2012年1月24日火曜日

東大生の親の職業

前回は,大学生の家庭の年収分布を明らかにしました。予想に反してといいますか,大学生の出身家庭が,富裕層に著しく偏しているようなことはありませんでした。

 とはいえ,これは大学生全体の傾向です。ランクの高い大学に限定すれば,また違った側面がみえてくるかもしれません。今回は,最高峰といわれる東京大学の学生に,どういう家柄の者が多いかを観察してみようと思います。

 東京大学は毎年,『学生生活実態調査』を実施しているようです。日本学生支援機構の『学生生活調査』の東大版といえるものでしょう。本調査から,東大生の主たる家計支持者の職業を知ることができます。主たる家計支持者の多くは父親ですが,母親というケースもありますので,双方の職業分布をみてみます。最新の2010年の調査データです。
http://www.u-tokyo.ac.jp/stu05/h05_j.html


 まず父親の職業をみると,管理職が42.3%と最も多くなっています。その次が専門技術・教育職です(37.3%)。この2つだけで,全体の8割近くを占めています。母親は非正規が多いようですが,専門技術・教育職,管理職,および事務職といったホワイトカラーが全体の半分を占めています。

 このような職業分布は,大学生の年頃の子がいる家庭全体のそれとはかなり隔たっていることと思われます。大学生の親御さんの年齢は,40代後半から50代前半というところでしょう。2010年の総務省『国勢調査報告』から分かる,45~54歳の男性(女性)の職業分布と,今しがた明らかにした東大生の親の職業分布を照らし合わせてみましょう。*前者の職業分布は,下記サイトの表6の統計から計算しました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001032402&cycode=0

 まずは,この年齢の男性の職業分布と,東大生の父親のそれを比べてみます。前者でいう「非正規」とは,派遣社員やパート・アルバイトの形態で就業している者です。無職者は,他のカテゴリーの合算値を,人口全体から差し引いて出しました。


 どうでしょう。両者の分布の違いが明らかです。管理職は,45~54歳男性の3.7%しか占めませんが,東大生の父親では実に42.3%をも占有しています。逆に,生産工程・採掘職従事者は,前者では19.1%を占めるのに,後者ではほんの3.5%しか占めません。

 上表のbをaで除すことで,それぞれの職業カテゴリーから東大生が出る確率の近似値を計算することができます。東大生輩出率と名づけましょう。*「その他」については,aとbで意味するところが異なる可能性がありますので,輩出率の算出は控えます。

 この値をみると,管理職がダントツで高くなっています。11.48です。つまり,この階層からは,通常期待されるよりも11.5倍多く,東大生が出ていることになります。反対に,父が無職という家庭から東大生が出る確率は,期待値(1.00)の10分の1ほどです。


 次に,45~54歳女性の職業分布と,東大生の母親のそれを比較しましょう。母親の場合,推定母集団の職業分布との隔たりは,父親に比して小さいようです。でも,管理職や専門技術・教育職の有利さは,ここでも際立っています。これらの職業従事者は,母集団では9.5%しか占めませんが,東大生の母親では38.9%をも占有しているのです。

 いやー,すごいですね。最高峰の東大に限定すると,学生の出身階層は,富裕層にかなり偏っているといえます。年収についてはどうかというと,東大生の家庭のうち,年収が1550万円を超える家庭は14.1%です(上記の東大調査)。40~50代の2人以上世帯のうち,年収が1500万を超える世帯は5.6%にすぎないのとは大違いです(2009年,『全国消費実態調査』)。

 まあ,当然といえば当然といえるかもしれません。東大に入るには,幼いころから塾通いをし,早い段階から有名私立校に行かなければならない面が強いことでしょう。東大の合格者が,私立高校出身者に偏していることは,2010年12月26日の記事で明らかにしたところです。

 最高学府に行けるかどうかは,「生まれ」に規定される部分が大きいようです。はて,この傾向は過去に比して強まっているのでしょうか。

 2000年の上記東大調査によると,学生の家庭の主たる家計支持者に占める管理職従事者の比率は47.2%です。同年の『国勢調査』から分かる,45~54歳男性に占める管理職従事者(臨時雇除く)の比率は5.3%です。よって,10年前では,管理職家庭からの東大生輩出率は8.91であったことになります。2010年のこの数字は,先ほどみたように11.48です。富裕層からの東大生輩出率が上がっていることが知られます。

 こんなことは,局所的な傾向だろう,と一蹴されるかもしれません。しかし,こうした局所の傾向の中に,わが国の階層社会化の進行が映し出されているようで,不気味な思いがするのです。