいことはよくいわれるところです。少年非行のテキストを開くと,「家庭環境と非行」という類のチャプターが必ず設けられています。ここでは,親の有無という外的な形態如何によって,非行確率がどう変異するかを観察してみましょう。

 この問題は,昨年の1月5日の記事でも扱っていますが,今回の分析対象は,少年鑑別所や少年院に入るような,非行傾向が進んだ少年です。また,入所率を出す際の母数も,より精緻な数値を使おうと思います。

 なお,少年鑑別所や少年院に入るのはほとんどが男子ですので,前回と同様,分析対象は男子少年に限定することとします。

 前回のおさらいになりますが,2010年の法務省『少年矯正統計』によると,同年中の少年鑑別所の男子新収容者は11,699人,少年院新収容者は3,285人です。これらの者の保護者は,以下のようになっています。
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_shonen-kyosei.html


 父母がいる少年(①+④+⑤),母のみの少年(③),父のみの少年(②),という3グループに注目します。以後,父母家庭,母子家庭,父子家庭ということにします。

 入所率の計算に使う母数は,2010年の『国勢調査』の世帯類型別人員統計から得ました。母子家庭少年の母数は,「女親と子供から成る世帯」に属する12~19歳男子です。父子家庭少年の母数は,「男親と子供から成る世帯」に属する同年齢の男子です。

 数的に多い父母家庭少年については,以下の世帯に属する12~19歳男子をベースに充てることとしました。
 1)夫婦と子供から成る世帯
 2)夫婦,子供と両親から成る世帯
 3)夫婦,子供とひとり親から成る世帯
 4)夫婦,子供と他の親族(親を含まない)から成る世帯
 5)夫婦,子供,親と他の親族から成る世帯

 ちなみに,12~19歳という年齢を拾っているのは,少年院への送致可能年齢が「おおむね12歳以上」と法定されていることに依拠しています(少年院法第2条)。

 それでは,3グループについて,入所者数を母数で除して入所率を出してみましょう。下表は,結果を整理したものです。


 親の状態如何によって,少年鑑別所や少年院に入る確率はかなり違っています。前回みたように,学歴別では中卒の値がかっ飛んでいるのですが,家庭類型別では,父母<母子<父子,というように段階的に高くなっていく傾向です。

 3群の差を分かりやすく可視化してみましょう。各群の入所率が,最下段の合計値の何倍に当たるかを出し,折れ線にしてみました。


 母子家庭少年の入所率は通常の3倍,父子家庭少年のそれは5~6倍というところです。予想はしていましたが,家庭環境によって,非行少年の出現率は異なるものですね。非行傾向が進んだ少年院入所者において,この差が大きいことも注目されます。

 親がいないといっても,母親がいないことの影響が大きいようです。パーソンズの核家族社会化論では,家庭内で表出的役割を担うのは母親とされていますが,そうした「癒し」が得られないことが痛手となるのでしょうか。

 家庭の重要な機能は,成員の情緒安定機能です。今の子どもは,学校をはじめとした,家庭の外の場において,受験勉強やいじめなど,各種の緊張や葛藤にさらされる度合いが高くなっています。それゆえ,家庭では一息つきたいのですが,それが叶わないことの影響が大きいのかしらん。

 なお,上表の母数の欄から分かるように,父子家庭少年は小数派ですが,母子家庭少年は結構います。合計に占める比率は12.1%,およそ8人に1人です。これは,夫婦が離婚した際,母親が子を引き取るケースが圧倒的に多いためとみられます。

 わが国の母子家庭の貧困率は国際的にみて高いといわれますが,母子家庭の場合,貧困状態に陥るリスクが高くなります。むろん,衣食住にも事欠くような絶対的貧困に陥るのは稀でしょうが,周囲と比した相対的貧困が,子どもの非行化に影響することも考えられます。

 思春期にもなれば,やれケータイだとかスマホだとか,仲間との交際にもカネがかかるようになり,それが叶わないとつまはじきにされる・・・。そのことからくる子どもの疎外感は,決して小さなものではないでしょう。

 豊かさの中の貧困。この辛さは,「相対的剥奪」という概念にも通じるものです。時系列データを用意できませんが,今回みたような家庭環境と非行の関連は,最近になって強まっているのではないか,という気がします。

 過去の『少年矯正統計』と『国勢調査』から,同じ統計をつくれるのかな。だとしたら,ケータイが普及する前の1990年あたりの数値と比較すると面白いかも。私が中学生だった頃です。

 『少年矯正統計』から,少年鑑別所・少年院入所者の属性を,さまざまな角度から知ることが可能です。富裕-普通-貧困というような,家庭の生活程度だって分かります。これなどは,『国民生活世論調査』の生活程度設問の回答分布と照らし合わせればいいんじゃないかな。おそらく,貧困層への偏りがみられるのではないでしょうか。

 話があちこちにいきますので,今回はこの辺りで。よい週末を。