2011年12月24日土曜日

青年の生きづらさの変化(続)

10月13日の記事では,自殺率を指標として,1990年代以降,青年層の「生きづらさ」がどう変わったかを観察しました。今回は,もっと長期にわたる変化の様相をみてみようと思います。

 青年とは,25~34歳の年齢層をさすものとします。自殺率は,自殺者数がベースの人口に占める比率です。分子の自殺者数は厚労省『人口動態統計』,分母の人口は総務省『人口推計年報』から得ます。2010年でいうと,当該年齢の自殺者は3,550人,当該年齢人口が約1,559万人ですから,10万人あたりの自殺率は22.8人となります。

 これは自殺率の絶対水準ですが,青年の自殺率が人口全体のそれに比してどうかという,相対水準も併せて観察します。尺度としては,青年の自殺率を人口全体の自殺率で除した値を使います。2010年でいうと,青年の自殺率(22.8)÷人口全体の自殺率(23.3)≒0.98です。横浜国立大学の渡部真教授のネーミングにしたがって,この値をα値と呼ぶことにします。

 私は,1950年から2010年までの各年について,青年の自殺率とα値を計算しました。下図は,横軸にα値,縦軸に自殺率をとった座標上に,それぞれの年のデータを位置づけ,線で結んだものです。この60年間における,青年層の「生きづらさ」の程度がどう変わったかを,視覚的にみてとることができます。*黒の点線は,近年における世界59か国の平均値をさします。10月12日の記事を参照ください。


 図の右上に位置するほど,自殺率の絶対水準・相対水準とも高いことになりますので,青年層の生きづらさの程度が高いことになります。

 どうでしょう。1950年から始まり,1955年(昭和30年)になると,図の最も右上に位置します。昭和30年代初頭が,青年にとって最も「生きづらい」時期であったようです。社会の激変期にあった当時,価値観の急変に適応できなかった青年も多かったことでしょう。

 その後,社会の安定により,青年の生きづらさも緩和されてきます。1960年から1970年にかけて,ドットが右上から左下へと大きく動いています。1960年代の高度経済成長の恩恵にあずかった,ということでしょうか。

 1970年代の間は微変動ですが,80年代にかけて,ドットが再び左下に大きく移動します。わが国がバブル経済に沸いた時期です。青年層の生きづらさの程度が最小であったのは,1993年(平成5年)でした。

 しかし,それ以降,ドットの動きの向きが変わります。1990年代の後半にかけて上方にシフトし(絶対水準上昇),今世紀になると,右上に動いています(絶対水準,相対水準上昇)。近年,青年層の生きづらさの程度が増してきています。10月13日の記事でみたように,こうした傾向は,先進国の中では,わが国に固有のものです。

 さて,今後はどうなっていくのでしょう。2001年から2010年までの傾向を延ばしてみると,2020年のドットは,1950年代の近辺に位置づきます。ぐるりと一周まわって,再び右上のゾーンに帰ってきます。青年の生きづらさの程度が,戦後初期の頃の水準に立ちかえることが予想されるのです。

 このような直線的な予測が的中するかどうかは,今後の青年(若者)関連の施策に依存します。2010年4月には,子ども・若者育成支援推進法が施行され,同年7月には,子ども・若者育成支援推進大綱(子ども・若者ビジョン)が策定されたところです。
http://www8.cao.go.jp/youth/data/vision-gaiyo.pdf

 子ども・若者ビジョンの基本理念の一つとして,「子ども・若者は,大人と共に生きるパートナー」というものが掲げられています。ぜひとも具現していただきたい理念です。子ども・若者をして,搾取の対象とするのではなく,共存するパートナーと位置づけていただきたいと思います。