2011年1月1日土曜日

よい年でありますように

 年が明けました。当方,喪中につき,新年の祝いの詞は控えさせていただきますが,今年もよろしくお願いいたします。2011年は,どういう年になるでしょうか。願わくは,若者にとって希望が持てるような年になってほしいものです。

 内閣府『国民生活に関する世論調査』によりますと,将来を悲観する若者が増えています。今後の生活の見通しとして,「これから生活が悪くなっていく」と答えた者の比率は,私と同年代の30代のうち26.6%,およそ4分の1に達します(2009年)。10年前の1999年(19.0%)よりもかなり増えています。昨年10月に発刊された,NHKクローズアップ現代取材班『助けてと言えない-いま30代に何が-』(文藝春秋)がかなり売れているようですが,その購買層の多くが30代ではないでしょうか。「われわれの声をよく代弁してくれた!」と。かくいう私も買いました。

 年明け早々,物騒な話になりますが,近年の30代の状況が分かる統計をご覧に入れようと存じます。


 上記の折れ線グラフは,近年の自殺者数の推移を年齢層別にみたものです。資料は,警察庁『平成21年中における自殺の概要資料』です。1997年の人数を100とした指数で表しています。1997年から1998年にかけて,どの層でも自殺者数が増えています。50代では,およそ1.5倍です。この時期に,わが国の経済状況は大きく悪化しました。いわゆる「98年問題」です。大手の証券会社,山一證券が倒産したのも97年でした。そうした状況下で,無慈悲なリストラに遭遇した,この年代(とくに男性)の多くが自殺した,ということでしょう。

 しかし,その後の状況は違っています。50代は,2003年まで高原状態をたどりますが,以後,減少に転じています。今世紀になっても増加傾向にあるのは,太い赤線で示した30代なのです。2009年の指数値は173,1997年の1.7倍の水準です。他の年齢層にはみられない,独自の様相を呈しています。

 なぜ,30代で,こうした悲惨な状況になっているのでしょうか。私は,各年齢層の自殺率曲線と関連が深い社会指標について調べたことがあります(拙稿「性別・年齢層別にみた自殺率と生活不安指標の時系列的関連」『武蔵野大学政治経済学部紀要』第1号,2009年)。その結果,30代では,「これから先,生活が悪くなっていく」と考える者の比率,すなわち「展望不良率」が,自殺率の推移と最も近似していることが分かりました。


 展望不良率とは,内閣府『国民生活に関する世論調査』において,「これから先,生活が悪くなっていく」と答えた者の比率(%)です。自殺率は,自殺者数を当該年齢層人口で除した値(10万人あたり)です。これら2指標の時系列推移を,3年刻みの移動平均法で表すと,上記のようになります。

 いかがでしょう。両指標の推移がかなり似ていることが分かります。1990年代後半以降,跳ね上がっている傾向もそっくりです。この期間中の両指標の相関係数は0.8624と,大変高くなっています。なお,こうした関連は,30代に固有のものでした。自殺率が高い50代では,予想されることですが,失業率が自殺率に最も大きく影響していました。

 人間にとって重要であるのは,「希望」であるといわれます。高度経済成長期では,若者の自殺率は格段に低かったのですが,それは,現時点での生活の水準が低くとも,将来に希望が見出せたが故と思われます。しかし,現在ではそうではない。私は,2005年に上映された「ALWAYS・三丁目の夕日」のDVDを繰り返し観ながら,このようなことを思うのです。最近,東大の玄田教授を中心に,「希望学」という学問領域の開拓が目指されているようです。大変意義ある取組であると,敬意を表します。

 長くなりました。このあたりで止めにします。寒波の到来で,寒いお正月となりそうです。みなさま,どうかご自愛のほど。