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2012年3月1日木曜日

予備校生の減少

予備校とは,現役の高校生や浪人生を対象として,大学受験のための準備教育を行う機関です。制度上は,各種学校に含まれます。この予備校ですが,大学全入時代の到来により,顧客はさぞ減っていることでしょう。

 大学や短大の学生数のデータは,新聞や文科省の白書などでよく目にするのですが,予備校の生徒がどれほどいるか,またどのように推移してきたか,ということはあまり明らかにされていないようです。興味を持ったので,当局の資料に当たって調べてみました。

 文科省『学校基本調査(初等中等教育機関・専修学校・各種学校編)』の「各種学校」の章に,「課程別修業年限別生徒数」という表があります。この表に,予備校の生徒数が掲載されています。2011年度版の資料によると,同年5月1日時点における予備校生の数は24,060人となっています。主要な顧客である18歳人口が約120万人であることを思うと,いかにも少ない印象を持ちます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037159&cycode=0

 おそらく,減少に減少を経て,2万4千人という水準に至っているのだと思います。上記資料の各年度版をつなぎ合わせて,予備校生数の推移をとだってみました。下図は,それをグラフ化したものです。


 1970年(昭和45年)から現在までの,約40年間の推移が描かれています。これによると,ピークは1977年の23万3千人だったようです。昨年の3月29日の記事でみたように,この頃は,受験競争が激しかった頃です。大学受験者のおよそ3割が不合格になっていました。それだけ浪人生も多く,予備校への需要も多かったことと思います。

 しかし,そうした「ウハウハ」の時代も長くは続きません。1980年代の半ば頃から生徒数が減少し,90年代以降,その速度がさらに高まっています。1990年では14万2千人だったのが,2000年には4万9千人になり,2011年の2万4千人に至っています。ピークの1977年を基準とすると,予備校生の数はおよそ10分の1にまで減ったことになります。

 理由については,申すまでもありますまい。18歳人口の減少,浪人生の減少によるものです。大学入学者に占める浪人経由者の比重が減じていることは,昨年の5月22日の記事で指摘した通りです。

 しかるに,主要な顧客である浪人生においても,予備校離れが進んでいるのではないでしょうか。2011年4月の大学入学者のうち,浪人経由者は81,228人です(文科省『学校基本調査・高等教育機関編』)。前年(2010年)の5月1日時点の予備校生は24,559人です。ごく単純に考えると,2011年春の浪人入学者のうち,予備校に依存していた者は約3割ということになります。

 この尺度は,浪人生の予備校依存度を測るものとして使えるでしょう。私は,1900年,2000年,そして2011年春の浪人経由の大学入学生について,この指標を計算してみました。


 1990年では,浪人経由者の多くが予備校通いをしていたと推測されますが,時を経るにつれ,予備校依存度がガクン,ガクンと落ちてきます。正確ではありませんが,浪人生の予備校離れをうかがわせる統計です。

 大学に入りやすくなってきているので,「宅浪(タクロウ)」を選ぶ浪人生も増えていることでしょう。近年の不況も,それを後押ししていることと思います。

 大学や短大と同様,予備校も大変ですね。そういえば,首都圏大学非常勤講師組合の機関紙『控え室』の第81号に,予備校講師の悲惨を綴ったエッセイが載っていました(雇い止め,給与減少のスパイラル・・・)。大学非常勤だけでは足りず,予備校講師も兼任して糊口をしのいでいる無職博士も多いことでしょう。彼らの稼ぎ口はやせ細っていくばかりです。
http://hijokin.web.fc2.com/

 とはいえ,予備校という各種学校は,大学などと比べたら,ある程度の柔軟性を備えています。大学受験者だけでなく,公務員試験受験者などもターゲットに据えることが可能です。大手の河合塾などは,かなり手広くやっている模様です。
http://www.kawai-juku.ac.jp/

 最初の統計グラフをもう一度みてほしいのですが,予備校生の数は,2008年以降微増しています。それぞれの予備校の柔軟な経営戦略が効をなしているのかもしれません。

 塚田守教授の『予備校生のソシオロジー-一年の予備校生活-』(大学教育出版,1999年)は,予備校が内在している社会化効果を扱った研究です。これは大学受験者を対象とした研究ですが,公務員受験者を対象に据えてみても,面白いと思います。

 たとえば,新規採用教員を対象として,予備校経験者とそうでない者とで,資質や実践的力量に差があるかどうか,という問題を追究してみたらどうでしょう。予備校は,大学と並んで,教員養成の重要な一翼を担っているとも考えられます。ダブル・スクールをしている学生さんも多いようですし。

 話が脱線しましたが,予備校が秘めている柔軟性,潜在的可能性に注目したいと思います。激変の時代といわれる今日,各種学校は,正規の学校(一条学校)にはない利点を備えている,といえるかもしれません。