2012年5月14日月曜日

若年教員の離職率の規定要因

4月26日の記事では,2009年度間の小学校教員の県別離職率を計算しました。離職率とは,病気(多くは精神疾患)による離職者,ならびに理由が定かでない離職者が,全教員のどれほどを占めるかを表す指標です。教員の危機や脱学校兆候の量を測る指標です。資料や計算方法の詳細は,上記の記事を参照ください。

 47都道府県で最も高いのは鹿児島県です。私の郷里です。その鹿児島県でどの属性の離職率が高いかをみると,20代の若年教員の離職率がダントツで高くなっています(4月28日の記事)。値は169.1‰,百分率にすると16.9%です。20代教員のおよそ6人に1人が,何らかの危機や困難によって教壇を去ったと推測されます。

 はて,当県における若年教員の離職率の「異常高」をどう解釈したものかと頭をひねっていたところ,ある読者の方がコメントをくださいました。鹿児島のご出身で,現在,郷里の高校教員を目指して勉強されている方です。ご両親は,当県で教員をされているとのこと。同郷の士がメールにて寄せてくださった見解は,以下のようなものです。いただいたメール本文の記述をそのまま引用いたします。

①:鹿児島県は小学生1人当たりの小学校数が多く,アクセスや生活基盤の充実が乏しい僻地・離島の小学校が多く,若手の先生はそこへの配属を忌む傾向がある。

②:①に伴い小学校1校当たりの生徒数が少なくなり,教師の配属人数も少なくなるが,その分の学校1校当たりの仕事量はあまり変わらないため,教諭1人当たりの仕事量も多くなり,周りの協力も得られにくい。さらに生徒の少ない学校では2つの学年の授業を同時に進める「複式学級」がおおくなり,これにより小学校教諭の負担である授業準備に割く時間が増えてしまう。

③:鹿児島県の小学校教諭は1度離島勤務の義務があり,若手の教師が家庭的な理由,将来設計の理由から配属されやすい。

④:小学校が多いため、能力・モラルのない教師が校長になりやすく,パワーハラスメントの問題が多くなる。

 なるほどなるほど。土地勘のある私には,ピンとくるものばかりです。鹿児島は,離島が多い県です。その関係上,当県の教員は,一度は離島での勤務を義務づけられています。いつ行くかといえば,家庭を持っていない(身が軽い)若年教員が配属されるケースが圧倒的に多いと聞きます。

 海を渡って降り立った島の学校がどういう学校かは,申すまでもありません。多くが,児童数が少ない小規模校です。当然,1校あたりの配置教員も少なくなります。その結果,②でいわれているように,「教諭1人当たりの仕事量も多く」なり,「2つの学年の授業を同時に進める『複式学級』」という事態も出てきます。こうした負担は,組織の末端にいる若年教員に重くのしかかると思われます。このことは,若年教員の過労やバーン・アウトといった問題の発生条件をなしているといえましょう。

 離島でなくとも,へき地を多く抱える鹿児島県では,県内の至る所でこのような事態が起きているのではないでしょうか。

 推測をくだくだ述べるのはこれくらいにして,統計データに当たってみましょう。2009年度の統計において,鹿児島県の若年教員の離職率が異常に高い事実が観察されたのですが,同年の小学校の教育条件指標を県別に出してみました。私が計算したのは,1校あたりの教員数と,全学級に占める複式学級の比率です。後者は,公立学校のものです。資料源は,文科省『学校基本調査』です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001024254&cycode=0


 鹿児島は,1校あたりの教員数がわずか12.9人です。全国水準(18.8人)を相当下回っています。全県中の順位は45位。一方,複式学級の比率は全国で1位です。当県では,小学校の学級の1割が複式学級です。上記の読者の指摘でいわれている,鹿児島県の状況認識は,データの上でも裏づけられます。

 1校あたりの配置教員が少なく,その一方で,複式学級指導のような負担が大きいこと。鹿児島の若年教員の離職率が高いことの要因が見えてきました。はて,この仮説は,マクロな計量分析によっても支持されるでしょうか。

 私は,上表で計算した2指標と,各県の20代教員の離職率(2009年度間)の相関関係を調べました。下図は,1校あたりの教員数と,20代の小学校教員の離職率の相関図です。


 離職率が高いのは,鹿児島の他,秋田や長崎のような,へき地を多く抱える地方県です。これらの県では,1校あたりの配置教員が少なく,教員,とりわけ若年教員の負担が大きいのではないかと思われます。

 全体的にみても,1校あたりの教員数が少ない県ほど,若年教員の離職率が高い傾向です。相関係数は-0.421で,1%水準で有意な相関とみなされます。

 上表の複式学級比率と20代教員の離職率は,+0.497という相関関係でした。複式学級が多い県ほど,若年教員の離職率が高い傾向です。このことも,先ほど述べた仮説を支持しています。

 なお,今しがた明らかにした傾向は,20代の教員に固有のものであることを申し添えておきます。データの提示は省きますが,1校あたり教員数や複式学級率は,中年層や高年層の教員の離職率とは強い相関関係を持っていません。

 小規模校が多い地方県では,若年教員の勤務条件の点検というような作業が求められるかもしれません。

 へき地性と若年教員の危機が,こうも強く結びついていることは,私にとって発見でした。若年教員の悩みというと,口うるさいモンスター・ペアレントなどが多い都市的環境と関連が深いようにとられがちですが,それとは真逆の側面があることを知りました。

 貴重な見解を寄せてくださった,同郷の士に感謝を意を表します。郷里の教育界に貢献される日がくることをお祈りしております。

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