2012年9月29日土曜日

教員の授業スタイルの国際比較

 国際学力調査PISA2009のデータセットづくりに勤しんでいます。9月21日の記事で申したように,学校質問紙調査のデータセットは,何とか完成しました。しかし,生徒質問紙調査については,一筋縄ではいきません。ケース数が膨大であるからです。

 下記のOECDサイトからダウンロードしたテキスト形式の圧縮データを,エクセルに取り込むことができません。しからば,必要な設問のデータだけを取り込めないかと,いろいろ悪戦苦闘した結果,ようやくその方法をマスターしました。現在,対象生徒の出身階層,学校観,教師観,および教師の授業スタイルの設問のデータセットを作り終えたところです。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php

 74か国,51万5,958人分のデータです。とうてい一つのファイルに収まりきりませんので,いくつかに分割しています。ともあれ,このような膨大な数のデータを,自分の関心に即して自由に分析できることに感激を覚えます。

 早速,このお宝に手をつけてみましょう。今回は,各国の生徒が日頃受けている授業がどのようなものかをみてみようと思います。調査票のQ37(日本語版では問33)では,対象の生徒に対し,「国語の授業で,先生は次のようなことをどのくらいしますか」と問うています。調査対象の生徒は,15歳の高校1年生です。


 いずれの項目も,生徒中心主義の進歩的な授業スタイルに関わるものです。よって,選択肢の数字は,各国の教員の授業スタイルがどれほど進歩的かどうかを測る尺度として使えます。

 このように考えると,教員の授業スタイルの進歩度は,7点から28点までのスコアで計測されます。全部4を選ぶような,バリバリの進歩的授業を受けている生徒は28点となります。逆に,全部1に丸をつける(不幸な)生徒は7点となります。

 PISA2009の対象となった生徒の目線から,各国の教員の授業スタイルを評価してみましょう。なお,いずれかの項目に無回答ないしは無効回答がある生徒は,スコアの算定ができないので,分析から除きます。下表は,74か国,38万1,849人のスコア分布です。


 19点をピークとした,きれいな山型の分布です。私は,この分布を参考にして,調査対象の生徒を3群に分かちました。まず,17点までの者は,伝統的な授業を受けている群に括りました。以下,伝統群といいます。一方,21点以上の者は,進歩的な授業を受けている者とみなし,進歩群ということにします。18~20点の者は両者の中間ということで,中間群と命名します。

 <  >内の数値から分かるように,3群の量は均衡のとれたものになっています。では,国ごとに,この3群の分布がどう違うかをみていきましょう。まずは,日本を含む主要先進国,お隣の韓国,そして学力上位常連のフィンランドのデータをご覧に入れます。(  )内の数字は,各国のサンプル数です。


 悲しいかな,わが国では,進歩的な授業を受けていると評される生徒は,全体のたった4.1%しかいません。逆にいうと,全体の7割が,上記のスコアが18点未満の伝統群に括られます。

 このような分布は,わが国に固有のものであるようです。他のいずれの国でも,進歩群の比率が日本よりも高くなっています。ドイツでは,15歳の生徒の約半分が,進歩的な国語の授業を受けていると判断されます。ただ,学力上位のフィンランドにおいて,この群の比率が国際的な平均水準(3割)よりも少ないことはちょっと意外です。

 以上は7か国のデータですが,残りの67か国では,3つの群の分布はどうなっているのでしょう。74本もの帯グラフを描くのは煩雑ですので,簡素な表現方法をとります。横軸に伝統群,縦軸に進歩群の比率をとったマトリクス上に,74か国をプロットした図をつくりました。これでもって,各国の教員の授業スタイルの進歩性を読み取っていただければと存じます。


 図の見方はお分かりかと存じます。左上にあるのは,進歩群の比率が高く,伝統群の比率が低い国です。つまり,進歩的な授業を行っている教員が多い国と解されます。右下に位置する国は,その逆です。斜線は均等線であり,この上に位置するのは,伝統群よりも進歩群が多いことを示唆します。

 ほう。わが国は,右下の極地にあります。教員の授業スタイルの進歩度が,74か国で最も低いことが知られます。それもそのはず。伝統群が73%,進歩群が4%という結果ですから。

 一方,対極の左上には,ハンガリーやポーランドといった東欧の国が多く位置しています。ハンガリーでは,全生徒の6割が進歩的な授業を受けていると評されます。これはスゴイ。ドイツは,これらの東欧諸国の群に近い位置にあります。他の先進諸国は,おおよそ中間の位置です。

 わが国の好ましくない状況が浮き彫りになったのですが,上記の7つの項目だけでもって,授業の進歩性を測ることは乱暴であることは分かっています。何をもって進歩性というのかと問われたら,返答に窮します。ですが,生徒に考えさせる,実生活との関連を分からせるというような項目への生徒の反応は,一つの目安にはなると思います。

 教授のスタイルというのは,知識をひたすらつぎ込む注入主義と,考える力のような,子どもの諸能力の開発に重点を置く開発主義の2つに分かれます。どちらがよい,悪いという話ではなく,双方のバランスが重要なのですが,日本の場合,前者に明らかに偏していることが示唆されます。是正が要請されるところです。

 ただ,ここでみたのは高校生のデータであることに注意しなければなりません。大学進学規範の強いわが国では,高校段階では,受験向けの授業の比重が殊に高くなる傾向にあります。検討する手筈はありませんが,小・中学生でみたら,また違う結果になるかもしれません。いや,そうであってほしいものです。

 では,この辺りで。季節の変わり目です。体調管理にご注意ください。

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