2011年11月24日木曜日

辞(病)める新人教員

11月8日の朝日新聞によると,新たに公立学校に採用された新人教員が,1年以内に退職する,というケースが増えているそうです。
http://www.asahi.com/national/update/1108/TKY201111080209.html

 私は,この手の報道記事に接すると,原資料にあたり,もっと詳しい統計を知りたくなります。この記事の統計のソースは,文科省『公立学校教職員の人事行政の状況調査』です。文科省のホームページや,同省の『教育委員会月報』(第一法規)に,詳しい調査結果が掲載されています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/11/attach/1312850.htm

 2010年度調査の結果によると,同年度の公立学校の新規採用教員25,743人のうち,1年以内に依頼退職をした者は288人だそうです。後者を前者で除した比率をとると,11.2‰(=1.1%)です。およそ100人に1人が,採用後1年を待たずして,自らの意志で教壇を去っていることになります。下表は,1997年度からの推移を跡づけたものです。


 1年以内の依頼退職者は,実数,比率ともに年々増加しています。実数(b)をみると,2003年からの伸びが顕著です。2003年から2004年にかけて107人から172人になり,2004年から2006年の間に281人にまでなっています。

 激戦の教員採用試験を勝ち抜いたのにモッタイナイ・・・。このように思われる方もいるでしょう。早期の依頼退職の理由として,どのようなものが考えられるでしょうか。

 まず制度的な面でいうと,1年間の条件附採用期間をクリアできなかった,ということが考えられます。公立学校の教員は,「すべて条件附のものとし,その職員がその職において1年を勤務し,その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする」と法定されています(教育公務員特例法第12条第1項)。教員の場合,じっくり慎重に適性を見極めるため,条件附任用の期間が,一般の公務員(6か月)の倍であることが特徴です。

 この期間中の脱落者は,「不採用」という烙印を押すのがカッコ悪いためか,依頼退職という形で処理されるケースが多いと聞きます。上表のbからcを引くと,自己都合による依頼退職者が出てきます。その主な中身は,教職への不適応感を抱いて自ら職を辞す者でしょうが,条件附任用期間中の脱落者(予備軍)も少なからず含まれていると推察されます。

 なお,病気による依頼退職者の増加も見逃せません。cをbで除した比率を出すと,2000年では15.6%でしたが,2010年では35.1%にまで高まっています。依頼退職理由に占める,病気(多くが精神疾患)のウェイトが増してきています。

 まさに,辞める(病める)教員の増加です。昨今の教員をとりまく状況を考えると,さもありなん,という感じがします。1年以内の早期での離職であるだけに,看過できることではありますまい。

 ところで,こうした辞める(病める)教員の量に,地域的差異はあるのでしょうか。私は,1年以内の依頼退職者の数を,47都道府県別に明らかにしました。指定都市の分は,当該都市を含む県に統計に入れています。2010年度採用者のデータです。


 先ほどみたように,全県の合計は288人です。これを県別にバラすと,かなりの違いがあります。首都の4都県,愛知,大阪,および兵庫は,早期の依頼退職者の数が10人を超えます。上位3位は,東京84人,大阪34人,神奈川31人,です。

 大都市県ばかりですが,これらの地域は,採用者数も多いので,当然といえば当然です。各県の依頼退職者は数が少ないので(白色は0人),採用者で除した比率を出しても意味がないのですが,上位の3都府県について比率を出すと,以下のようになります。


 東京の率の高さが際立っています。依頼退職率,病気による依頼退職率とも,全国値の倍を超えています。東京では,学校に理不尽な要求を突き付けるモンスター・ペアレントが多い,というような条件もあることでしょう。

 ケツの青い新人教員は,この種のモンスターの格好の餌食にされる確率が高いと思います。2006年5月に,東京で採用されて間もない新人教員(女性)が自殺する事件が起きましたが,その原因として,児童の保護者にあれこれと言われた,というようなことがあったそうです。

 でも,同じ大都市の大阪や神奈川の率は全国と同水準ですので,東京に固有の条件もあるのかもしれません。たとえば,条件附任用期間クリアの審査を厳格にしているなど。団塊世代の大量退職により,大量採用を余儀なくされている東京では,このような措置がなされているとしても,不思議ではありません。各県の条件附採用の評定がどういうものかは,上記文科省サイトの表6(PDF)から知ることができます。

 私は,教員の離職に注目してきましたが,早期離職率にも,これから注意していこうと思います。この指標は,各県の教員採用活動を評価する指標としても,使えるかもしれません。

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