2011年10月12日水曜日

青年が生きづらい社会

 1月4日の記事では,青年層(25~34歳の男性)の自殺率の国際比較をしました。その結果,日本の青年の自殺率は,国際的にみても高い位置にあることを知りました。

 しかるに,この指標の絶対水準を観察するだけでは不十分でしょう。他の年齢層と比べてどうなのかという,相対水準にも目配りする必要があります。辛いのは青年だけではない。他の年齢層も同じだ,といわれるかもしれません。他の年齢層と比した相対水準も勘案することにより,青年の生きづらさの程度を,よりくっきりと浮き彫りにすることができると思います。

 ここでいう自殺率の相対水準を測定するための,格好の尺度があります。4月17日の記事で用いたα値です。α値とは,青年の自殺率を人口全体の自殺率で除した値です。この値が高いほど,青年層に困難が集中している社会であるといえます。ちなみに,この指標を考案されたのは,横浜国立大学の渡部真教授です。

 私は,世界の59か国について,25~34歳の男子青年の自殺率と,それを全体の自殺率で除したα値を明らかにしました。統計の年次は国によって違いますが,だいたい2005年前後のものであることを申し添えます。日本の数字は2006年のものです。各国の自殺率の出所は,WHOの人口動態データベースです。
http://apps.who.int/whosis/database/mort/table1.cfm

 2006年の日本の場合,上記の年齢の男子青年の自殺率は10万人あたり30.5人です。男子人口全体の自殺率は34.8ですから,α値は,30.5/34.8≒0.88となります。下図は,縦軸に青年の自殺率,横軸にα値をとった座標上に,世界の59か国をプロットしたものです。


 59か国の自殺率の平均値は21.9,α値のそれは1.14です。図中では,点線で示されています。日本の青年の状況を評価すると,自殺率の水準そのものは高いのですが,α値はさほど高くはありません。現在の日本は確かに「生きづらい」社会ですが,その辛さは,青年とは別の年齢層にも共有されているようです。

 自殺率とα値が,ともに平均水準を上回る社会は8あります。図の右上の象限に位置する国です。ガイアナ,カザカフスタン,ロシア,キルギス,ニュージーランド,オーストラリア,ノルウェー,およびチリです。これらの国では,青年が虐げられている度合いが高いといえそうです。

 図の右下にあるのは,青年の自殺率の絶対水準は低いが,他の年齢層の率と比した相対水準は高い国です。南アフリカでは,α値が2.0を超えています。先進国でいうと,イギリスがこの象限に位置しています。

 今後,日本の位置はどのようにシフトしていくのでしょうか。4月17日の記事でみたように,わが国のα値は時系列的にみて上がってきています。2009年のα値は0.97で,2006年の値よりも伸びています。青年の自殺率の絶対水準も上昇してきています。このトレンドでいくと,図の右上のほうにシフトしていくことが見込まれます。よろしくない事態です。

 実をいうと,1950年代あたりの日本は,上図の右上の象限に位置していました。社会の激変期にあった当時の青年は,今日以上に「生きづらさ」を感じていたようです。社会の安定化により,そうした困難は緩和されたのですが,再び,青年にとって生きづらい時代が到来しようとしています。

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