2011年11月23日水曜日

自殺の観点別平均評点

前回の続きです。今回は,前回のデータを使って,自殺の苦痛度や迷惑度の平均量がどう変わってきたかを明らかにしようと思います。

 手始めに,2010年に起きた自殺の迷惑度の平均点を出してみましょう。鶴見さんの『完全自殺マニュアル』(太田出版,1993年)では,それぞれの自殺手段の迷惑度が5段階で評定されています。首つりは1,ガスは1,薬物は1,溺死は3,飛び降りは3,飛び込みは5,手首切りは2,感電は1,焼身は2,凍死は1,です。

 厚労省『人口動態統計』によると,2010年の自殺者(29,554人)の自殺手段の構成は,首つりが66.4%,ガスが13.3%,薬物が3.2%,溺死が2.8%,飛び降りが8.1%,飛び込みが2.1%,その他が4.2%,です。

 これらのデータから,この年の自殺の迷惑度平均点は,次のようにして求めることができます。厚労省の統計でいう「その他」の手段による自殺者(4.2%分)には,手首切り,感電,焼身,および凍死の迷惑度の平均点(1.5)を充てることとします。

 {(1.0×66.4)+(1.0×13.3)+・・・(5.0×2.1)+(1.5×4.2)}/100.0 ≒ 1.32点

 この迷惑度平均点の推移を10年刻みでたどると,1960年は1.60点,1970年は1.61点,1980年は1.55点,1990年は1.58点,2000年は1.38点,そして2010年が1.32点となります。

 予想に反するといいますか,自殺の迷惑度点は,昔よりも減ってきています。前回の面グラフでみたように,溺死や飛び込みといった,迷惑度の高い自殺手段の比重が減じてきているためです。

 同じやり方で,他の観点の平均評点の推移も明らかにしてみましょう。①苦痛,②手間,③見苦しさ,④迷惑,⑤インパクト,そして⑥致死度の平均評点が,1958年から2010年までの間に,どう変わってきたかをみてみます。

 ①については,苦痛の評点が定かでない薬物(前回の表を参照)による自殺者は除外して,平均点を出すこととします。2010年でいうと,薬物による自殺者(934人)を除いた28,620人の平均点を出すことになります。では,①から⑥の各観点について,評点の平均値の推移をご覧ください。


 まず目につくのが,致死度の平均量の増加です。前回述べたように,致死度がマックスの首つりのシェアが高まっていることによります。その一方で,手間や苦痛の平均点は減少傾向です。手間のかかる薬物や,苦痛の大きい溺死の比重が小さくなってきているためです。

 明らかなのは,「簡単」,「ラク」,「確実」を求める志向が増してきていることです。最もポピュラーな首つりは,この3条件を満たした手段であるといえます。なお,インパクトの平均点が上がってきていることも,注目に値します。

 各観点の平均評点は,性別や年齢層別に出すことも可能です。女性よりも男性,高齢者よりも若年者で,インパクトや迷惑度の平均点が高いのではないかしらん。また,時代×年齢層のマトリクスで平均点を出し,例の社会地図(等高線グラフ)で表現してみるのも面白いかも。

 これらの作業は,2004年度の厚労省『人口動態統計特殊報告』のデータを使って行うことができます。興味ある方は,どうぞトライしてみてください。
 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02010101.do

 私もやってみるつもりですが,自殺関係の統計ばかりいじっていると気が滅入ってきます。話題をチェンジさせてくださいまし。