2011年4月4日月曜日

無職博士数の推定

 大学院博士課程を出ても定職がない,いわゆる無職博士はどれほどいるのでしょうか。『高学歴ワーキング・プア』著者の水月昭道さんによると,だいたい10万人くらいだそうです。10万人といったら,東京の中央区の人口にほぼ相当します。住民の全員が,最高学歴を持つ無職者…あまり足を踏み入れたくない地域です。

 しかし,この10万人というのは,根拠がはっきりしていないようです。私は,独自のやり方で,大学院博士課程修了の学歴を持ちながらも,定職のない状態に留置かれている人間の数を推し量ってみました。

 私の母校の東京学芸大学大学院博士課程は,修了者の状態を丹念にフォローし,彼らの現況に関する統計をつくっています(私のところにも,毎年,状況の申告を求める手紙がきます)。この統計は,ホームページで閲覧可能です。
http://www.u-gakugei.ac.jp/~graduate/rengou/data/shusyoku.html


 初めて修了生を出した1999年から2010年までの修了生の総計は254人です。この中には,単位取得満期退学者も含みます。そのうち,2010年4月現在において,未就職ないしは非常勤講師というような無職状態にあるのは76人です。比率にすると,無職率は29.9%,およそ3割です。博士号取得者に限定すると,この率は少し下がります。

 この無職率を全国の博士課程修了者の総数に乗じて,無職者数を割り出してみようと思います。ところで,東京学芸大学の数字(29.9%)が,母集団の状況を的確に言い当てているかは,疑問符がつきます。

 博士課程修了時点の統計によると,2010年春の修了生の無職率は35.9%です。うち,教員養成系の博士課程修了生の無職率は34.0%です(文科省『学校基本調査』)。修了時点の統計を比較する限りでは,まあ,教員養成系の博士課程の数字が,全体のそれとかなり異なる,ということはなさそうです。


 ひとまず,作業をしてみましょう。大学院重点化政策が敷かれた1991年から2010年までの,全国の大学院博士課程修了者の総数は242,343人です。この数字に,先ほどの29.9%を乗じると,推定無職者数は72,512人となります。10万人よりもかなり少ない数字が出ました。


 やはり,想定した無職率が低すぎるのでしょうか。母校を持ち上げるのではありませんが,学芸大学はかなり頑張っているようですし…。では,無職率40%という仮定をおいて同じ計算をすると,上記の表のように,96,937人という数字になり,水月氏のいう10万人にかなり近くなります。

 大学院博士課程修了者の4割が何年経っても無職状態に留置かれる社会…。恐怖です。フリーマンというアメリカの経済学者は,『大学出の価値-教育過剰社会』(1977年刊行)という本の中で,教育過剰社会の危険なことは,「多数の高学歴者が希望通りの経歴をふむことができなかったり,また大学を出てから,自分の立場をより良くする道が見出せない場合,彼らの中には政治的過激運動に走る者も出てくるおそれがあることである」(訳書,230頁)と述べています。

 この伝でいうと,現在のわが国は,少なく見積もって7万人,多く見積もって10万人という危険因子を抱え込んでいることになり,その数は今後も増えることが見込まれます。繰り返します。恐怖です。

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