2017年11月14日火曜日

労働時間と知的好奇心

 OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」のローデータ分析にのめり込んでいます。

 パソコンのメモリを16GBに増やしたのを機に,全対象国(31か国)のデータを接合した,コンプリート版のデータベースを作りました。エクセルに落とすと260MBにもなります。
http://www.oecd.org/skills/piaac/publicdataandanalysis/

 この調査は成人の学力調査ですが,各国の成人の生活状況や学びについても調べています。明らかにできることはいろいろありますが,そうですねえ。「働き方改革」がいわれる,昨今のわが国の状況にかんがみ,労働時間の国際比較をやってみましょうか。

 高齢者やパートも含めた全就業者ではなく,働き盛りのフルタイム就業者に絞った比較をしましょう。上記調査はサンプルが多いので,こういう統制も十分可能です。*WVS(世界価値観調査)やISSPでも,この手のデータは作れますが,サンプルが少なく,傾向が安定しないのが難点でした。

 上記調査のローデータをもとに,25か国について,30~40代のフルタイム就業者の週間就業時間分布を明らかにしました。下図は,日本とノルウェーの比較です。大雑把な4カテゴリーの内訳(%)にしています。


 同じ働き盛りのフルタイム労働者ですが,違うものですねえ。わが国の法定の週間就業時間は40時間(8時間×5日)ですが,ノルウェーでは,半分以上がこれを下回っています。

 予想通り,長時間労働は日本のほうがずっと多くなっています。4割が週50時間以上,6人に1人が週60時間(1日12時間)以上働いています。ノルウェーでは,こんな働き方をしている労働者はごくわずかです。ICTの先進国ですが,こういう技術を活用して,生産性を高めているのでしょう。

 平均をとると,日本の1405人の週間平均就業時間は46.7時間,ノルウェーは40.4時間となります。6.3時間の差です。

 他国はどうでしょう。下図は,25か国を高い順に並べたランキングです。アメリカとドイツは年齢を訊いていないので,分析対象に含めていないことを申し添えます。


 トップはトルコで,その次は韓国,日本は3位です。4位にギリシャがきていますが,これはちょっと意外。まあ偏見は持たず,客観的な数値として受け入れましょう。

 下の方をみると,働き盛りの労働時間が最も短いのは,先ほど比べたノルウェー。その次はデンマークで,その上はフランスです。分かるような気がしますね。

 ここにて,25か国について,働き盛りのフルタイム労働者の仕事時間を出したのですが,これを,前回取り上げた知的好奇心と関連づけてみると,興味深い事実が浮かび上がります。

 知的好奇心のレベルは,「新しいことを学ぶのが好きだ」という項目に対し,「非常によく当てはまる」ないしは「よく当てはまる」と答えた人の割合で測ります。

 横軸に週間の平均就業時間,縦軸に知的好奇心をとった座標上に,25か国を配置すると,以下のような布置図になります。両軸とも,30~40代のフルタイム就業者のデータです。


 働き盛りの労働時間と知的好奇心の相関図ですが,いかがでしょう。右下がりの配置で,仕事時間が長い国ほど,知的好奇心が低いという,負の相関関係が見受けられます。相関係数は,-0.7064です。

 うーん,長時間労働は知的好奇心を枯らす,ということでしょうか。あまりの長時間労働だと,新しいことへの興味,未知のことを吸収しようという意欲も萎える。十分,あり得ることです。

 そもそも,学びを可能ならしめる一番の資本は「ヒマ」です。学校(スクール)の語源が,閑暇(スコレー)であることは,よく知られています。長時間労働は,学びを時間的に不可能ならしめると同時に,その意欲も奪ってしまうでしょう。

 前回述べたように,変動社会では,知的好奇心を枯らすことなく,絶えず学び続けることが不可欠。そのことで,斬新なイノベーションも生まれてきます。上記の傾向が因果関係の面を含んでいるとしたら,長時間労働は早急に是正すべしという,強い提言につながりますね。

 しかし,上図の傾向が相関関係の表現と断定はできません。2つの変数には,共通の背因(根)があるかもしれません。もしかすると,双方とも,子ども期の学校教育の影響によるかもしれませんね。

 わが国の学校教育では,長時間労働を厭わない精神が子どもに植え付けられるでしょう(教師がそのモデルになっている!)。また,受験主義の詰め込み教育ですので,学びとは苦痛だ,勉強は楽しくない,という思い込みも刻みこまれるでしょう。お隣の韓国も然り。しかるに,対極の北欧諸国では,その度合いが薄いと。

 だとしたら,学校教育の在り方の問題になります。折しも,今年春に公示された新学習指導要領では,こうした弊を克服する方向が示されています。子どもの能動的な学びを重視する「アクティブ・ラーニング」がキーワードです。

 ともあれ,知的好奇心という変数を切り口に据えると,わが国の職業社会や学校の病理が浮かび上がってくるようで,興味深い思いがします。

2017年11月12日日曜日

成人の知的好奇心と学生比率

 歯の再手術で入院したこともあり,ブログの更新が滞ってしまいました。

 入院の前日にデスクトップパソコンを秋葉原に送り,メモリを8GBから16GBに増やしてもらいました。依頼したのは,パソコン工房秋葉原サポートセンターです。「安い・早い・誠実」の3拍子がそろった,おススメのお店です。
https://pc-support.unitcom.co.jp/contents/shop/akihabara_support.php

 私は,国際調査のローデータをよく分析しますが,容量がべらぼうに大きいファイルもあります。「PISA 2015」などは,73か国52万人のデータが入ってますので,エクセルに落とすと240MBにもなります。

 8Gでも何とかなりますが,動作が不安定化します。「エクセルは応答していません」というフリーズ状態になるのもしばしば。ユーチューブの動画を並行してかけるのは,まずNGです。しかし16Gに増やしてからは,こういう弊はなくなりました。

 昨日は,OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」について,各国のローデータを一つのファイルに集約する作業に没頭しました。データの容量があまりに大きいため,当局のダウンロードサイトでは,ファイルが国ごとに分割されているのですが,それらを接合したわけです。31か国分で260MBにもなりましたが,パワーアップしたパソコンでは,こういう超大規模ファイルのデータも快適に処理できます。

 これで,「PIAAC 2012」のローデータも存分にしゃぶり尽くすことができます。手始めに以下の2つの作品をつくり,ツイッターで発信したところ,見てくださる方が多いようですので,ブログにも載せましょう。

 1)30~40代の知的好奇心と学生比率
 2)年齢別の知的好奇心の日瑞比較

 1)は,働き盛りの年齢層に限定した国際比較です。「PIAAC 2012」の対象は16~65歳ですが,この幅広い層(成人全体)をひっくるめるのではなく,働き盛りの層に絞ってみました。

 知的好奇心とは,「新しいことを学ぶのは好きだ」という項目に,自分は「非常によく当てはまる」ないしは「よく当てはまる」と答えた者の比率です。学生比率は,分析対象の30~40代のうち,学生である者が占める割合です。こちらは,千人あたりの比率()にしています。

 横軸に知的好奇心,縦軸に学生比率をとった座標上に,データが得られる25か国を配置すると以下のようになります。


 変動が激しい社会では,学校を終えたら勉強は終わりではありません。社会に出てからも知的好奇心を枯らすことなく,絶えず新しいことを摂取し続けないといけません。

 また大学等にもう一度戻って学び直す「リカレント教育」の普及も望まれます。わが国では,閉じた企業内訓練が支配的なのですが,自分の会社だけでなく,どこでも通じる「汎用性」のあるスキルを身に付けるのは,外部の機関における学びも必要になります。職務から離れる「Off-JT」は,斬新なイノベーションを得るきっかけにもなるでしょう。

 しかるに上のグラフによると,日本はどちらも芳しくないようです。働き盛りの知的好奇心は他国と比して低く,学校で学び直している者も少ない。お隣の韓国も似た位置ですが,受験競争が激しいこれらの社会では,子ども期にかけて「勉強は苦行」という刷り込みがなされるのでしょうか。

 対極には,北欧の諸国がありますね。社会福祉のみならず,生涯学習も進んでいるようです。スウェーデン(瑞)では,学生の3分の1は社会人といいますし。

 上記の図は,働き盛りの生活条件(長時間労働)の問題と同時に,子ども期の教育の有様を問うているともいえるでしょう。

 次に,2番目のグラフです。知的好奇心ですが,加齢とともにだんだん萎んできます。これはある意味,生理現象ともいえますが,その傾斜は社会によって違いますし,Aという社会の老人のほうが,Bという社会の若者よりギラギラした好奇心を持っているケースもある。

 先ほどの散布図で対極の位置関係にある日本とスウェーデンについて,年齢別(1歳刻み)の知的好奇心のグラフをつくり,左右に並べると恐ろしい事実が判明します。


 「新しいことを学ぶのは好きだ」という項目に対する反応分布のグラフですが,日本の若者の好奇心は,スウェーデンの老人とほぼ同じであることが知られます。両国のグラフはつながっているように見えます。

 日本人は,スウェーデン人の老後を生きているような感じですねえ。

 子ども期において,知識をがむしゃらに詰め込むのではなく,学ぶのは楽しいことを分からせ,生涯にわたって自発的に学ぶ態度を養わねばなりますまい。これが,21世紀の学校のあるべき姿です。

 私は教育学を勉強する学徒ですが,子どもの教育学(ペダゴジー)よりも,大人の教育学(アンドラゴジー)に関心を持ちます。「PIAAC 2012」は,わが国の成人教育の問題点を浮き彫りにできるデータの宝庫です。

 全対象国をまとめたローデータのファイルができましたので,これを徹底的に分析し,問題提起をしていこうと思います。

2017年11月5日日曜日

年齢別の在籍学校

 年齢が分かったら,その人がどのライフステージ(教育期,仕事期,引退期…)にいるか見当がついてしまう。「エイジ」と「ステージ」が硬直的に結びついた社会。

 変動が速く,かつ人生100年の時代にあっては,こういう社会の仕組みは変えないといけない。リンダ・グラットン教授の名著『ライフ・シフト』で言われていることですが,その典型は日本でしょう。

 学校に通っている子ども・若者をとっても,年齢から当人の在籍学校は容易に言い当てることができます。7歳なら小学校,14歳なら中学校,17歳なら高校,21歳なら大学というように。

 その様は統計でも分かります。2010年の『国勢調査』では,何らかの学校に通っている通学者の在籍学校を,年齢別に集計しています。0~22歳の内訳を帯グラフにすると,以下のようになります。数値の出所は,下記リンク先の表13-1です。


 6歳,15歳,18歳といった節目の年齢を除くと,各年齢の在籍学校はほぼ一様に決まっています。7~14際の子どもは,ほぼ100%が小・中学生です。

 学校教育法で,この年齢の子ども(学齢児童・生徒)は,小・中学校への就学を義務付けられていますので,当然といえばそうなのですが。

 しかるに,諸外国ではそうではありません。内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年)では,13~29歳の生徒・学生の在籍学校を調べています。いま,13~15歳の生徒を取り出し,在籍学校の内訳を国ごとに比べてみると,下図のようになります。ローデータを加工して,独自に作成したグラフです。


 日本ではほぼ100%が中学ないしは高校ですが,諸外国はさにあらず。韓国では7.813人に1人),アメリカでは4.1%(24人に1人)が大学・大学院に籍を置いています。優れた才能を持つ者は,年齢に関係なく大学に入学できる「飛び級」の制度が普及しているのでしょう。

 日本でも飛び級の制度はありまが,「高校に一定年数以上在籍したこと」という条件なので(学校教育法90条),10代前半の青少年が大学に入ることはできません。義務教育段階では,落第もなければ飛び級もない「年齢主義」になっています。*落第の国際比較は下記記事。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/12/2012.html

 しかるに,14歳で数学検定1級をとったとか,小学校低学年で優れた文芸作品を発表したとか,幼くして才能を発揮する子どももいます。それを伸ばすことも求められるでしょう。
 
 教育,とりわけ義務教育の目的は「調和のとれた人間形成」ですが,金太郎飴のごとく,均質な「バランスのとれた」人間を育てる必要はありますまい。斬新なイノベーションが重要となる21世紀では,バランスに欠けていても,特定分野の才能がずば抜けた逸材がもっと出てきてもいい。

 堀江貴文さんが「バランスのとれた人間はつまらない」と言われていますが,言い得て妙だと思います。皆が同じ時間に出社し,同じ服を着て,同じやり方でモノを大量生産する「20世紀型」の工業社会は終わっています。

 日本の労働生産性の低さは,年齢による役割規範が強すぎること,年齢によって才能を抑えつける風潮があることとも関連しているでしょう。

 何かにつけて,わが国では年齢が問われるのですが,悪しき年齢主義を打破するには,履歴書の年齢記入欄を撤廃することから始めるのもいいかもしれませんね。履歴書に年齢記入欄を設けること,求人票に「*歳まで」と書き込むなどは,諸外国では差別以外の何物でもありません。

 少子高齢化社会,イノベーション社会では,年齢主義は排除されるべきものです。

2017年11月1日水曜日

2017年10月の教員不祥事報道

 昨日で10月は終わりでした。教員不祥事報道の整理を忘れてましたので,今日やります。先月,私がネット上で把握した不祥事報道は35件です。

 わいせつが多いのは毎月のことですが,酔って書類をなくした,他人の家に上がり込んだなど,酒がらみの事案が目立ちます。これからお酒が入る機会が多くなりますが,飲酒運転も含め,酒がらみの不祥事を起こさぬよう,注意していただきたいものです。

 今年も11月。本当に早いですね。私は来週,また立川病院に入院し,歯根端切除の再手術を受けます。ちょうどいい機会ですので,入院前日にデスクトップパソコンを秋葉原に送り,メモリを現在の8GBから16GBに増やしてもらいましょう。

 これで,PISAのローデータの超大規模ファイル(200MB!)を開いても,動作が不安定化しなくなります。私は,データ分析が生業ですので,こういう部分の投資は惜しみません。

 寒さが本格化してきました。かといって,昼になると気温が上がる。朝夕と昼の寒暖差が大きく,まいっています。体調管理には留意くださいますよう。

<2017年10月の教員不祥事報道>
中学校長 酒気帯び運転疑い 富士宮署逮捕
 (10/1,静岡新聞,静岡,中,男,57)
無免許疑い教諭逮捕 高岡で衝突、女性重体
 (10/3,北日本新聞,富山,小,男,28)
中学教諭、教え子の男子生徒に淫行疑い 部活動の遠征先で
 (10/5,沖縄タイムス,沖縄,中,男,40代)
「小学5、6年生が好き」 女児盗撮容疑で中学教諭逮捕
 (10/8,朝日,神奈川,中,男,40)
酒気帯び運転、教諭逮捕=車に追突―大阪府警
 (10/8,時事通信,大阪,中,男,35)
10代女性に乱暴疑いで教諭逮捕(10/10,NHK,北海道,高,男,34)
臨時講師 スクールセクハラで減給処分
 (10/10,大分テレビ,大分,高,男,40)
SNSで知り合った女子高生とのわいせつ動画撮影
 (10/10,産経,京都,特,男,23)
酒気帯び運転疑いで50代男性教諭摘発
 (10/11,福島民友新聞,福島,小,男,50代)
大津市で免許不更新の養護教諭採用が発覚、無効に
 (10/12,毎日,滋賀,中,女,30代)
スーパーで万引き、養護教諭に懲戒処分 愛知県教委
 (10/12,朝日,愛知,小,女,30)
「ナンパ断られ、むらむら…」強制わいせつ容疑でさいたま市立小教諭を逮捕
 (10/12,産経,埼玉,小,男,23)
横浜市立中学教諭を逮捕、路上で強制わいせつの疑い 
 (10/12,日刊スポーツ,神奈川,中,男,55)
少女の下半身をスマホで盗撮、小学教諭を懲戒処分 
 (10/13,日刊スポーツ,富山,小,男,29)
生徒の氏名入りテスト解答用紙が盗難 川口工業高の教諭が買い物中
 (10/14,埼玉新聞,埼玉,高,男,50代)
「お金もったいなかった」万引疑いで小学校教頭逮捕
 (10/16,サンスポ,北海道,小,男,48)
千円払って女子生徒に授業させる 定時制の61歳男性教諭を戒告
 (10/17,産経,東京,高,男,61)
女性スカートの中盗撮で30代教諭を懲戒免職
 (10/17,日刊スポーツ,山口,中,男,30代)
生徒にキス、高校教諭免職 教員わいせつ6人目 5年で最多
 (10/19,千葉日報,千葉,高,男,50)
酔って帰宅、あれウチじゃない? 住居侵入の校長停職
 (10/20,朝日,宮崎,中,男,59)
パチンコに負け、店の消火器壊す 沖縄県教委、中学教諭減給
 (10/20,琉球新報,沖縄,中,男,40代)
女子生徒にキスした教諭らを懲戒免職処分
 (10/20,神奈川新聞,神奈川,わいせつ:高男59,大麻所持:中男29)
万引で53歳小学教諭免職 島根県教委(10/20,産経,島根,小,男,53)
車にはねられ男性死亡 容疑の私立高校教諭を逮捕
 (10/22,埼玉新聞,埼玉,高,男,23)
教諭が盗撮した動画を削除・隠蔽容疑 校長ら書類送検
 (10/23,朝日,中,男,59,54)
運転代行で帰ったはずが飲酒運転 中学校の男性教諭を懲戒免職
 (10/24,岩手放送,岩手,中,男,53)
大分の特別支援学校で教諭が生徒に不適切指導(10/24,TBS,大分,特,女)
女子高生にわいせつ行為 臨時講師を懲戒免職
 (10/24,神戸新聞,兵庫,特,男,23)
スカート内にスマホ差し入れ 山梨、容疑の教諭逮捕
 (10/24,日経,山梨,高,男,30)
帰省先でスカート内盗撮を繰り返した小学校教諭を懲戒免職
 (10/27,産経,大阪,小,男,32)
千葉の教諭2人、うっかり失職 免許更新手続き行わず
 (10/28,産経,千葉,特女50代,中男40代)
水泳の授業中「溺れればいい」と暴言 新潟の中学教諭を減給処分
 (10/28,産経,新潟,中,男,40代)
教諭が酒酔い、テストなど紛失(10/30,神戸新聞,兵庫,小,男,53)
補習指導でスカート内にスマホ 滋賀、高校教諭を免職
 (10/31,京都新聞,滋賀,高,男,28)
懲戒処分:泥酔し暴行の男性教諭停職 横浜市教委
 (10/31,毎日,神奈川,中,男,57)

2017年10月31日火曜日

教員の教育職以外の経験年数

 OECDの国際教員調査「TALIS 2013」では,各国の中学校教員に対し,教育職以外の経験年収を尋ねています。
http://www.oecd.org/edu/school/talis.htm

 この問いに対し「0年」と答えた教員の割合は,教育職以外の経験がない教員の出現率と読むことができます。この数値を国別に出し,高い順に並べたグラフをツイッターで発信したところ,多くの方に見ていただけました。日本は79.2%で,対象国の中ではトップです。
https://twitter.com/tmaita77/status/924223243887640578

 しかるに,回答の分布にも関心が持たれるでしょう。アメリカでは,0年という教員(17.6%)よりも,10年以上という教員が33.6%と,ずっと多くなっています。この大国では,中学校教員の3人に1人が,教育職以外の仕事を10年以上経験してきているのですね。

 上記調査のローデータを加工して,ラフな4区分の分布を国ごとに出してみました。0年,1~4年,5~9年,10年以上,の4カテゴリーです。下表をご覧ください。赤字は,最頻値(Mode)です。無回答・無効回答は除いた有効回答の分布です。


 日本と同様,0年(≒経験なし)という教員が最多である国が多いですが,そうではない国もあります。メキシコとアメリカでは,10年以上という教員が最も多し。メキシコでは,4割近くにもなります。

 上表のデータをグラフにしましょう。そうですねえ。「0年」の比率と「5年以上」の比率を拾って,帯グラフにしましょうか。朝日新聞流に,中抜きのグラフにしてみました。国の配列は,0年の比率が高い順によります。


 かつてジョン・デューイは,「学校は陸の孤島である」と述べ,地域社会と学校の間に橋をかける必要があると提言しました。その中に人事交流が含まれていたか,記憶が定かでないですが,日本はそれが最も活発でない社会であるようです。

 22歳まで学生をやり,その後もずっと学校に奉職し続ける。学校の外の世界を知らない…。こういう教員が,全体の8割も占めるというのは,少しばかり怖い気がします。近年重視されているキャリア教育は,民間経験のある教員のほうが高いパフォーマンスを発揮するという説をどこかで聞いたことがありますが,そういう面もあるでしょう。

 現行の採用試験では,社会人採用の枠もありますが,これをもっと広げてもいいのではないか。もっと思い切ったことを言えば,一定年数の就業経験をもって,採用試験の受験資格にしてもいい。「学生しか経験してない私に何が教えられるのだろう?」。大学を卒業してすぐに教壇に立たされることに,戸惑いを覚えている学生もいるのでは。
https://twitter.com/kanas_office/status/924588992133083139

 ただ,現行の制度でも,民間人が教員になれる道は開かれています。にもかかわらず,現状は上記のデータのごとしというのは,教員は「ブラック」であることが知れ渡り,敬遠されているからかもしれません。待遇を改善しなければ,優秀な人材(社会人経験者)は集まらない。これは道理です。

 タイムカードや残業代という概念がない。民間の感覚からすれば驚愕するようなことが,学校ではまかり通っています。学校と外部社会の間に「橋」をかけるには,採用試験の制度改革だけでは足りないでしょう。

2017年10月28日土曜日

学用品に恵まれない子ども

 日本は,学用品に恵まれない子どもが多いそうです。
http://www.from-estonia-with-love.net/entry/pc-in-jp

 この記事によると,8つの学用品(机,パソコン,辞書,教科書…)のうち4つ未満しか家にない生徒の割合は,日本は5.6%であり,OECD加盟国の中で4位となっています。

 日本は経済大国であると同時に,子どもの貧困大国でもあるといいますが,それを象徴するデータですね。上記記事のデータソースは,OECDの「PISA 2006」です。今から10年以上前のデータですが,最近ではどうなのか。最新の「PISA 2015」のデータで追試をしてみようと思います。

 「PISA 2015」の生徒質問紙調査では,13の学用品を提示し,それぞれが家にあるかを尋ねています(Q11)。調査票の質問のスクショを掲げましょう。調査対象は,15歳の生徒です。
http://www.oecd.org/pisa/data/2015database/


 全部持っている子もいれば,2・3個しかないという子もいるでしょう。学用品に恵まれない子どもを取り出すためのラインをどこに引くべきか。「PISA 2006」では4個未満としていますが,尋ねている品目の数も違うので,この基準を流用するわけにはいきません。

 個票データを加工して,家にある個数の分布を観察することから始めましょう。13の品目全てに有効回答を寄せたのは,64か国の40万584人です(小地域は除く)。家にある学用品の個数の分布は,下表のようになっています。


 中央に山があるノーマル分布ではなく,上方に偏っています。最も多いのは10個です(13.86%)。右端の累積相対度数から,ちょうど真ん中の生徒(中央値)も10個であることが知られます。

 どうやら,10個というのがフツーの生徒であるようです。しからばその半分の5個に満たない生徒をもって,学用品に恵まれない子としましょう。上表の分布でいうと,その割合は5.37%です。

 当然,この割合は国によって大きく違っています。たとえば,メキシコでは20.30%(5人に1人)にもなります。一方,北欧のデンマークでは0.85%しかいません。

 この国際基準(13個中5個未満)を適用して,64か国の15歳生徒のうち,学用品に恵まれない子どもが何%いるかを計算してみました。下表は,高い順に並べたランキングです。


 トップはアルジェリア,2位はインドネシアです。この2国では,15歳の4人に1人が学用品剥奪状態にあるとみられます。当然ですが,上位には発展途上国が多くなっています。

 しかし,表をちょっと下がると日本が出てきます。学用品に恵まれない子どもの割合は5.23%で,64か国中17位。主要国の中では,アメリカを抜いてトップです。

 下位のほうをみると,ロシア,ラトビア,ポーランドなどがありますが,共産主義の名残りでしょうか。

 しかし,日本とアメリカが主要国の中でトップだとは…。両国はGDPが世界トップレベルの経済大国で,多くの富を有しているのですが,それが子どもの生活には届いていないと。

 上表から,OECD加盟の34か国を取り出し,各々の名目GDP額(2015年)と絡めてみると,下図のようになります。アメリカはGDPがぶっ飛んで高いので,横軸は端折っています。GDPの出所は,総務省『世界の統計2017』です。
http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm


 単純に考えれば,多くの富を持っている(GDPが高い)国ほど,学用品剥奪状態の子どもは少なくなるように思えますが,さにあらず。メキシコとトルコを除くと,プラスの相関関係すら見受けられます。

 為政者は,富が増えると使い方を誤る性を持っているのか。GDPが低くとも,原点付近の社会のほうが,子どもにとって「生きやすい」という見方ができなくもありません。

 学用品という所持の点でも,日本の子どもの「貧しい」状態が露わになりました。冒頭の品目表のうち,日本の子どもの所持率が際立って低いのは,パソコンと勉強用のソフトウェアです。これは,教育のICT化の遅れの表れですが,それが進んだ国では,こういうアイテムも必需品とみなされるのでしょう(生活保護世帯にも支給される)。

 日本も,状況は変わっていくでしょう。社会の変化に伴い,何を必需品(奢侈品)をみなすかのラインは,絶えず変えていかないといけません。

 現状でいえるのは,日本は,豊かな富と子どもの貧困を併せ持った,何とも奇妙な社会である,ということです。

2017年10月25日水曜日

労働量ベースの労働生産性

 一国の経済活動のパフォーマンスを測る指標として,労働生産性というものがあります。頻繁に聞く言葉ですが,概念を知っている人はどれほどいるでしょうか。

 労働生産性とは,就業者1人あたりのGDP額のことです。日本は,GDPの額は世界でもトップレベルですが,それを就業者数で割った労働生産性は,さほど高くありません。2014年の数値は7.3万ドルで,統計が分かる34か国中21位です(総務省統計局『世界の統計2017』)。

 しかるに,GDPを就業者数で除すだけというのは,いささか不十分な気がします。生産の費やされた労働量は,就業者数と就業時間の掛け算で決まります。厳密には,後者の要素も考慮する必要があるでしょう。私は,以下の式を適用して,各国の労働生産性を計算し直してみました。

 労働生産性 = 名目GDP額/(就業者数 × 就業時間)

 タイトルのごとく,生産に費やされた労働量ベースでみた労働生産性です。計算に必要な3つの要素は,総務省統計局『世界の統計2017』で知ることができます。

 まずは,主要国の試算結果をご覧いただきましょう。お隣の韓国は就業時間のデータが載っていないので,対象から外しました。


 日本の15歳以上の就業者は6億3770万人,週間の平均就業時間は39.3時間,2015年の名目GDP額は4兆3835億8400ドルなり。就業時間が思ったより少ないのは,女性や高齢者も含めた,全就業者のものだからです。

 上記の式に当てはめると,日本の労働量ベースの労働生産性は,1.75と算出されます(単位は度外視)。お決まりですが,欧米諸国と比して低いですね。

 ノルウェーは4.29で,日本の2.5倍近くです。費やされた労働量あたりの生産性は日本よりもずっと高し。就業者数のみを考慮した場合よりも,差が大きくなっています。それもそのはず,就業時間も違いますからね。

 では,他国はどうでしょう。a~cの3要素を知ることができた38か国について,同じやり方で,労働量ベースの労働生産性を出してみました。下図は,高い順に並べたグラフです。


 日本は,ちょうど真ん中あたりです。38か国の平均値(1.78)には及びません。うーん,就業時間も加味した労働生産性では,お気楽な働き方をするブラジルやスペインにも劣るのですねえ。

 トップは北欧のノルウェー,下位には発展途上国の諸国があります。まあ,納得がいく順位構造です。

 労働生産性が高いノルウェーについては,いろいろ言われています。ネットで検索してみると,フレックスタイム制やリモート労働制が進んでいることを強調する記事がたくさん出てきます。

 それもあるでしょうが,社会の基底的な特性に注目すると,次の3つが進んでいることが大きいと思います。1)女性の社会進出,2)ICT化,3)生涯学習化,です。女性のタレントを活かす,業務を効率ならしめるICT機器を活用する,労働者が絶えず(外部機関で)学び続ける…。いずれも,労働生産性を高めるための必須の条件でしょう。

 上記の3つの度合いを,簡単な指標で数値化し,日本とノルウェーで比べてみましょう。下表をご覧ください。BとCは,国際ランキングをツイッターで発信したところ,多くの方に興味を持っていただけました。
https://twitter.com/tmaita77/status/922404634471284737
https://twitter.com/tmaita77/status/922362605791875073


 働き盛りの女性の労働参加率は,ノルウェーのほうが高し。これは分かり切ったことですが,ICT教育の進み具合(B)は,両国では比較にならぬほど違っています。

 この指標のランキングを見た人が,「日本は未だに人海戦術依存型」とつぶやいておられましたが,少子高齢化が進む中,これがいつまでも持たないことは明らかです。

 Cは生涯学習化の指標ですが,大学等の入学者の平均年齢は,日本は18歳,ノルウェーは23歳。これは初めて入学した人に限ったもので,何回も入り直している人(リカレント学生)も含めたら,ノルウェーの平均年齢はもっと高くなるでしょう。

 変動社会では,人生の初期に学校で学んだ知識や技術などすぐに陳腐化します。絶えず学んで,最新の知識・技術を摂取しないといけません。それは企業内教育だけでは不十分で,どこでも通用する汎用性あるスキルを身に付けるには,職場を離れた外部機関(大学等)で学ぶことも必要になります。

 こうした「Off-JT」は,職業訓練とは別の効用も持っています。職場を離れた別の世界の空気を吸うことで,イノベーションのきっかけが得られる,ということです。わが国では,「閉じた」職場内訓練が支配的ですので,こういう機会が決定的に不足しています。これなども,労働生産性向上の阻害要因になっているのではないでしょうか。

 投入できるインプット(労働力量)は,ますます制限されるようになってきます。移民受け入れについて議論されていますが,インプットをひたすら増やす「人海戦術型」ではなく,労働の質を向上させる。随所で言われていることですが,できることはあるでしょう。上記の3つは,その切り口の一端です。