2012年3月20日火曜日

国勢調査の回答拒否の増加

昨年の1月6日の記事では,『国勢調査』において,配偶関係が不詳という者の比率が上昇してきていることを明らかにしました。とくに,30~40代の不詳率が高くなっています。この年齢層では,「未婚」や「離別」といった選択肢に丸をつけるのが躊躇われるのでしょうか。不詳の多くは,回答拒否によるものと思われます。

 国レベルの最大規模の社会調査である『国勢調査』において,回答拒否率が高まるというのは,忌々しき事態です。『国勢調査』は全国民を対象とした悉皆調査であり,その結果は政策立案や学術研究などに活用されますが,そうした基幹統計の信憑性が揺らぐことにもつながります。

 さて,2010年の『国勢調査』は10年に1度の大規模調査であり,最終学歴など,突っ込んだ事項についても尋ねています。この調査に対する回答状況はどうでしょう。

 私は,配偶関係,労働力状態,および最終学歴の3項目について,不詳者の比率(≒回答拒否率)を計算しました。用いたのは,抽出速報集計の結果です。上記の3つは,未婚か有配偶か,就業しているか失業中か,高卒か大卒かなどを問う,いずれもデリケートな項目です。どの選択肢にも丸をつけず,その結果,「不詳」として処理された者も少なからずいることでしょう。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001032402&cycode=0

 まずは,15歳以上の対象者全体について,不詳者の比率を出してみましょう。下表をご覧ください。


 15歳以上人口のうち,配偶関係が不詳の者は261万人,労働力状態が不詳の者は723万人です。比率にすると,2.4%,6.4%となります。

 最終学歴については,15歳以上の学卒人口(在学者,未就学者除く)のうち,不詳の者は1,113万人です。不詳率は10.9%にもなります。学歴については,調査対象の9人に1人が回答を拒否したものと推測されます。

 次に,年齢層別の状況をみてみましょう。不詳率(回答拒否率)が高いのは,どの年齢層でしょうか。おそらく,若年層で高いと予想されます。不詳者率を,5歳刻みの年齢層別に計算しました。最近の変化も把握するため,2000年調査の数字との比較も交えます。


 最初に一番下の合計の欄をみると,いずれの項目も,不詳率が増しています。最終学歴の不詳率は,3.8%から10.9%と,7ポイント以上も上昇しています。

 年齢層別の不詳率に目を転じると,3項目とも,全年齢層において値が増しています。不詳率は,予想通り,若年層で高いようです。2010年では,労働力状態は20代~30代前半,最終学歴は20代から40代前半までの層で,不詳率が10%(1割)を超える事態になっています。

 2010年調査では,3項目とも,20代の後半の不詳率が最も高くなっています。この層の最終学歴の不詳率は15.3%にもなります。およそ7人に1人です。学歴の回答が嫌われるのは知っていますが,これほどまでとは。今後,若年層の学歴不詳率が2割,3割を超えるような状況になるかも分かりません。

 しかるに,地域によっては,既にそういう状況になっています。2010年調査における,20代後半の学卒者の学歴不詳率を都道府県別に出すと,最も高い東京では34.4%です。大都市の東京では,20代後半の学卒者の3人に1人が,学歴の回答を拒否したと推測されます。


 上図は,他県の状況も分かるよう,結果を地図化したものです。東京と大阪では,20代後半の学歴不詳率が20%を超えます。15%を超えるのは,この2都府のほか,千葉,神奈川,京都,福岡,および沖縄です。対して,不詳率が最も低い青森は,わずか2.3%です。

 『国勢調査』の回答拒否率は,年齢と同時に,都市的な環境とも関係がありそうです。今後の調査に際しては,都市部の若年層に対する啓発活動も必要になってくるかもしれません。

 まだ公表されていませんが,東京都内の地域別の学歴統計を見たら,もっと悲惨な状態になっている地域が出てきそうだなあ。都内の地域別学力や肥満児率と関連づけてみたいデータであるので,不詳率が高い地域が多いというのはちょっと・・・。

 私と同じような懸念を持っている,社会学の研究者もいることと思います。学歴の回答拒否の問題については,おそらく,『国勢調査』をよりよくするための有識者会議でも議論されていることと思います。はて,どういう改善方針が提案されているのか知りたいのですが,議事録は公開されているのかしらん。調べてみようと思います。