2017年8月22日火曜日

10代の劣等感の国際比較

 更新の間が空いてしまいましたので,今日ツイッターで発信した一葉のグラフを,ブログにも載せておきましょう。

 10代の青少年のうち,「自分は役に立たないと強く感じる」という者の比率の国際比較です。当該の項目に,「そう思う」という最も強い肯定の回答をした者の割合です。

 資料は,内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年)なり。当該調査のローデータを加工して,%値を独自に出しました。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/hikikomori/h27/pdf-index.html


 日本は性差が大きくなっています。男子は6.9%でスウェーデンの次に低いのですが,女子は17.5%で比較対象国の中で最も高くなっています。

 おそらくは,役割期待のジェンダー差の表れではないかなと推測します。低い期待に順応し,「どうせ私なんて…」と思っているのか,高い期待(家事+仕事!)に応えられず,劣等感を募らせているのか。

 韓国の男子がメチャ高なのは,地獄とも形容できる受験競争へのコミットを万人が強いられるからでしょう。勝者の枠は決まっていますので,そこから漏れた多数の者が劣等感を植え付けられると。それは,とりわけ男子で顕著と思われます。

 日本の女子はもしかすると,成績良好な子ほど劣等感が強かったりして。周囲の期待との葛藤の所産です(女子なのに…)。

 ちなみに男子はというと,前に私がやった分析によると,性役割観に反対する者のほうが劣等感が強いという結果が出ています。周囲から「軟弱,ヒモ」とか言われるのでしょうか。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/01/blog-post_20.html

 日本は性役割観が強い社会ですが,それは未来を担う青少年の自我に反映されてしまっています。しかし人口減少社会では,「男は仕事,女は家庭」という分業では家計が成り立ちませんし,社会の存続も脅かされます。

 上記のグラフを見て,偏狭な性役割観の打破の必要性を,改めて思い知らされます。男女に関係なく,家庭や職場といった領域において,各人のタレントを十二分に開花させるためにもです。

2017年8月15日火曜日

再分配政策の見直し

 自由主義・資本主義の社会では,人々が有している富の量には,著しい傾斜がつけられています。富める者もいれば,貧しい者もいる。

 当然のことですが,その度合いが過ぎると社会が不安定化するので,前者から後者への所得移転(再分配)が行われるのが常です。平たく言えば,富をたっぷり持っていて,生活に困っていない人が,生活に困っている人を助けると。

 しかるにわが国では,生活の困窮度に関係なく,下の世代が上の世代を助ける(支える)という構図が定着しています。制度上は,資産をどっぷり持っていて,高級ゴルフクラブに足繁く通う老人が社会保障給付の対象になり,非正規雇用でカツカツの若者は,彼らを支える側に回らないといけない。

 助ける側になるか助けられる側になるかは,年齢によって機械的に決まるわけです。年齢による役割規範が強い日本ならではのシステムだと思いますが,これはおかしいと思っている人は星の数ほどいるでしょう。

 一橋大学の小塩隆士教授は,そうした現行制度の問題を指摘し,目指すべき制度がどういうものかを,分かりやすい図で示してくださっています。下記内閣府レポートの22ページです。図を拝借させていただきましょう。
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2015/__icsFiles/afieldfile/2015/07/16/27zen14kai5.pdf


 現行制度は,生活の困窮レベルに関係なく,若い世代が年老いた世代を支える(助ける)と。しかしこれは「不公平でしかも非効率」なので,年齢に関係なく,生活に困っていない人が困っている人を助ける制度に変えるべきである。こういう提言です。

 多くの人が腹の底で考えていることを,見事に代弁してくださっていますねえ。この図を紹介したツイートが広く拡散しているのも頷けます。

 私はこういう4象限の図を見ると,それぞれの象限に該当する人の数がどれほどかを知りたくなります。上記の図に説得力を添える「+α」の作業として,それを推し量ってみましょう。

 2016年の厚労省『国民生活基礎調査』では,世帯の貯蓄額分布が,世帯主の年齢層別に明らかにされています。下記サイトの表156です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001184705

 私はこのデータを使って,上図の4象限に該当する世帯量を見積もってみました。生活に困っていない世帯は,貯蓄2000万以上の世帯としましょう。生活に困っている世帯は,貯蓄50万未満としましょうか。病気や事故などに見舞われた場合,即座に生活破綻に陥るリスクを抱えている世帯です。

 貯蓄だけでなく収入(所得)も考慮したいのですが,貯蓄と所得のクロスのデータは,年齢層別に得ることはできません。ここでは,ラフな見積もりとして,貯蓄のみに注目することにします。

 世帯主が60歳未満と60歳以上の世帯に分けて,上記の基準を適用して,生活に困っていない世帯と困っている世帯の数(全世帯数を1万とした場合の数)を出しました。下図は,4象限の世帯量を正方形の面積で表現したものです。


 高齢世帯というと,乏しい年金でギリギリの暮らしをしている世帯が多数というイメージですが,そうでない世帯もある。数の上では,貯蓄50万未満の世帯よりも,貯蓄2000万以上の世帯のほうが多くなっています。

 昨日,ツイッターでグラフを発信しましたが,高齢世帯の貯蓄格差は凄まじい。スッカラカンの世帯と,どっぷり貯め込んでいる世帯にはっきりと分化(segregate)しています。後者は,振り込め詐欺の電話1本で何百万もポンと出せる世帯です。

 60歳未満の現役層では,上の富裕世帯よりも下の生活困窮世帯のほうがずっと多くなっています。年齢という軸だけで,これらの世代が「支える側」の位置につかされるのはキツイ。

 生活に困っていない人が,困っている人を助ける。支援の矢印は「上から下」に向くべきであって,「左から右」と年齢軸で決められるべきではありますまい。

 むろん,右上のガッツリ貯め込んでいる高齢世帯も,個別事情は多様でしょう。しかるに,機械的な「年齢主義」を見直す(撤廃する)時期に来ているのは確かです。日本は超高齢化社会のステージに達しているのですから。

 振り込め詐欺は,困窮若年層(左下)による,富裕高齢層(右上)に対するテロ行為のようなもの。振り込め詐欺のプレーヤー研修では,「富裕老人から数百万円巻き上げてもどうってことはない。むしろ,いいことだ」と思わせることに重きを置くそうですが(鈴木大介『老人喰い』ちくま新書),洗脳される側にすれば,妙に説得力を持って聞こえてしまうのも事実でしょう。現行制度において搾取されている,本来受け取るべきの支援を受け取れていない人も多いのですから。

 上記の面積図によると,量的に多数なのはこの2者(困窮若年層,富裕老人層)です。今後ますます,この2つの層は増えていくのではないでしょうか。再分配政策を見直さないと,両者の溝の深まり,葛藤は避けられないでしょう。

2017年8月13日日曜日

スマホだけ族

 2015年2月25日に,「パソコンを持たない若者」という記事を書きました。本ブログで最も読まれている記事の一つです。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/02/blog-post_25.html

 日本の青少年のパソコン所持率が,諸外国に比してダントツで低い。若者の「パソコン離れ」を如実に示したデータとして,注目されているのだと思います。ソースは,内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年)です。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 本記事にはいろいろなコメントが寄せられましたが,「スマホで用が足りるので,パソコンを持たないのだろう」という意見が多数です。そうですよね。仲間との交信や情報収集はスマホで十分。メールをパソコンで打ったことがない学生もザラでしょう。

 まあ,冒頭の記事で分かるように,日本の若者はスマホの所持率も諸外国に比して低いのですが,パソコンは持たずスマホだけを持っている「スマホだけ族」はさぞ多いことでしょう。情報化社会を生き抜くツールを,もっぱらスマホに依存している人です。

 10代の青少年のうち,スマホだけ族は何%いるか。上記調査のローデータを加工して,国ごとのパーセンテージを出してみましょう。

 下表は,10代(正確には13~19歳)のうち,a)携帯・スマホを持っている者,b)パソコンを持っている者,c)両方持っている者の割合を,調査対象の7か国について計算したものです。


 日本と他の6か国の間に断層ができています。いずれの機器の所持率も,日本は格段に低し。スマホとパソコンを両方持っているのは,日本では半分以下ですが,スウェーデンでは9割もいます。

 「スマホだけ族」の割合は,aからcを差し引くことで得られます。74.6-48.0=26.6%,およそ4人に1人ですか。パソコンだけの者(b-c)は6.7%と,ごくわずかです。

 これらの数値をもとに,日本の10代の情報機器所持の様相を,正方形の面積図で表現してみましょう。下図をご覧ください。新刊『データで読む 教育の論点』(晶文社)の215ページにも掲載している図です。


 スマホだけが26.6%,パソコンだけが6.7%,両方所持が48.0%,両方なしが18.7%,という内訳です。これは日本の10代のデータですが,他国では,この4群の内訳がどうなっているか。最初の表の数値(a~c)をもとに算出すると,以下のようになります。


 スマホだけ族の割合は,日本がダントツで多くなっています。スマホもパソコンも持たない情報機器無縁者も18.7%で,他国よりも格段に多いことに注目。

 年齢を一段上がって20代になると,パソコン所持率が上がるので,両方所持が9割を占めるようになりますが,これは世代の要因でしょう。上表の10代が20代になったとき,パソコンを持つようになるとは考えにくい。

 今では,スマホのような小型機器でも大抵のことはできます。仲間との交信,情報収集,さらにはフリック入力でレポート作成をやってのける学生もいます。

 ツイッターで一回呟くのにも一苦労の私には到底無理なことですが,今の若い世代は違う。これからスマホはますます多機能になっていくと思いますが,10年後くらいには,「パソコンが使えない若者」ではなく,「スマホで仕事ができない中高年」が問題視されるようになるかもしれませんね。

 ただ現段階では,凝った創作物などを生み出すには,スマホよりもパソコンに分があるでしょう。ひろゆきさんの新刊『無敵の思考』(大和書房)に書いてありましたが,「パソコンに慣れている人のほうが,モノづくりの活動は上手くできます」(64ページ)。

 国際的にみて,日本の若者はネットで創作物を発信する頻度が低いのですが,こういう受動的な態度は,スマホ依存でもたらされているのかもしれません。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/02/post-7032.php

 パソコンを持たない人は「消費者のままでいるのですから,実は人生で損をしている」(ひろゆき氏,前掲書,65ページ)。インターネットという文明の恩恵を積極的な仕方で利用できるようなるためにも,子どもをして,パソコンに触れるよう仕向けることは必要でしょう。

 そのためには,パソコンを使う必要に迫られる環境を作ること。それこそ,教育の情報化に他なりません。学校において,提出物や書類のやり取りをネットで行う。これをするだけでも,事態は大きく変わるのではないでしょうか。絵空事に思われるかもしれませんが,ICT先進国のデンマークなどでは日常的な光景です。

 高度情報化社会という状況に置かれているのは,どの国も同じです。にもかかわらず,日本の子どものネット利用は,スマホという小型機器を介した,受動的・消極的なものになっている。それは,子どもの生活が社会から切り離されていることの証左ともいえます。

 子どもの主要な生活の場は学校ですが,かつてデューイは「学校とは陸の孤島のようなもの」と形容しました。日本の学校は未だに,このような状況なのかもしれません。高度情報化社会の波に揉まれるならば,パソコンのような機器を使う必要に迫られるわけですから。

 スマホだけ族という切り口から,学校と外部社会の関係という,大きな問題を抽出できるようにも思います。

2017年8月7日月曜日

戦争(戦場)体験世代の減少

 昨日は8月6日。今から72年前のこの日,広島に原爆が落とされた日です。

 この日には毎年,平和式典が開かれ,戦争を実際に体験した人の談話などが報じられます。戦争の記憶が風化しつつある現在,こうした取り組みの重要性はどんなに強調しても足りません。

 東洋経済オンラインに「いま聞かないと戦争体験者がいなくなる」という記事が載っていました。これは自然の摂理です。時代が経過するにつれ,戦争体験世代はどんどん減少し,やがては皆無になります。
http://toyokeizai.net/articles/-/182215

 その様をデータで可視化してみましょう。そのためには,戦争体験世代を公的統計から拾い出すための操作的定義が必要になります。人によって意見は分かれるでしょうが,私は,1940年以前に生まれた世代がいいのではと考えます。

 終戦時(1945年)には5歳になっていたわけですので,物心はついていることになります。私の母親(故)は1940年生まれですが,1945年の春に鹿児島が空襲に見舞われた時,私の祖母に背負われて火の海を逃げ惑った記憶をよく聞かせてくれました。

 それと,戦場体験世代も取り出してみたいと思います。戦地に赴き,銃を握って戦った経験のある世代です。これは,終戦の1945年に成人になっていた世代でいいでしょう。1925年以前の生まれの世代です。

 2015年の『国勢調査』の年齢統計から両世代の量を明らかにする場合,戦争体験世代は75歳以上,戦場体験世代は90歳以上人口の数を取り出せばよいことになります。私が生まれた年の前年の1975年では,35歳以上,50歳以上の人口が該当することになります。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02100104.do?tocd=00200521

 両年の『国勢調査』の年齢統計(5歳刻み)から,戦争体験世代と戦場体験世代を取り出してみましょう。1975年のマックス階級は「85歳以上」でまとめられています。


 黄色マークが戦争体験世代,その中の赤字は戦場体験世代です。

 1975年では,前者が4761万人,後者が2360万人いました。総人口に占める比率は42.5%,21.1%です。私が生まれた70年代半ばの頃は,国民の5人に2人が戦争体験世代で,5人に1人が戦場体験世代だったと。

 しかし40年を経た2015年現在では,戦争体験世代が1613万人(12.7%),戦場体験世代に至っては177万人(1.4%)にまで減ってしまっています。

 こういう数字をみると,上記記事の「いま聞かないと戦争体験者がいなくなる」という警告が,真実味を帯びてきますねえ。戦場体験世代は,あと10年くらいで皆無になってしまうのではないか。

 今日の中日新聞に,中国の戦地で民間人を刺し殺した体験を懺悔したいという,102歳(1915年生まれ?)の戦場体験者の話が出ていました。「戦争は人の気を狂わせる。常識では分からないことをする」。体温が伝わるような形で,こうした体験を聞ける機会は,あと数年もしたら本当になくなってしまうかもしれません。

 それはいつ頃になるか。過去から現在,そして未来の予測も含めて,戦争体験世代と戦場体験世代の量変化を跡付けてみましょう。

 5年刻みの『国勢調査』と『将来推計人口』に当たって,先ほどの1975年と2015年と同じ要領で,両世代の人口を取り出しました。実数と構成比の変化を以下に掲げます。


 戦場体験世代は,2025年に13万2千人になると見込まれます。総人口の0.1%です。2030年には105歳以上ですが,将来推計人口のマックス階級は100歳以上ですので,この年以降は取り出せません。

 そうですねえ。2030年代の前半には,ほぼ皆無になってしまうのではないか。戦争体験世代は2040年までの推定量を拾えますが,この年で30万9千人(0.3%)ほど。2050年には,ほとんどいなくなってしまうでしょう。

 こんな細かい数字を整理せずとも分かることですが,この世代の証言をきちんと記録しておくのは大事なことです。

 夏休みは,子どもたちにはぜひ,戦争体験世代の話を直に聞いてほしいと願いますが,今の子どもは,祖父母もほとんどが戦争非体験世代ですので,なかなか機会を得るのも難しいでしょう。

 しからば,活字(本)ということになります。戦争体験の本は無数に出ていますが,私が勧めるのは,西村滋さん(故)の『お菓子放浪記』です。全3巻で,1巻が1976年,2巻(続編)が1994年,3巻(完結編)が2003年に,理論社から刊行とあります。


 作者は1925年の生まれで,戦間期を孤児として過ごしました。終戦時には成人になっていましたが,自身が在籍していた孤児院で,戦争孤児の世話をしたという人です。

 本書は,作者のそういう経歴(体験)が投影された,戦争孤児の物語です。戦争の悲惨さだけでなく,戦争が子どもの心にいかに深い傷をもたらすが,赤裸々に訴えられています。戦争孤児が焼け跡をたくましく生きるというような,美談モノではありません。

 それは,登場人物の以下のセリフを引くだけで分かります。世界中の首脳者に聞かせたい名言です。

戦争孤児が立派になってはいけない。戦争が好きな奴らが安心して,いつでも戦争をやろうとするから」。

 1976年に出た1巻は,全国の青少年読書感想文コンクールの課題図書にもなったそうです。当時から40年以上経ちましたが,この本のよさは,いささかも色あせてはいません。今の子どもたちにも,ぜひ読んでほしい。私が課題図書の選考委員なら,真っ先のこの本を推薦しますね。

 まあ,人から読めと言われた本なんて,8割方つまらないのが常なんで,自分が読みたい本を読んでもらえばいいのですが。ただし,戦争体験の本をね。

 ただ気が向いたら,ぜひお手にとってください。名著ですので,近くの図書館にあるかと思います。よい夏休みを。

2017年8月4日金曜日

都道府県別の大学進学率(2017年春)

 今年度の文科省『学校基本調査』の速報集計結果が公表されました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

 タイトルのごとく,学校数,児童生徒数,卒業後の進路など,学校に関する基本データを載せた,公的な基本統計資料です。教育学,とりわけ教育社会学の研究者で,この資料を知らない人はいないはずです。

 児童数が過去最低になった,大学生の就職率が過去最高になったなど,いろいろなファインディングが報じられていますが,私が関心を持つのは大学進学率です。

 2017年春の,18歳人口ベースの浪人込みの大学進学率は52.6%で,前年度の52.0%を上回りました。今では同世代の半分が4年制大学に進学しますが,そのことの数値的な表現です。

 しかるにこれは全国の数値で,地域別にみれば値は大きく違っています。地方出身という身の上もあり,私はこの問題にずっと関心を持ってきました。毎年,『学校基本調査』のデータが公表されたら,都道府県別の大学進学率を計算することにしています。2017年春の大学進学率の地域格差は,どうなっているでしょうか。

 大学進学率とは,進学該当年齢(18歳人口)のうち,4年制大学に進学した者が何%かです。『学校基本調査』から出す場合,当該年春の大学入学者数を,3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者数で除して算出します。

 分子には,過年度卒業生(浪人経由者)も含まれますが,当該年の18歳人口からも浪人を経由して大学に入る者が同程度出るであろうと仮定し,両者が相殺するとみなします。

 2017年春の大学入学者は62万9736人で,3年前(2014年春)の中学校・中等教育学校前期課程卒業者は119万8290人ですので,今年春の大学進学率は上述の通り,52.6%となる次第です。

 都道府県別に出す場合は,分子は,当該県の高校出身の大学入学者数を充てることになります。

 以上が,18歳人口ベースの浪人込みの大学進学率の計算方法です。これは私が独断で考えたものではなく,公的に採用されている計算方法であることを申しておきます。

 このやり方で,2017年春の47都道府県の大学進学率を計算してみました。ジェンダーの違いも見たいので,男女別の数値も出しました。下表は,その一覧です。黄色マークは最高値,青色マークは最低値,赤字は上位5位です。


 左端の男女計の数値をみると,全国値は52.6%ですが,県別にみると東京の72.8%から大分の36.9%までの開きがあります。前者は後者のほぼ倍です。同じ国内とは思えぬほどの格差ですね。

 最下位の県は男女で違っていて,男子は沖縄,女子はわが郷里の鹿児島です。毎年のことですが,鹿児島はジェンダー差が大きくなっています。男子の進学率(42.7%)は,女子(32.5%)の1.3倍以上です。2015年に,本県の知事が「女子に三角関数を教えて何になる」と発言したことが思い出されます。

 表の右端には,このジェンダー倍率を掲げています。大学進学率の性差が最も大きいのは山梨,その次が鹿児島,3位は北海道です。

 しかし東京と徳島は,男子より女子の大学進学率が高くなっています。女子の場合,一人暮らしをさせるのを躊躇う親御さんが多いでしょうが,東京は,自宅から通える大学が多いという条件があるためでしょうか。徳島は,どういう事情でしょう。県内に大きな女子大があるというわけではなさそうですが…。

 毎年のことですが,大学進学率には凄まじい地域格差があります。都市部で高く,地方で低い。大学が都市部に偏在しているためですが,住民の階層構成とも強く相関しています。

 県民所得と強い相関関係にあるのは,大学進学には多額のコストがかかり,経済的理由で進学を断念する生徒が地方に多いことの表れです。しかるに,親の意識も大きいようで,親世代の大卒人口比率は,所得よりももっと大学進学率と強く相関しています。

 下図は,18歳人口の親世代(45~54歳)の大学・大学院卒比率と,上表の男女計の大学進学率の相関図です。


 スゴイですねえ。相関係数は+0.8698にもなります。費用負担のような経済要因よりも,親が大学進学をどう考えるかという意識や価値観,言うなれば文化資本的な要因が効いているようです。

 まあしかし,大学進学チャンスの地域格差の是正に際しては,経済的支援が大きな位置を占めるのは疑いようがありません。

 日本は大学進学率が50%を超えており,幅広い階層に高等教育機会が開かれた社会ですが,それは家計に大きな費用負担を強いていることで成り立っており,ここで見たような凄まじい地域格差を内包していることを,決して忘れてはいけません。

 教育基本法第4条が規定している「教育の機会均等」の理念が,全く持って実現されていない。そのための「奨学の措置」が,有利子の金貸し事業(名ばかり奨学金)というのは通用しません。*給付型の奨学金が導入される運びにはなりましたが。

 上記のような大学進学機会の地域格差は,個人にとっての「不平等」の問題にとどまりません。地方に埋もれた有能な才能を放置することになり,社会にとっても損失となります。子どもの学力上位の秋田や福井は,大学進学率が低いのです。学力テストの平均正答率と大学進学率の相関図を描くと,何とも奇妙な図柄になります。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/10/blog-post_20.html

 ヒトしか資源のない日本にとって,このような事態は看過できますまい。有能な人材を掘り出すための費用(給付奨学金,学費減免枠の拡大…)を,ケチっている場合ではないでしょう。

2017年8月3日木曜日

『データで読む 教育の論点』が出ました

 拙著『データで読む 教育の論点』が晶文社より発刊されました。アマゾンでの発売が開始され,全国の大きな書店には置かれている模様です。
http://www.shobunsha.co.jp/?p=4364

 表紙写真と中身ちょい出しの写真を載せておきましょう。編集担当のA氏がツイッターで発信されているものを拝借いたします。
https://twitter.com/andorakia


 タイトルの『教育の論点』とはよく言ったものですが,本ブログの一部書籍化です。1)子ども,2)家庭,3)学校,4)若者,5)社会,という5つの柱を立て,72本の記事を精選し,一冊の書物として筋が通るよう配列し,文章やデータもリファインしています。

 印象やフィーリングで語られている教育事象を,データを使ってできるだけ丁寧に「見える化」しています。各地の議員さんから「議会質問に使いたい」というリクエストをいただいた,保育所在所率と児童虐待の相関図(102ページ)なども載せています。

 盛られている内容の詳細は,冒頭の出版社HPをご覧ください。教育関係者の方々の実務に寄与する部分もあるかと存じます。

 難しい理屈や数式を並べ立てた本ではありませんので,教育や社会に関心を持つ一般の方々に読んでいただけたらと思っております。統計がたくさん載っていますが,使われているのは四則演算だけです。中学校レベルの数学力で十分理解できる内容です。ひるむなかれ。

 本書に載っているデータは,公開されている公的統計資料から作成したものです。計算のプロセスについても仔細に説明していますので,読者はその気になれば,データの再現可能性を追試することができます。億劫な作業かもしれませんが,それをやってくれる人が出てくることを願います。公的統計を使いこなせる人が増えるからです。大学の調査統計法の作業課題としても,いいのではないでしょうか。

 社会現象を数で可視化する技法の手引きにもなるかと思いますが,私のやり方はかなり「自己流」です。したがって,反面教師として使っていただく用途もあろうかと思います。

 書店に平積みになっているという,うれしい情報提供もあります。夏休みの読み物として,多くの人に手にとっていただけたらと願っております。
https://twitter.com/kumiko_a_o/status/893065367848865792

2017年8月2日水曜日

治安と未婚単身女性比の相関

 ソロ社会研究者の荒川和久氏が,興味深いデータをツイッターで発信されています。
https://twitter.com/wildriverpeace/status/891639494104842241

 40代の単身未婚者数の男女差を都内23区別に出したところ,男性は北東の下町ゾーンが多いのに対し,女性は世田谷や目黒など,家賃が高いエリアで多いのだそうです。これをもって,「男女未婚者の貧富の差」が出ていると指摘されています。

 なるほど。男性は未婚者ほど年収が低いが,女性はその逆であることは,私も繰り返しデータを提示してきました。確かに,「男女未婚者の貧富の差」の表れともいえましょう。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/09/post-3882.php

 荒川氏は,2015年の『国勢調査』からデータを採取されたそうです。私も同じ資料にあたって,データを揃えてみました。年齢は一段下がって,35~44歳のアラフォー年代にすることにしましょう。

 以下に掲げるのは,都内23区別の35~44歳の未婚単身者数です。正確にいうと,単独世帯の世帯主の数です。下記リンク先の表6から得ることができます。ピンク色のDBボタンを使って,「地域×性別×年齢×配偶関係×世帯類型」のクロス表を作るとよいでしょう。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001077451&cycleCode=0&requestSender=search


 男性が多いか女性が多いかは,区によって違っています。右端に「女性/男性」の倍率を出しましたが,最も高いのは目黒区で1.39倍です。この区のアラフォー未婚単身者は,女性のほうがかなり多くなっています。

 その逆は足立区で,同じ倍率は0.49倍です。男性が女性の倍以上となっています(男性5739人,女性2812人)。

 赤字は,この倍率が1.0を超える区,つまり女性のほうが多い区を指します。中央区,港区,文京区,目黒区,世田谷区,渋谷区,そして杉並区ですか。なるほど。男女の対比でみる限り,荒川氏の言われるように,家賃(所得水準)が高い区で,未婚の単身女性は多いように見受けられます。

 反対の特性を持つ城東エリア(足立,葛飾,江戸川)では,この倍率は0.6に達しません。アラフォーの未婚単身者は,女性より男性がうんと多くなっています。

 以上は荒川氏のデータの「再現」ですが,上記のジェンダー倍率(未婚単身女性の相対量)は,地域の治安とも相関しているでしょう。独り身の女性の場合,治安を考慮して居住地を選択するといいますし。

 私は前に,都内23区別の犯罪発生率を計算したことがあります。2015年中の刑法犯認知件数を,各区の昼間人口で除した値です。都内23区は通勤・通学の移動が激しいので,定住人口に流入人口を加えた昼間人口をベースにするほうがよいでしょう。計算方法の詳細は,下記リンク先の記事をお読みください。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/05/23.html

 アラフォーの未婚単身者の「女性/男性」倍率と,2015年の犯罪発生率の相関をとると,下図のようになります。


 犯罪発生率と「女性/男性」倍率の間には,マイナスの相関関係が観察されます。相関係数は-0.6164であり,1%水準で有意です。

 犯罪発生率が低い区は,未婚の単身女性が多く住まう傾向があると。予想はしていましたが,治安との相関関係は出てくるものですね。完全にきれいな傾向ではないのですので,オートロック物件の比重など,他にもファクターはあるでしょうけど。

 都内23区の統計をいじってみると,いろいろな側面の地域分化(regional segregation)を浮かび上がらせることができます。