2012年12月20日木曜日

15歳生徒のHP・ブログ利用の国際比較

 12月18日より,ツイッターを始めました。ブログは研究ノートですが,ツイッターは,ネット上の興味ある情報の収集や,日記として使いたいと思っています。

 情報化社会では,この手の情報発信ツールを使いこなすことも重要となってきます。私はオジサンですが,日本の子どもたちは,こうしたツールをどれほど利用しているのでしょうか。一応,各種の実態調査がなされているようですが,どれをみても「ふーん」という感じです。比較という視点がなく,報告された数値の性格を知ることが難しいためです。

 ここでは国際比較によって,日本の15歳生徒の実態を評価してみようと思います。用いるのは,PISA2009の生徒質問紙調査の結果です。

 ICT関連の質問紙のQ4では,「個人のホームページやブログを公開し管理するために,自宅でコンピュータをどれくらい利用しているか」と尋ねています。対象は,義務教育を終えた15歳の生徒です。日本の場合,高校1年生が回答しています。

 私は,OECDのサイトから,回答結果が入力された段階のローデータをダウンロードし,44か国について,上記設問への回答分布を明らかにしました。わが国を含む,目ぼしい国のデータをご覧に入れましょう。米英仏の生徒は,本設問への回答はしていないようです。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php

 カッコ内の数値は,各国のサンプル数です。日本の場合,5,685人の生徒の回答分布が図示されています。


 どの国でも「まったくか,ほとんどない」という生徒が最多なのですが,わが国では,その比重が高くなっています。74.5%です。毎日,HPやブログをやっているという生徒は,10人に1人しかいません。

 一方,お隣の韓国は利用度が比較的高いようです。頻度はどうであれ,6割以上の生徒が,自身のHPやブログを持ち,運営していることが知られます。他の3国の利用度は,日韓の間に位置しています。

 上図は,4つの選択肢の比重分布ですが,これを要約して,各国のHP・ブログ利用度を測る単一の尺度をつくってみましょう。「まったくないか,ほとんどない」には1点,「月に1~2回」には2点,「週に1~2回」には3点,「毎日,ほぼ毎日」には4点,というスコアを与えます。

 この場合,日本の生徒5,685人のスコア平均点は,以下のようにして算出されます。
 [(1点×74.5)+(2点×7.3)+(3点×7.3)+(4点×10.9)]/100.0 ≒ 1.55点

 韓国は2.23点,ドイツは1.67点,スウェーデンは2.00点,そしてロシアは1.67点です。上図からも分かることですが,日本の利用度は,5か国の中で最も低くなっています。このように点数化すると,各国の細かい位置関係(順位)も明確になるのが利点です。

 以上は5ヵ国の数値ですが,他国は如何。回答のあった44か国について,同じスコア平均を出し,高い順に並べてみました。


 日本の利用度は,44か国中42位です。15歳の生徒のHP・ブログ利用度は,比較の対象を広げてみても低いことが分かります。

 一方,興味を持つのは,マカオ,韓国,シンガポール,そしてホンコンのようなアジア新興国において,利用度が高いことです。「新興」の原動力は,ネットを介した若者の情報発信力であったりして。

 さて,日本の位置をどうみたものでしょう。まず,「自宅でコンピュータ」という条件が附いていることに注意が要ります。日本の子どもは,ケータイやスマホのような小型機器への親和度が高いので,この条件を取っ払えば,上図での位置も変わるかもしれません。でも,ツイッターならまだしも,HPやブログの管理・更新を,小型機器で行えるのかしらん。

 HPやブログは,誰もが無償で使える,情報発信のためのツールです。情報化社会によってもたらされた,恩恵といってもよいでしょう。これを上手く活用すれば,「我ここにあり」と,世間に旗揚げすることもできます。

 シューカツにしても,型にはまったマニュアルを覚えることに躍起になるのではなく,こういうツールを使って,自分を「発信」することに努めたほうがよいのではないでしょうか。むろん,早い段階からです。似たような主張もあるようなので,URLを貼っておきます。
http://www.littleshotaro.com/archives/1210

 また,これらのツールは,コメント等を通したやり取りも可能です。その範囲は,全世界に及びます。情報発信のツールであると同時に,コミュニケーション・ツールであるのです。

 むろん,問題もあります。ネット上のコミュニケーションは2次元のものであり,相手の顔,声,仕草,印象などが分かる3次元のものとは違います。後者でのみ伝えることのできる内容というのも,少なくないはずです。

 あと一つの問題として,人間形成への影響があります。昨日の朝日新聞Web版に,「つぶやく学生は『自分本位』に?」と題する記事が載っていました。「ツイッターを使う学生は,気軽に本音をつぶやいて友人とのつながりを感じるが,自分に都合の良い情報だけを拾う習性が強まるため『自分本位』に陥りやすい」のだそうです。
http://www.asahi.com/edu/news/TKY201212090269.html

 ツイッターを始めたばかりの私にとってショックな内容でしたが,そういう面もあるでしょう。HPやブログでの情報発信にしても,自分で内容を決めるという,一方的なものです。幼少の頃から,これにどっぷり浸かった人間はどうなるか・・・。確かに,背筋が凍る思いがします。

 しかるに,このような問題があるからといって,情報化社会という,厳と存在する社会状況を無視することはできません。上のような弊があることを認識した上で,学校において,情報教育を推進していくことが重要といえましょう。今回の国際データから,日本の場合,その余地はまだまだあると判断されます。

 それと,日々の生活全般において,ケータイやスマホ等の小型機器だけでなく,もっとコンピュータに触れるよう,仕向けていくことも求められるでしょう。10月21日の記事では,わが国の生徒のコンピュータスキル(自己評定)が世界で最低であることをみたのですが,これは,謙虚な回答をした生徒が多いから,ということだけに帰すことはできないと思います。