2012年1月22日日曜日

年収別の大学生輩出率

1月13日,日本学生支援機構は,『平成22年度・学生生活調査』の結果を公表しました。同機構が隔年で実施している調査で,大学生がどうやって暮らしを立てているかを,さまざまな角度から調べています。
http://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/10.html

 本調査の調査項目の一つに,学生の家庭の年間収入があります。2010年度調査の結果によると,大学昼間部の学生(以下,大学生)の家庭の年収分布は,下図のようです。


 800~900万円台が22.3%と最も多くなっています。それに次ぐのが,600~700万円台です。わが国の大学の多くは私立ですが,私立の場合,年間納付金(授業料,設備費・・・)が軽く100万を超えますから,これくらいの収入がないと,キツいのは確かです。2人の子を私立に行かせるとなると,年収の4分の1を,ごっそり学費に持っていかれることになります。なお,大学生のおよそ4人に1人が,年収1千万円以上の家庭の子弟であることも注目されます。

 さて,このような年収の分布は,大学生の年頃の子がいる家庭全体(母集団)のそれと比べてどうなのでしょう。

 総務省『平成21年・全国消費実態調査』から,2人以上の世帯の年収分布を知ることができます。大学生の親御さんの年齢は,40~50代というところでしょう。私は,世帯主の年齢が40~50代の世帯の年収分布を明らかにし(下記サイトの表1参照),先ほどみた,大学生の家庭の年収分布と照合してみました。前者は下表のa,後者はbの欄に示されています。両者のズレに注目してください。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001028135&cycode=0


 いかがでしょう。大学生の23.2%が年収1千万円以上の家庭の子弟ですが,この層は,母集団でみても同じくらいの比重で存在します。予想に反するといいますか,大学生の出身階層が,富裕層に著しく偏している,というわけではなさそうです。

 むしろ,大学生では,貧困層が比較的多いといえないでしょうか。最も低い200万未満の階層は,母集団では2.8%しか占めませんが,大学生では4.2%を占めるのです。

 上表のbをaで除すことで,それぞれの階層から大学生が出る確率を測ることができます。大学生輩出率と命名しておきましょう。これによると,年収200万未満の層からは,通常期待されるよりも1.5倍多く,大学生が出ていることになります。輩出率がその次に高いのは,800~900万円台の層です(1.23)。大雑把にいうと,大学生の輩出確率が高い層は,「下」と「やや上」に分極化しているようです。

 ところで,大学といっても,国立,公立,そして私立があります。こうした設置主体ごとに,大学生の輩出率を計算したらどうでしょうか。下図の3本の折れ線をご覧ください。繰り返しますが,輩出率とは,大学生の中での比重を,母集団の中での比重で除した値です。


 公立大学の学生は,貧困層からの輩出率が高く,富裕層からの輩出率は低いようです。公立大学の学費が比較的安いためと思われます(設置自治体の住民の場合,割安!)。貧困層の教育機会の拡大に,公立大学がかなり貢献していることがうかがわれます。大学全体に占める公立大学のシェアが小さいことが,何とも残念です(学生数で5%ほど)。

 代わって,学生数でみて約8割をも占める私立大学ですが,こちらは,先ほどみた全体の傾向とほぼ同じになっています。年収が「下」の層と「中の上」の層に山がある,ふたコブ型です。国立大学は,おおよそ,公立と私立の中間型でしょうか。

 ともあれ,年収が低い家庭から大学生が出る確率が小さくないことが分かったのですが,このことを以て安堵するのは早計でしょう。貧困家庭の学生は,奨学金をフルに借りる,バイトをいくつも掛け持ちするなど,相当の「ムリ」をしていることと思われます。

 冒頭で紹介した,日本学生支援機構の調査によると,バイトをしている大学生の比率は,2002年の23.2%から2010年の26.9%へと上昇しています。この期間中,大学生の奨学金受給率も41.1%から50.7%へと増えているのです。

 12月9日の記事でも触れましたが,国の基準によると,学生は,1単位につき45時間勉強することになっています。卒業要件が130単位の大学の場合,学生は,平日休日を問わず,1日あたり4時間ほど勉強しなければならない勘定です(授業時間含む)。このことを非常勤先の学生さんに話したら,「それじゃあ,バイトやる時間ないじゃないっすか!」と,怒りにも似た反応が返ってきました。

 定かかどうかは知りませんが,わが国の大学の学費は世界一高い,といわれます。学費を捻出するために,ムリをしている(せざるを得ない)学生さんも多いことでしょう。学生が勉学に集中できる条件の整備もなしに,「学士力」というスローガンを掲げて,尻に鞭を打つばかりというのは,いかがなものか,という気もします。

 日頃抱いていたこのような思いが,今回のデータにより,さらに強まった次第です。