2011年7月17日日曜日

教員免許状取得者数

 教員採用試験の参考書を執筆している関係上,教育の最新情報をフォローする必要があるため,このほど,文科省『教育委員会月報』を定期購読することにしました。第一法規から刊行されている月刊誌であり,最新の教育政策のみならず,各種の統計資料も掲載されています。
http://www.daiichihoki.co.jp/dh/product/500116.html

 先月届いた6月号によると,2009年度の教員免許状取得者数は103,404人だそうです。1年間で10万人以上の人間が教員免許を取得するのですね。同年度中の理容師・美容師免許の交付件数は24,375,調理師免許の交付件数は42,522です。床屋さんやコックさんの免許よりも,学校の先生の免許のほうが出回ってるようです。

 ちなみに,2010年3月の大学,大学院,短大卒業者は736,161人ですから,高等教育機関の卒業生のおよそ14%が教員免許取得者ということになります。高等教育機関への進学率が60%とすると,同世代あたりの比率はおよそ8%ほどと見込まれます。

 わが国では,開放制の原則にのっとり,教員養成系大学だけでなく,一般大学でも教員免許が取得できるようになっています。現在,ほとんどの大学や短大に教職課程が設置されているとみてよいでしょう。それだけに,教員免許取得者の多くが一般大学卒業者で占められています。


 上図によると,免許取得者103,404人のうち55,059人(53.2%)が一般大学卒業生です。教員養成大学卒業者は12.6%しかいません。わが国では,教員養成において,一般大学が大きな役割を果たしていることが分かります。

 ところで,当然のことですが,この10万3千人もの人間のすべてが教員の職に就くのではありません。教壇に立つことになるのは,このうちのごくわずかでしょう。いや,それ以前の問題として,教員を志望する者も,あまり多くはないと思われます。教員の免許を持っていれば,何かの役に立つだろうという(安易な)考えで,教職課程を履修する学生も結構いますし。

 2009年度の小学校教員免許状取得者は18,937人です。同年の夏に実施された,小学校教員採用試験(2010年度試験)の新卒受験者数は15,005人です。よって,単純に考えると,この年度の免許取得者のうち,採用試験を受験した者の比率は79.2%となります。裏返すと,残りの2割の者は,教員を志望しないということで,試験を受験しなかったことになります。これは小学校の実情ですが,中学校や高校になると,採用試験の受験率はもっと下がります。下表をご覧ください。


 免許取得者中の採用試験受験率は,中学校で36.1%,高校で13.7%です。高校では,9割近くの免許取得者が採用試験を受験しなかったことになります。むろん,大学院に行って専修免許を取ってから受験しようという者もいるかと思いますが,教員になることなど微塵も考えていない輩も多いことでしょう。

 私は,大学4年時に,都内の公立小学校に実習に行ったのですが,まず聞かれたのは,「採用試験を受験しますか」ということです。私は,大学院に進学することを決めていたので,その旨を伝えたところ,校長先生に渋面を作られたのを覚えています。大学院進学という理由ならまだしも,「他の業種への就職志望のため,採用試験は受験しません」などと答えようものなら,先方はブチ切れること間違いなしです。

 やる気のない実習生により,学校現場が荒らされる「実習公害」が全国の至る所で起きているであろうことは,上記の統計から推測されます。実習生の受け入れの際,「私は,採用試験を必ず受験します」という念書を書かせる学校もあるそうです。実習の受け入れを拒否する学校も増えているとか。こういう学校では,以前に,相当嫌な思いをさせられた経験があるのでしょう。

 現在,多くの大学が「資格取得」をアピールポイントにして,学生獲得に躍起になっています。「本学では,すべての教員免許が取得可能です!」とデカデカと書いた広告を,電車で目にする機会も多くなりました。こういう広告を,学校現場の先生方はどういう気持ちで見ているのでしょうか。

 現在,中央教育審議会では,「教職生活全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」という議題を審議しています。審議の結果をまとめた答申は,近く公表されることでしょう。2005年12月の中教審答申では,「実習開始後に学生の教育実習に臨む姿勢や資質能力に問題が生じた場合には,課程認定大学は速やかに個別指導を行うことはもとより,実習の中止も含め,適切な対応に努めることが必要」と指摘されました。はて,今度の答申では,実習についてどういう言及がなされるのか。興味を持って待っているところです。