2012年11月9日金曜日

理系志向の男女差の国際比較

 前回の続きです。今回は,各国の女子生徒の理系志向が,理科の授業の有様とどう関連しているかを明らかにすると,予告しました。

 しかるに,その前にやっておくべき課題があることに気づきました。男子生徒の理系志向も数値化することです。わが国の女子生徒の理系志向が国際的にみて低いことは分かりましたが,男子と比べてどうなのでしょう。仮に男女差が大きいなら,ジェンダー(gender)の問題が絡んできます。

 ジェンダーとは,社会的・文化的につくられる性です。身体機能や生理機能のような性(sex)とは,概念上区別されます。たとえば,「男子は泣かない」,「女子は控えめに」という通念など,幾多の例を想起できます。

 わが国は,ジェンダー規範が強い社会であるといわれます。女子生徒の理系志向を頭から抑え込むジェンダー規範が,明にも暗にも作用していないとも限りません。この点は,男女の違いをみてみないと分かりません。わが国の15歳生徒の理系志向は,男女でどれほど違うか。また,差の程度は国際的にみてどうなのか。今回明らかにしたいのは,こういうことです。

 私は,PISA2006の生徒質問紙調査のQ29への回答結果を合成して,対象の15歳生徒の理系志向を測る尺度をつくりました。4点から16点までのスコアです。値が高いほど,当該生徒の理系志向が強いことを意味します。仔細は,恐れ入りますが,前回の記事をご覧ください。

 下図は,わが国の男子生徒と女子生徒のスコア分布を図示したものです。男子生徒2,989人,女子生徒2,937人のスコア分布が描かれています。


 ピークに注意すると,男子は8点,女子は4点にあります。最低点の生徒の比率は,男子では20.6%(5人に1人)ですが,女子では34.8%(3人に1人)です。その分,高得点層の比重は,女子よりも男子で大きくなっています。

 上図の分布から,男女のスコア平均を出すと,男子は8.3点,女子は6.9点です。予想通りといいますか,理系志向は,女子よりも男子で高いようです。平均スコアの差にして,1.4ポイント開いています。

 はて,こうした男女差の程度は,国際的にみてどうなのでしょう。私は,日本を含む57か国について,男女生徒の理系志向スコアの平均値を計算しました。男女双方についてベタなランク表を提示するのは,スペースをとりますし芸がないので,表現法を工夫します。

 横軸に男子生徒の理系志向スコア平均,縦軸に女子生徒のそれをとった座標上に,57の国をプロットしてみました。わが国の位置(8.3点,6.9点)の位置をご覧ください。


 まずスコア平均の水準をみると,日本の場合,女子は57か国中最下位ですが,男子はそうではないようです。57か国中40位なり。

 図の斜線は均等線です。この線よりも下にある場合,女子よりも男子の理系志向が強いことを示唆します。上にある場合は,その逆です。日本は均等線よりも下に位置し,かつ,この線からの垂直方向の距離も大きくなっています。つまり,理系志向の男女差が大きい,ということです。

 まあ,女子よりも男子の理系志向が強い国がほとんどですが,わが国は,その程度が大きい社会であるといえましょう。ちなみに,スコアの性差が最も大きいのは,台北です。男子は9.7点,女子は7.9点であり,1.8ポイントもの差があります。日本はその次なり。

 なお,男子よりも女子の理系志向が強い国があることにも注意しましょう。斜線よりも上に位置している国です。インドネシア,タイ,コロンビアなどは,この種の社会に該当します。

 さて,わが国は,男子と女子の理系志向の差が大きい社会であることが分かったのですが,それはなぜでしょう。前回紹介した藤原教授の『男女共同参画社会と市民』(武蔵野大学出版会,2012年)によると,数学や理科の能力に性差はなく,「女性は数学・理科に弱いのだ,生まれつき女と男は違うのだという思いこみ」が大きいのではないか,ということです(26頁)。
http://www.musashino-u.ac.jp/shuppan/books/detail/bookdanjo.html

 こうした思い込みは,家庭でのしつけや,学校での日々の役割分担等を通じて獲得されていくとのこと。後者は,「かくれたカリキュラム」という,教育社会学の重要概念にも通じます。わが国の女子生徒の理系志向が少ないのは,客観的な能力差というよりも,未だ蔓延っているジェンダー規範のゆえであるといえそうです。

 インドネシアやタイなどの新興国では,こういうことがあまりないのだろうなあ。社会の発展のため,女子の理系能力をガンガン活かす方策がとられているのかも。

 ところで,インドネシアやタイでは,実験や討議を重視する開発主義的な理科の授業が行われています(「高校理科の授業スタイルの国際比較」)。こういう教育面の要因も効いていると思われます。次回は,この点を吟味することにいたしましょう。

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