2016年9月26日月曜日

官公庁系データはしゃぶり尽くせ!

 本日発売の『プレジデント』誌にて,表記のテーマについて私が答えたインタビュー記事が掲載されています。
http://presidentstore.jp/books/products/detail.php?product_id=2677


 『プレジデント』誌といえば,言わずとも知れたビジネスマン向けの雑誌ですが,読者のビジネスパーソンにとって役立つ「資料術」の特集の一環として,企画されたパートです。


 見開き2ページ(82~83ページ)の記事ですが,思う所を言わせていただきました。ネタ明かしは,ここではしません。コンビニなどにも置かれると思いますので,興味ある方はご覧くださいませ。

 ただ一点だけ。「舞田さんは,高い研究費をもらっているから,ああいうデータやグラフができるんだろう」と言われることがありますが,とんでもない話です。在野の学徒の私は,1円たりともそんなお金はもらっていません。

 タダで使える官庁統計(公表データ,ローデータ)を使わせてもらっているだけです。それでも,このブログで紹介しているような作品はできる。私のような貧乏人でも,こういう作品は作れる。この点は,強調しておきたいと思います。私のマネは,どなたでもできます。

 よしんば,「研究費をあげるよ」と持ち掛けられても,私は断るでしょうね。変にお金を持つようになると,「独自にこういう調査をやってみよう」などという,いらぬ欲が出て,集中力が削がれる恐れがある。

 故・西村滋さんの『お菓子放浪記』の中に,「欠乏という名の贅沢」という言葉が出てきますが,私はそれを享受しています。これからも,このスタイルは崩さないつもりです。

 最後に,本企画を提案いただいた,プレジデント社記者の大塚常好氏に感謝申します。上記記事の文章は,氏の筆になるものです。

 私の言いたいことを,限られたスペースで実に上手くまとめてくださっています。記事にはグラフが3つ載っていますが,「既存統計からこういう作品ができるという,サンプルを示したほうがいい」という,氏の提案に従いました。さすがはプロですねえ。読者目線をよく心得ておられる。

 大塚氏には,プレジデント・オンライン連載でも,担当編集者としてお世話になっています。私のような輩の相手をするのは楽ではないと思いますが,今後ともお付き合いいただければと存じます。

2016年9月25日日曜日

子育てに選ばれる地域はどこか(全国1918市区町村)

 前に,首都圏(1都3県)の市区町村のデータでやったことのあるテーマですが,射程を全国に広げて,同じ分析をしてみましょう。

 わが国では人口が減っていますが,どの自治体も,何とか新住民を取り込もうと一生懸命です。狙いは,とりわけ子育て期の年代です。子どものいるファミリーが入ってきてくれれば,地域も活性化するというもの。そういう事情からか,「子育てに選ばれる地域はどこか?」という特集を,育児雑誌の類でよく見かけます。

 私はこの主題に,統計的にアプローチしてみようと思います。各市町村について,子育て年代(25~39歳)の転入超過率という指標を出してみます。2015年中の転入超過数(=転入数-転出数)を,同年1月1日時点の人口で除した値です。意味するところは,人口の転出入(mobility)によって,初期人口が何%増えたか,です。『住民基本台帳人口移動報告』(2015年)に載っている,日本人住民のデータを使います。
http://www.stat.go.jp/data/idou/3.htm

 上記資料によると,私が済んでいる東京都多摩市の場合,2015年中の25~39歳の転入超過数は-47人(A)です。入ってくる人より出ていく人が多い,「転入<転出」ですので,マイナスの値になります。子育てにはいい環境だと思うのですがねえ・・・。

 2015年1月1日時点における,25~39歳人口は26,952人(B)。したがって,2015年の多摩市の子育て年代の転入超過率は,A/B=-0.17% と算出されます。値はマイナス。残念ながら,総勘定でみて,子育て年代が出て行っていることになります。

 一方,都心の中央区は+5.18%です。転入超過により,子育て人口(25~39歳)が年間で5.18%増えている計算です。通勤時間も短くて済むし,タワマンがそびえたっていますからねえ。

 これは,東京都の多摩市と中央区のケースですが,私は同じ値を,全国の1918市区町村について計算しました。分布の範囲はとても広く,最高の+21.59%から,最低の-13.39%までの幅があります。

 ヒストグラムにて,分布の素性を見ていただきましょう。ピンク色はプラス,緑色はマイナスの市区町村です。


 2015年中に,子育て年代が増えた市区町村(転入超過率がプラス)が665で,全体の3分の1ほどです。残りの3分の2の地域では,逆に減少しています。数でみて,子育て年代人口を減らしている市区町村がマジョリティです。

 そうした中,子育て年代をたくさん取り込んでいる地域(グラフの上のほう)に関心がもたれます。その顔ぶれをご覧に入れましょう。下表は,25~39歳の転入超過率が上位50位の市区町村です。


 上位には過疎地域が並んでいますが,これは初期人口(ベース)が少ないことに注意しないといけません。

 赤字はベースの初期人口が千人以上で,黄色マーク付きは1万人以上の市区町村なり。先ほど上げた,東京の中央区があります。駅前保育が自慢の,千葉県流山市もランクイン。茨城のつくばみらい市も見受けられますが,つくばエクスプレスの効能でしょうか。

 統計から明らかになった,子育て年代人口(25~39歳)の転入超過率の上位一覧です。「子育てに選ばれる地域はどこか」に関する,雑談のネタにでもお使いいただければと存じます。

2016年9月24日土曜日

中学校の過労死予備軍教員数

 2014年10月に発生した,中学校の男性教諭(当時27歳)の自殺事件が公務災害として認定されたそうです。月間の残業時間は160時間にも達したとのこと。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160923-00000112-mai-soci

 中学校の若手教員ですから,過重な部活指導なども負わされたのでしょう。それで精神疾患を発症し,自殺に至ったという因果関係が認められました。

 全国の中学校を見渡すならば,このレベルの過重労働をしている教員は少なくないように思えます。月間残業時間160時間ということは,週あたりの残業時間は40時間。法定就業時間(8時間×5日=40時間)との差分で考えると,週80時間以上の就業ということになるでしょうか。

 OECDの国際教員調査「TALIS 2013」では,中学校教員の週間就業時間を尋ねています。それによると,日本の20代の中学校教員(フルタイム)のうち,週80時間以上勤務している者の割合は12.9%となっています。およそ8人に1人で,少数派ではありません。
http://www.oecd.org/edu/school/talis.htm

 30代では9.4%,40代では6.1%,50代では4.1%,となっています。やはり,若手ほど負荷が大きいようです。この比率を,各年齢層の本務教員数に乗じ,出てきた値を合算することで,冒頭の男性教員と同じくらい働いている,過労死予備軍教員の数を推し量ってみましょう。

 計算に使う本務教員数(母数)は,2013年の文科省『学校教員統計』から得ました。同年10月時点の数値です。


 中学校の過労死予備軍教員数は,20代が4,280人,30代が4,896人,40代が3,865人,50代が3,312人で,合計すると16,353人となります。

 全国の中学校には,週80時間以上勤務(月間残業160時間以上)の過労死予備軍教員が,およそ1万6千人ほどいる計算になります。20~50代のフルタイム中学校教員全体の,およそ7.1%(14人に1人)なり。

 以上のことを図解すると,下図のようになります。ブラックが,過労死予備軍教員です。図の横幅で,本務教員の上での年齢層比重を表現しています。


 仮に,この1万6千人の1.0%(160人)が自殺を図るとすると,中学校教員の自殺率は69.9人(ベース10万人あたり)となり,国民全体の自殺率(近年は,10万人あたり20人ほど)よりも,段違いに高くなることになります。

過労死(自殺)予備軍が1万6千人。そのうち,自殺に傾く恐れがある者が160人。あり得ない事態ではないと思います。当然,上図のような図柄ができるのは,世界広しといえど,日本だけです。

 次期学習指導要領では,AL授業だの道徳の教科化など,英語教育の早期化など,さらに負荷がかかりますが,人員増員・業務のスリム化などの条件整備がないならば,事態はさらに悪化することになります。

 われわれはこの事実を直視し,教員の勤務状態改善に取り組まねばなりません。

2016年9月22日木曜日

学部別の浪人生率の分布

 今年の初頭に書いた「大学受験の50年史」という記事が,昨日からよく読まれています。大学の入学者と入学志願者のデータから,各時期の受験競争の度合いを可視化したグラフがウケているようです。「自分の頃はこんなだったんだ」という思いを抱かれていることでしょう。

 今回は,このネタの延長のお話をしようと思います。

 上記記事のグラフから分かるように,以前に比して,大学受験競争はかなり緩和されています。試験の不合格率はピークの1990年では44.5%と半分近くでしたが,直近の2015年ではたったの6.7%です。あと数年もすれば,入学者と志願者の数がほぼ一致する,実態としての「大学全入時代」が到来するかもしれません。

 18歳人口は減っていますが,進学率の高まりにより,入学者の絶対数は増えています。1990年では49万人ほどでしたが,2014年では59万人です。

 変わったのは,入学者の絶対数だけではありません。この内訳(現役・浪人割合)も大きく変わっている。下図は,1990年と2014年の入学者の組成図です。各カテゴリーの入学者数を,正方形の面積で表現しています。2015年以降の『学校基本調査』では,大学入学者の現役・浪人割合を集計していませんので,最近の状況は2014年の断面でみています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528


 先ほど書いたように,この四半世紀で大学入学者は49万人から59万人に増えていますので,トータルの正方形は大きくなっています。

 しかし,その組成が変わっている。色付きは浪人経由者(1浪,2浪,多浪=3浪以上)ですが,正方形の面積で示される絶対量も,入学者全体に占める相対量も減っています。1990年では浪人生の割合は35.9%でしたが,2014年では14.0%です。今後,色付きの領分はますます小さくなるでしょう。

 浪人生の比重も,大学受験の変容を可視化する際の注目ポイントになります。その減少は,競争が緩和されていることの表現に他なりません。

 しかるに,大学入学者は一枚岩の存在にあらず。いろいろな学部がありますし,設置主体(国立,公立,私立)の違いもあるでしょう。ちょっと思いを馳せれば分かりますが,現在でも,競争が激しい学部はあります。たとえば,安い費用で医者になれる国立の医学部などは,今でも激戦であると思われます。

 最近の入学者の組成を,細かい学部別にみてみましょう。私は,2014年春の入学者の浪人経由者比率(以下,浪人生率)を,569学部について明らかにしてみました。この年の春に入学者がいた学部です。

 なお同じ学部でも,設置主体によって難易度は異なりますので,国立・公立・私立は別個に計算しました。上記の569学部の中には,文学部でしたら,国・公・私立の文学部が別個に含まれています。

 下に掲げるのは,569学部の入学性の浪人生率の分布です。5%刻みのヒストグラムにしてみました。


 広く分布していますねえ。569学部の平均値は12.2%ですが,浪人生比率が6割や7割を超える難関学部もあります。マックスは75.1%です。

 しかしこうした学部は数の上ではごく少数で,569学部のうち309学部(54.3%)が,浪人生率1割未満となっています。裏返すと,現役率9割超の「楽勝」学部ということになりましょうか。色分けをみると,その多くが私立なり。それに比して国立は難関のようで,上のほうに多く分布しています。

 分布の素性を知っていただいたところで,浪人生率が高い難関学部と,その逆の楽勝学部の顔ぶれをご覧に入れましょう。まずは前者です。浪人生率が3割を超える,41の学部です。


 浪人生率が75%(4分の3)にもなる最難関学部は,国立の美術学部です。具体的にいうと東京芸大ですが,ここの入試の難しさはよく知られていること。東大以上でしょう。

 その次は私立の医学部で,ほか歯学部など,上位には医療系の学部が食い込んでいます。入学生の半分以上が浪人経由者です。国立の医学部が意外に低いのは,医学科とは別の看護学科などの比重が高いためかもしれません。

 以上は,大学受験競争が緩くなっている今でも,熾烈な競争を極めている学部です。しかるに上記のヒストグラムで分かるように,この手の学部は数の上では少数派。昨今のマジョリティは,ゆるゆるのフリーパス状態の学部です。

 その顔ぶれを見ていただきましょう。以下に掲げるのは,入学者の浪人生率が1%未満の学部,つまりほぼ全てが現役生という学部です(その数,29学部)。


 見事に全部私立で,今流行りの「2文字組み合わせ」の学部名が並んでいます。青字は,入学者の全員が現役生という学部です。

 いずれも,定員割れが著しい,偏差値の低い私大と思われます。入試はほぼフリーパス。面接で志願者が合意すれば合格という「アグリーメント入試」,あれどの学部でやってるんでしたっけ・・・。

 大学入試競争は緩和されてきていますが,全体から下って,細かい部分(学部)ごとにみると,多様な様相がみえてくる。今回お見せした,学部別の浪人生率の分布は,その「見える化」です。全体だけをみて,事を語るなかれ。

 公的統計資料による,最近の大学入試状況の解剖作業でした。

2016年9月19日月曜日

読売新聞『大学の実力 2017』分析②

 分析第二弾です。予告通り,入学者の一般入試経由率が学部の入試偏差値によってどう変異するかを明らかにしてみようと思います。

 18歳人口の減少により,私大の4割が定員割れしている状況ですが,下位ランクの大学の中にはもう,なりふり構わず学生獲得に走っている大学もあるでしょう。志願者が入学に合意すれば合格という「アグリーメント入試」をやっている大学もあるといいます。

 首都圏私大の文系学部を例に,現実を可視化してみましょう。

 この作業は前に,埼玉県内の私立大学を分析対象としてやったことがありますが,ここでは首都圏(1都3県)に射程を広げます。また,人文・社会系の学部というように,対象を限定します。こうすことで,専攻の影響を除くことができるでしょう。

 このほど刊行された読売新聞『大学の実力2017』には,今年春の入学者総数と一般入試経由の入学者数が,各大学の学部別に掲載されています。首都圏私大の人文・社会系学部でみると,両方のデータが分かるのは281学部です。

 この281学部の入学者総数は12万3996人で,そのうち一般入試を経た入った者は6万3381人となっています。一般入試経由率は,後者を前者で除して51.1%,ちょうど半分です。逆にいうと,残りの半分は一般入試を経ていないことになります。

 今では,首都圏の私大文系学部の半分が,一般入試以外のAO入試とかで入っていると。地方では,おそらくもっと多いでしょうね。

 これは全体の値ですが,入試偏差値別にみるとどうなるか。分析対象の281学部を偏差値に依拠して5つの群に仕分けし,今年春の入学者の一般入試経由率を出してみました。


 入学者総数は,A群で最も多いですね。マンモス私大が多いためでしょう。入学者の一般入試経由率は,予想通り,偏差値群によって違っています。下に行くほど低くなる,リニアな傾向です。

 偏差値60以上のA群では61.6%ですが,45未満のE群ではわずか27.8%なり。7割以上が,学力を問う一般入試を経ないで入ってきていると。

 上表のデータをグラフにしましょう。横幅の大小で群ごとの入学者数を表現した,モザイク図にします。


 先ほど述べたように,A群にはマンモス私大が多いので,入学者数ではこの群が最も多くなっています(横幅)。

 色付きは一般入試の経て入った者の領分ですが,A群でも,残りの4割は一般入試以外なんですね。まあ,付属学校からの推薦組とかでしょう。有力私大は,こうしたエスカレーター組が多し。

 これが,ユニバーサル化した大学の入試の「今」です。今後,ますます白色の領分は大きくなることでしょう。それに伴い,リメディアル教育などが重要になってくる。初年次教育学会なる学会もあるようで,大学に入って間もない新入生のカリキュラムについて,活発な議論がされている模様です。

 私は,上図でいうE群の大学で6年間教えた経験がありますが,それを踏まえて,思うところはあります。それは,冒頭のリンク先記事で申しています。偏見丸出しの考えに聞こえるでしょうが,興味ある方はお読みくださいませ。

2016年9月18日日曜日

読売新聞『大学の実力 2017』分析①

 一昨日(16日)に表記の資料が刊行され,早速アマゾンで取り寄せました。
http://www.chuko.co.jp/tanko/2016/09/004890.html


 全国の大学を対象に毎年実施される,国内最大規模の調査です。回答率も年々上がっており,今年は全国の国公私立大学の91%が回答したそうです。

 この調査に回答していない残りの1割弱の大学は,行ってはいけない「ヤバい」大学ということになるでしょうね。退学率などの情報を出したくない,ということですから。去年の報告書のあとがきに書いていましたが,都合の悪いデータも含め,情報をちゃんと出すかどうかは,当該の大学がどれほど誠実かを見極める指標になります。

 ちなみにこの本の売り上げは,被災地復興を担う学生の奨学金に充てられるそうです。買っちゃいましょう。

 さて私は,毎年この調査のデータの分析をしており,今年もそれをしようと思います。本を開くと例年通り,各大学の学部別に,いろいろなデータが掲載されています。「おや」と思ったのは,今年から調査対象の学部が専攻別に分けられています。文学,社会科学,理学・・・というように。

 これはありがたい。私は前から,文系(人文・社会系)の学部に絞った分析をしたいと思っていたのですが,それが可能になります。今年は,首都圏(1都3県)の私立大学の人文・社会系学部を分析対象とします。その数,297学部なり。

 分析の第一弾では,各学部の正規職員就職率退学率に注目します。この値が,入試偏差値とどう関連しているか。まあ,結果は予想できますが,データでしっかりと可視化してみるのもいいでしょう。首都圏の私大の文系学部に限った分析をできるのも,ありがたい。

 私は下記サイトを参照し,分析対象の学部の入試偏差値を調べました。偏差値が分かったのは,294学部です。この294学部を偏差値に基づいて群分けしました。偏差値45未満が92学部,45以上50未満が60学部,50以上55未満が49学部,55以上60未満が37学部,60以上が55学部,という具合です。
http://daigakujyuken2.boy.jp/kantoken.html

 この5つの群ごとに,正規就職率と退学率の平均値(average)を計算しました。双方とも,原資料に計算済みの数値が学部別に掲載されています。

 正規就職率は,2016年春の卒業生の正規職員就職者数が,4年前の2012年春入学者の何%かです。退学率は,2012年入学者のうち,今年春の卒業までに何%が退学したかです。当該の学部に入った者のうち,4年後の卒業時に何%が正社員になれるか,何%が中途で退学するか。こういう指標です。

 下表は,5つの偏差値群ごとの平均値です。


 どうでしょう。予想通り,正規就職率と退学率は,大学ランクときれいに相関しています。正規就職率の平均値は,偏差値45未満のE群では60.1%ですが,60以上のA群では70.5%です。

 A群の大学では,大学院への進学者が多いでしょうから,この層を分母から除外した就職率の平均値は,もっと高くなると思われます。

 退学率もきれいに相関しています。E群では16.4%ですが,偏差値が上がるにつれて平均値はリニアに下がり,A群ではわずか2.9%であると。上表の傾向をグラフにすると,以下のようになります。


 オーソドックスな折れ線グラフですが,退学率は傾斜が大きい。正規就職率も,進学者を分母から除いた場合の率であれば,5つの群の間の差はもっと大きくなるでしょう。

 これで終わりでは芸がないので,あと一つ,やや凝ったグラフを作ってみました。横幅の大小で,5つの群の量の比重を表現しています。各群の学部数(上表)に基づく比重です。


 学部の数の上では,最下層のE群が最も多くなっています。ユニバーサル化した日本の大学教育は,下が厚いピラミッド型になっている点にも注意が要ります。

 誰もが肌で感じている現実の可視化です。首都圏,私大の人文・社会系学部に限ったデータであるのもミソです。地域性や専攻の影響は除外されています。

 レポートの第2弾では,一般入試の経由率が偏差値群でどう違うかをみてみます。次回になるかどうかは分かりませんが。

2016年9月16日金曜日

OECD 「Education at a Glance 2016」

 本日,表記の資料が公表されました。OECDの教育白書で,教育の国際比較のデータが数多く載っています。

 この資料のファインディングスについて,いろいろ報じられていますが,日本の教育費構造の特異性(異常性)に言及した記事が多いようです。私が目を通したのは,以下の2本(いずれも本日付)です。

・「教育への公的支出,日本なお低水準 13年OECD調べ」日本経済新聞
・「日本の大学私費負担,OECD平均の2倍超える」読売新聞

 最初の日経記事によると,日本の教育費支出額の対GDP比は3.2%で,OECD加盟国中下から2位だそうです。その影響か,日本の高等教育費用の64.8%は私費(家計負担)で賄われているとのこと(読売記事)。後者は,大学のバカ高の学費を説明してくれます。

 まあ,以前から言われていることで,新しい知見ではないですが,最新の2013年データでもこうであり,「相変わらずだな」という印象です。

 私は,この手の報道に接すると,原資料にて詳細なデータを確認したくなります。タイトルの資料に当たって,上記の2本の記事で使われたデータを揃えてみました。 「Education at a Glance 2016」ですが,下記サイトにて,全文のPDFを無償でダウンロードできます。エクセルファイルのデータも呼び出すことができ,入力の手間も要りません。ありがたや。

 先の2本の記事で使われている国際データは,下表のとおりです。


 日本は,公的教育支出の対GDP比が低く,高等教育支出の私費負担率が高い。前者は32位(下から2番目),後者は2位です。

 その対極はノルウェーで,高等教育費の私費割合はたった4.0%です。なるほど,この北欧国では大学の授業料がタダなわけですな。

 上表のデータをグラフにすることで,教育費構造のタイプを可視化することができます。横軸に公的教育支出の対GDP比,縦軸に高等教育費の私費割合をとった座標上に,両方のデータがある32か国を配置すると,下図のようになります。


 右下にあるのは,教育の公的支出が多く,国民(家計)の費用負担が軽い社会です。北欧国が固まっています。

 左上はその逆で,政府が教育にカネを使わず,負担が個々の家庭に押し付けられる社会。悲しいかな,その典型は日本です。大学生の親御さんは,「何でこんなに学費が高いんだ」と嘆いておられるでしょうが,上記のグラフをご覧になれば,事情をお察しいただけると存じます。大学教員が,べらぼうに高い給料をもらっているからではありません。

 前にニューズウィーク記事で書きましたが,こういう構造にもかかわらず,日本国民は「家庭の富裕度に関係なく,頑張れば成功できる」イデオロギーを持っているのも恐ろしい。大学の学費が無償の北欧なら,こういう意識が生まれるのも分かるのですが・・・。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/05/post-5055_2.php

 日本の「私」依存型の教育は,少子化や未婚化という,社会の維持・存続に関わる問題を引き起こしています。後者は,奨学金返済が足かせになり,若者の結婚が阻まれる,というようなことです。

 このグラフを拡大して国会の壁に貼り,為政者の皆さんには,「国民に負担を強いる構造を変えよう」という決意を,絶えず新たにしてほしいと思います。

 最後にもう一つ。新聞記事で報じられるデータを,原資料から再現させるという作業を,調査法の授業で学生さんにやらせるのもいいかな,と思います。他者の研究成果の追試(test)も,調査の一角を構成します。今後の授業立案のメモとして。