2011年1月7日金曜日

浪人生の減少

 大学全入時代の到来により,大学に入りやすくなっているといわれます。18歳人口(需要層)の減少にもかかわらず,大学数(供給層)は増えているわけですから。前者について,具体的な数をみると,ピーク時の1992年では約205万人であったのが,2010年では121万人にまで減っているのです。

 こうした状況の中,大学入学者に占める,いわゆる「浪人生」の比重もかなり減じているのではないでしょうか。私の頃は,周囲に,浪人経験者が結構いました。中には,4浪というツワモノも。一般に,3浪以上のことを「多浪」と括るようですが,こうした多浪(タロウ)くんにお目にかかることも,少なくありませんでした。はて,現在ではどうなのでしょう。


 上の帯グラフは,18歳人口ピーク時の1992年春の大学入学者と,2010年春の大学入学者の組成を比較したものです。資料は,文科省『学校基本調査(高等教育機関編)』です。「その他」とは,外国の学校卒業者や,大検経由者などです。まず,入学者の数をみると,18歳人口の激減にもかかわらず,54万人から62万人に増えています。これは,進学率が増加しているためです。

 さて,入学者の組成をみると,現役生の比率が63%から83%へと,20ポイントも増えています。現在では,入学者の8割が現役生です。一方,浪人生(1浪~4浪以上)の比率は,35%から13%まで減っています。大学全入時代,さもありなんです。


 ところで,男性と女性ではどう違うのでしょう。国立大学入学者と私立大学入学者とでは,どう違うのでしょうか。上記の表は,それぞれのカテゴリーごとに,浪人生の比率をまとめたものです。性別にみると,女子よりも男子で高いようです。1992年では,男子入学者の42%が浪人生だったのですね。

 大学の種別にみると,1992年では,国公私間にそれほど差はないのですが,2010年では,国>公>私という,きれいな差が出ています。現在でも,国立大学入学者の2割は浪人生です。表には示しませんが,国立大学医学部入学者では,2010年入学者の45%が浪人生です。まだ,大学の種別や学部による差は残っていそうです。

 このように,浪人生が減じているわけですが,これをどう考えるか。浪人生活を経ることに対し,一定の教育的意義を付与する見方もあります。昨年,私の卒論指導学生の中に,「浪人生が勉強以外に学ぶものは何か」という論文を書いた者がいますが,それによると,耐性がついた,視野が広がった,苦労を共にした生涯の友人ができたなど,さまざまな効用があるとのこと。研究者による学術研究でも,同様の問題を扱ったものがあります(塚田守『浪人生のソシオロジー』大学教育出版,1999年)。

 ストレートな人生をまっしぐらに歩んだ者は,一度挫折すると,なかなか起き上がれないといいます。大学生の組成が,現役生一色で染まっていく傾向は,いかがなものかという気がしないでもありません。